4-2



 キバ、エリス、ルイーズ、アルバート、ベッテルハイムは、塩湖脇の建物に集結した。

 四人が集合したところで、伝令が改めて現状を伝える。


「ジュートとノーザンアングルが同盟を結び、ジュートが三万、ノーザンアングルが三万、合計六万の軍をアルザスに向けようとしてるとの情報が入りました」


「ジュートとしては、当然の動きではありますね……。塩の配給元を抑え、その塩を餌にノーザンアングルと同盟を組み、もう一つの塩の配給地であるアルザスを狙う。そうすれば、他の七王国を圧倒できるというわけです」


 キバは平静を保ちながらそう言った。


 だが、ことは極めて重大だ。


「合計六万となれば、我々では到底太刀打ちできないぞ」


 ラセックス軍三万を率いるルイーズがそう言った。


 ラセックスの三万。

 そしてアルザス軍は、元からいた千人に、ベッテルハイムの率いるシフ人が四千。

 合計三万五千。

 現在、塩湖を守る勢力は、敵の六万に遠く及ばない。


 兵力としては、敵の半分を少し上回る程度しかいないのである。


「いくらキバ軍師でも、二倍の相手と戦うのは難しいですよね」


 アルバートが言う。

 だが、それをキバは首を振った。


「将軍。私たちが戦うのは、二倍の敵ではありません。六倍の敵です」


「……六倍? なんですと」


 その言葉に、アルバートは驚く。

 キバは、ルイーズに視線をやる。すると、ルイーズは申し訳なさそうに頷いた。


「キバの言う通りだ」


「どう言うことです?」


 キバが説明を始める。


「ジュートは北方から、ラセックスは西方からきます。もし挟み撃ちになるような事態になるならば、ラセックス軍は即時塩湖から撤退せざるをえないでしょう。勝ち目がない戦いを、ラセックス王が許すはずがありません。そうなると、我々に求められるのは、自力で、北方からくるジュート三万を倒すか、食い止めることです。それが、ラセックスが我々と同盟を継続する条件になる。違いますか?」


 キバが聞くと、ルイーズは頷いた。


「もちろん、同数の敵であれば我々も逃げはしない。だが、倍の敵と戦うのは許されない。そんな危険は冒せないからな」


すなわち、アルザス・ラセックスの連合に許されるのは、それぞれで三万の敵を迎えうって、撃破すると言うことだけ。

アルザス軍は、三万の敵を、自軍五千の兵力で相手にしなければならないのだ。


「六倍の敵を……相手に!? そんなの勝てるわけがありません!」


 アルバートの言葉は、この世の真理だった。


 長い大陸の歴史で、倍以上の敵と戦って勝った例は、少なくとも記録には残っていない。

 まして、六倍など、どうあがいても勝ち目があるはずがない。


「どうすればよいのですか……」


 エリスたちは、絶望に打ちひしがれようとしていた。


 ――だが、



「確かに六倍の敵と会戦になれば、勝ち目はありません。でも……敵が二倍なら、なんとかなるかもしれません」


 キバは言う。


「どう言うことですか?」

 

 アルバートは食い気味にキバに尋ねる。


 キバは自分の思考の正しさを再確認するために一拍おいてから――作戦を説明しはじめる。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る