6-4



「な、何だと!? ラセックスの援軍三万がアルザスを守っただと!?」


 一万の兵士を率いてアルザス討伐に向かったクリード将軍は、矛を交えることもなくそのままドラゴニアに逃げ帰ってきた。


 国王は、クリードが帰ってきたと聞いて、アルザスがあまりに弱すぎて一瞬で戦いが終わったためだと思った。だが現実は違った。

 ラセックスがアルザスと同盟を結び、三万の兵を用意したため、一万の兵力しかないドラゴニアは、撤退を余儀なくされたのである。


 全ては、キバの交渉による結果だった。


「ラセックスがアルザスに三万も兵力を割けるなんて、そんなの聞いてないぞ!」


「申し訳ありません……」


 クリード将軍は平謝りする。

 だが、クリード将軍の無能は、今回の敗北には全く関係がなかった。


「あの、陛下。恐れながら申し上げます。敵にはあの軍師キバがおりまして……」


 その言葉に、ヘンリーはさらに激昂する。


「あの無能軍師が!?」


「ええ。おそらく、奴がドラゴニアの内部情報を漏らしたため、ラセックスが参戦に踏み切ったのではないでしょうか」


「無能の癖に、我々の邪魔をするとは……許せん」


「陛下。このまま奴らを野放しにはできません」


 クリードがヘンリーに言うと、ヘンリーは当然と頷いた。


「だが、今すぐ戦いを起こすには、兵士が足りないのも事実」


 と、ヘンリーはない知恵を絞って考えを巡らす。


 そして、彼にしては珍しく、最良の案を導き出した。


「そうだ! 思いついたぞ……!」


「陛下。どのようなお考えが?」


「――ギール王国と手を結ぶのだ!」


 その考えを聞いたクリードは、度肝を抜かれる。

 ギール王国は、七王国の一つで、長年敵として戦ってきたライバルだ。


 そんな奴らと手を結ぶなど、常識では考えられない……が。


 しかし、今は緊急事態。

 彼らとて塩の確保は課題であるはず。


 ならば一時的に共闘すると言うのはありえない話ではない。


「……さすが陛下!」


「我ながら妙案だ。今すぐギール王国へ使者を派遣せよ!」

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