第39話 なんでこいつが慕われてんの?ってたまにあるよね
「ここなら少しは落ち着いて話せそうだろ」
「別に話せる場所だったらどこでもいい」
「何か頼む人いるー?」
「あ、私果実水をください」
禅たちはメイクショップを後にした後、すぐ近くの喫茶店に来ていた。
オープンテラスになっているその場所はすぐ近くの通りで多くの人が通り過ぎ去る。
その人たちは通りすがりに禅たちを横目に見ながら不思議そうに眺めていた。
それは羨ましいというよりは「相変わらずバカやってんのかな?」的な目線に近かった。
それはある意味禅がこの町に溶け込んでいるという意味でもあるが、そもそも街を守った英雄が周りの人達からそう思われてるのはいかがなものか。
と、そんなことは本人にはどうでもよくさっさと話しを進めていく。
「で、ラック君のことを知りたいでいいんだっけ?」
「そう。あのいけ好かない女どもにくれてやる
「そのルビなんだか斬新だな。まあ、どんなかは知らんがメルトがそこまで言うぐらいなんだったら相当なんだろうな」
「早く話を進めろ」
「はいはい」
やや威圧気味に急かしてくるメルトを軽く受け流しながら、禅は「青鎧の王子 ラック」のことを話していく。
「まあ、出会いはごくありふれたものだよ。俺がたまたま羽ばたいてしまったお金の分を稼ごうと湖にいる主を捕まえようと森に向かった時に、大きな衝撃音が聞こえてきてさ。なんだと思ったら、そこでラック君達が二本足の恐竜......トカゲみたいなものに結構ギリギリだったみたいだったから助けた」
「そしたら、そのままお礼させてくれみたいな感じになって仲良くなった感じかな?」
「そうそう。ただ酒より美味いものはないからさ。一文無しだった俺はその日限りは特別美味いもん食ったね」
「さっき明らかに濁して言っていたのに完全に『一文無し』って言いましたね.....」
「というか、それって前に私達がお金の底をつきかけた時のことじゃない?」
禅はしれっと頬杖をついて目線を外しながら、もう片方の手で未だ気絶から目覚めないで椅子に座らされているユノの花を摘まむ。
すると、ユノは豚が泣いたような「ふがっ」という声を出すとそれに対し禅は「こいつ鼻呼吸タイプか」と謎の理解を深めていた。
「んでまあ、あの子すごいのよ。俺ってさ、酒が大好きなのにさ猛毒みたいに吐くじゃん? で、当然その時も酒を奢ってもらったから、『あれ? このまま干からびるんじゃね?』ってぐらい吐いたのよ」
「もう少し自重しようかな~? 今はまだ昼間だよ」
「それに体中の水分がなくなるほどの吐しゃ物ってもはや何」
「まあまあ、いちいちツッコんでいたらキリがないですからそのまま話を進めてもらいましょう」
ようやくこのおかしな集団の扱いに慣れてきたルルはマユラとメルトに落ち着きを促しながら、同時に禅に話を促した。
「それでどうしたんですか?」
「それでな、なんとその子、普通の人でも持ってる人は少ないというかいないといっても過言ではないエチケット袋をサッと取り出して、ここに出してくださいとか言い始めたんだよ。
その時、さすがの俺も理解したね。これがイケメンと凡人の差かと」
「「「少なくともエチケット袋の有無が差ではない」」」
禅の言葉は全員からハモった声とともに突っ込まれた。とはいえ、確かにそうだ。
イケメンがエチケット袋をもっているのが差であるならば、凡人とてエチケット袋を持ったらイケメンになれるということになる。
そんなことになれば男の誰しもがエチケット袋を携帯していることになり、顔がイケメンであってもエチケット袋を持っていなければそいつはイケメンでないことになる。
というか、そもそもエチケット袋を持ったイケメンってなんだ?
「まあまあ、少なくともそういう気遣いも出来るって言いたかったんだよ、俺は」
「いやまあ、言いたいことはわかりますけど、掘り出す話ってもっと他になかったのですか?」
「と、言われてもなぁ......後は俺が『パン買ってきて』って言うと喜んで買いに言って来てくれるし、俺がいらないからとあげるものは何であれ全てもらうし、『どこか食いに行くか』と誘うと必ずと言っていいほど先に店を予約して席を抑えてくれるぐらいの気遣いかな?」
「「(いや、それもうただの舎弟!!)」」
メルトとマユラの心の声は思わず一致した。二人は実際に顔を見たことがないのだが、イメージしていた気遣いのできるイケメンがだんだん可哀そうな存在になってきている。
そんな一方で、ルルは
その時、遠くから声がかけられた。
「あ、ゼンさーん!」
「ん? あ、ラック君」
「え、本人ですか!?」
そう言って通りから駆け足でやって来た金髪のスポーツ刈りの青年は確かにまごうことなきイケメンと呼べる均整な顔立ちをしていた。
そして、その青年はゼンの近くにやってくると「これ近くで買ってきました!」と元気よく渡す。それに対して、禅は「やっぱり気が利くなぁ」と笑いながら告げている。
その光景を見て補正がかかっているルル以外の二人メルトとマユラは気づいた。
その青年のお尻あたりから尻尾が触れている光景が幻視できることに。
故に、思う。
「「(あれは舎弟というより忠犬......)」」
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