4-16
全てはキバの作戦通りだった。
わざと丘を敵にとらせる。
そして、丘の下に追い詰められたふりをして会戦を挑ませる。
すると、ロイド男爵軍は、下に陣取るアルザス軍と戦うのとは別に、丘を守る兵士も必要になり、兵が分断される。せっかく手に入れた有利な高地を放棄するという選択肢は、軍人であれば取れないからだ。
そして右翼側の兵力をあえて薄くすることで上で、敵軍の主力を引きつけ、丘の兵力が薄くなった時に一気に攻勢を仕掛け、丘にいるロイド男爵を捕らえる。
つまり、キバの常套手段である、敵を分断させた上での各個撃破作戦であった。
しかし、この作戦には三つの課題があった。
一つ目の課題は、ロイド男爵が丘に兵士を多く残してしまえば、各個撃破のための「局地的に兵力が上回っている状態」が生まれないことだ。
極論、ロイド男爵が五千人の兵士を手元に残せば、アルザス軍が全軍で奇襲しても各個撃破はできない。基本的には丘の上という有利な場所にいる敵に対して、同数の敵で勝つことはできないからだ。だからとにかく丘の上に布陣するの男爵軍の兵士を少なくさせる必要があった。
二つ目の課題は、このあたりは視界が良いため、丘にアルザス軍が近づいた時点で奇襲がバレてしまうことだ。散り散りになっていた他の兵士たちが戻ってきてしまえば敵軍の方が多い以上、挟み撃ちにあってしまう。
三つ目の課題は、アルザス軍の右翼側はたった千人で、敵の主力三千、そして追加で高地からくるであろう援軍数千と戦い、時間を稼ぐ必要があるということだ。
そこで、キバはこれらの課題を解決するために、いくつか策を用意した。
まずは兵士を少なく見せかけた。
実は先の辺境伯との戦いで、アルザスの兵力はほとんど減っておらず、ほぼ五千人の兵士をそのまま温存していた。しかし、高地に布陣した時点で、二千人を丘から少し離れた場所に隠し、兵力が減っていると見せかけたのだ。
それにより、敵にアルザスの兵力を過小評価させ、兵士の振り分けを間違えさせることができた。実際、ロイド男爵は、丘に残すは兵力は千人で十分と思い、他を攻撃に回してしまった。
次に、奇襲を成功させるために利用したのが、霧である。
キバは、この丘の近辺では雨が降った日の翌朝、霧が出ることを知っていた。
だから雨が降った日の夕方に、和平交渉を持ちかけて敵を挑発、夜か翌日の朝に会戦を挑ませるように仕向けた。
これにより、隠した二千人をロイド男爵に気がつかれることなく、丘へ奇襲させることに成功したのである。
そして最後に、千人の少ない兵士で、男爵軍の主力三千に加え、高地からの援軍三千の合計六千を引きつけるための罠。
それが偽装退却だった。
機動力のあるベッテルハイム軍は、巧みに偽装退却を行い、霧の中で敵軍を翻弄し時間を稼いだのだ。
ベッテルハイム軍は完璧に統率が取れている上に、とんでもない速さで兵士を進めることができる。
一方、ロイド男爵軍の兵士は傭兵の寄せ集めに過ぎず統制が取れていなかったので、ベッテルハイムの背後を掴みきれなかったのだ。
――ロイド男爵軍は破竹の勢いで進んでいると思いきや、単に追っかけ回させられていただけなのである。
これらの結果、見事に本陣への奇襲は成功。
指導者であるロイド男爵を捕らえたことで、戦は幕を閉じたのである。
一万の敵を、巧みに翻弄したキバの圧勝だった。
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