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「ロイド男爵軍は、サバル川沿いに、アルザスへと進軍してきています!」


 リッテル辺境伯軍をほぼ無傷で撃破したアルザス軍。

 だが、休む間も無く伝令が敵襲を告げる。


「あのあたりは視界を遮る林がありません。それにロイド男爵は、辺境伯軍の敗走兵から先の戦い“側面攻撃”作戦の話は聞いているでしょう。同じ手は使えません」


 アルバートが言う。


 ロイド男爵軍の現在位置と、アルザスの塩湖とを直線で繋ぐと、その間は開けた土地が広がっている。

 いわゆるブルーノ地方である。


 この辺りは視界が良いので“基本的には”奇襲には向かない。遭遇すれば真っ向勝負になるのは間違いない。


「基本的には真っ向勝負ですが――でも作戦はあります」


 キバは地図の一点を指差す。


「この丘に布陣します」


 そこはこのあたりで唯一の高地だった。

 戦(いくさ)は高地に布陣した方が有利。それは軍を率いるものなら誰でも知る常識だ。


「ですが、こちらが有利と見られては無視されてしまうのでは? わざわざ有利な場所にいる我々に攻撃を仕掛けて来るとは限りませんから。彼らから攻撃してくれないなら、結局我々は高地を離れて追いかける必要があります」


 アルバートの疑問に、キバはすぐさま返答する。


「相手に和平交渉を持ちかけます。そしてあえて隙を見せて、無力だと思い込ませるのです。そうすれば敵は必ず戦いを挑んできます。なにせ、こちらの倍の数がいるのですからね」


「なるほど。しかし戦いになったとして、いくら高地にいるからと言って、倍の敵を相手にしては、どうしようもありません……。当然、何か作戦がおありなんですよね?」


 アルバートの疑問に、キバは力強く頷いた。


「敵の数は確かに多いです。でも、局地的にこちらの方が強い勢力を保つことはできます」

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