4-13
翌日の昼。
あたりに小雨がふりはじめた。
それこそ、キバが待ち望んでいたことだった。
「キバ殿、いよいよですな」
シフ人の大将、ベッテルハイムが言った。
「ええ、時は満ちました」
キバは立ち上がった。
そして、丘の前方、布陣しているロイド男爵軍を見渡せる位置に向かう。
「ロイド男爵!」
と、キバは腹の底から声を出して、敵軍に呼びかけた。
それまで静寂に包まれていた丘からいきなり声がしたことで、ロイド男爵軍の兵士たちの視線はキバに釘付けになった。
キバはそのまま丘の防御壁から外に出て、丘をゆっくり下り始めた。
「なにごとだ!?」
ロイド男爵はあっけに取られる。
だが、キバの狼狽した表情を見て、すぐに悟った。
――さては、和平交渉をしにきたな。
「ロイド男爵。我々は戦を望んではいません」
そう大きな声で語りかけてくるが、その声にはどこか自信のなさからくるような震えがにじみ出ていた。
「我々の方が数は少ないとはいえ、高地に布陣しています。貴殿も犠牲なしには我々に勝てないでしょう。だから、和平を結びましょう。お互いに得をする選択肢です!」
キバの言葉を聞いて、ロイド男爵はしめしめと思った。
敵は明らかに追い詰められている。
辺境伯との戦いでは奇襲で勝利したかもしれないが、林のないこの場所であのような奇襲は無理だ。そうなれば、三倍もの敵に勝てるわけがないと、諦めるのも必然。
――これは、今が好機か。
ロイド男爵は、キバに宣言した。
「我々は圧倒的優位に立っている。和平など、あり得るはずがない!」
その言葉に、キバはしぶしぶといった感じで陣へと引き返して行く。
「敵は随分疲弊していますね。これならいくら高地にいるとはいえ、楽勝なのでは」
部下がロイド男爵に進言した。
「どうやら、そのようだな」
男爵は当初、味方が合流してから攻める予定だったが、しかし状況は変わりつつある。
王都軍とリール伯爵軍は出発が遅れ、アルザス到着までまだしばらく時間がかかるらしいのだ。
それならば、単独で責めてしまった方が良い。
現時点ですでに三倍の兵力なのだ。負けるはずもない。
それに、ラセックスから援軍が来る可能性も否定はできない。それなら、有利な状況にある今のうちに責めてしまうのが良いだろう。
「よし、突撃を敢行する。一気に高地を奪還するぞ」
ロイド男爵のその言葉に、部下は力強く頷いた。
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