第6話 ゲームでも下着は装備品

 突然ですがクエスチョン。現在の禅とユノはどんな格好をしていると思いますか?

 わからない? 大丈夫、別に前回の服装を思い出そうとすることも何も必要ない。

 となれば、答えは一つ。


「ねぇ、なんで私達って下着姿なんですか?」


「ゲボロロロロロロロ」


 太陽が空に昇り、街を明るく照らす中、暗い表情をするユノと近くの路地裏でゲロを吐いている禅の姿があった。

 その恰好はユノが言った通り下着一丁。それで人々が往来する場所に堂々と立っているのだから不思議である。

 いや、堂々としているのは一人だけか。


「あの、昨日の記憶が全くないんですけど」


「ゲボロロロロ」


「ちょっと吐き過ぎじゃありません? ここら一体を吐しゃ物で汚す気ですか?」


「ゲボロロ、ゲボ、ゲボロロロロ」


「なにちょっとリズミカルになってんですか。って、いうか吐いてるってことはまたお酒飲んだんですか!?」


「あ"~~~~~、朝から大声でしゃべるなって。頭に響く」


「昼ですけど」


「それにさっき答えてたじゃねぇか。昨日の記憶がないことに関しては“昨日、酒飲んだから”、そしてさっきの質問には“俺はエコロジストだから、地面に肥料を与えてるだけです”って」


「あれで会話してたの!? っていうか、ゲロで会話するってどういう神経してるんですか!? それにここは耕された土地でもなければ、ただの通り道です!」


「まあ、気にすんな。1世紀回ることろには立派な農場に生まれ変わってる」


「100年規模の未来を憂いて勝手なことしないでください。それにそうそうここは農場なんかになりませんよ。それよりも!」


 ユノは気持ち悪そうに前かがみになっている禅に声を浴びせかけるように先ほどのことについて質問した。


「お酒飲んでなんでこんな状態なんですか?」


「そりゃあ、酒飲むと人ってのは童心に帰りたくなるってもんだ。幼少期とかに薄着で冬の寒い時期でも無邪気に走り回ってた頃あるだろ? そんな感じだ」


「いや、この格好ってそれよりも童心に戻っちゃってると思うんですけど。むしろ、ほぼ赤子まで返り咲いてる気がするんですけど」


「バカヤロー、人は一皮むけて成長するんだよ。俺達もその気持ちを忘れないようにそう簡単にむけなくなった皮の代わりに、服を脱ぐという行為を得て前に進もうという気持ちを露わにしてんだ」


「いや、それ以前の問題ですよね!? 何カッコいい風にまとめてるんですか! どう考えても後ろ向きに前進してるじゃないですか! 遠い目で前向きな自分を想像してるだけじゃないですか!」


「恥ずかしがるな! 俺達はだれしも生まれた時は真っ裸まっぱだ! これが本来あるべき姿だ!」


「ここよりも文明が発達した人とは思えない暴言!? はあ、ちょっとこっちに適性がありそうな人を適当に見繕ったのは失敗だったかも......」


 ユノは隣にいるダメ人間と周囲からの視線に板挟みになり、頭を抱える。少なくとも、この格好は不味い。主に風紀的に。

 そのために、装備を買いに行かなきゃならないのは確かだが、その前になぜこうなったかは聞いとかなければならない。


「それで、お酒が原因ってのはわかりましたけど、どういう流れでこういう事に?」


「そうだな。簡単に回想を入れるとこんな感じだ」


~~~~~回想~~~~~


 昨日、マユラを助けた禅とユノは結局店からお金を盗むひろうことはせず、マユラからの謝礼で行くから貰っただけであった。

 しかし、その額が思いのほか大金で、それを増やそうと、そして負けっぱなしで終わったことのプライドの問題から再び別のカジノへゴー。

 そこで浴びるほどのお酒を仲良く飲みながら、周りの賭博師と賭けをして、負け。さらにお金をはたいて、負け。全額賭けて、負け。お金が無くなったので服を賭けて、負け。


 そして、カジノが閉店時間になるまでやって夜が明けたのが現在。


~~~~~回想終~~~~~


 禅から聞かされた事実にユノは思わず頭を抱えてしゃがみ込んだ。まさか自分も陽気になっていたとは思ってもいなかったのだろう。

 しかし、回想中にとっさに取り出した<看破の魔法>が付与された杖はその話に反応を示さなかった。つまり、嘘はついていないということで結果的に自分で自分のだらしなさを証明しただけであった。


「(あれ? ゼンさんをダメ人間って言っていますけど実は自分もなのでは? いやいや、さすがにこの人よりも大丈夫。だって、ただのゲロ製造機ですもん)」


 そう思うことで自分の心を安定。むしろ、こう思っていないとやってられない。

 そして、チラッと見る。トランクスに手を突っ込んでお尻をかいている。その間も周りに見られているのに無駄に堂々としていて、逆に勇ましい。


「(うん、大丈夫ですね!)」


 ユノは立ち上がるとゴホンと咳払いをして告げる。


「とりあえず、しばらくはお金が貯まるまでカジノはこっちから出禁しましょう。そうしないと、ゼンさんはまたカジノに走りそうですしね」


 自分のことは棚に上げるユノ。


「そして、一先ずお金を稼ぐには冒険者になるのが一番ですが......そのための登録用のお金とその冒険者ギルドを通過するための最低限の装備をしないといけないと思うんです。いや、しないといけないんです」


「そうだな。さすがに風邪引くしな」


「いや、そういう問題じゃないです。この世界の倫理的な問題です。確かに『裸にベルト巻いてるだけじゃん!』って人もいますが、さすがに下着姿とは思わないでしょう? まあ、そういう感じです」


「俺達もいけねぇかな。そういう奴らって堂々としてるから、一見ほぼ裸じゃんって思える奴もその佇まいから『あ、あの服って装備とかだったんだ』ってな。だから、俺達も堂々と下着型の装備です。主に夜戦用とかにすれば」


「いけるわけないでしょ! それに『主に夜戦用』って何!? アレですか! アレのことなんですか!」


「アレがどんなことかはわからんが、一つだけ提言しておくならば戦闘用勝負下着だ」


「やっぱエッチアレなことじゃねぇですか!」


「がばっ!」


 ユノは羞恥心と怒りを同時に抱きつつ、その思いを杖の一撃に乗せて禅の後頭部に思いっきり叩きつけた。

 そして、禅はその勢いのまま地面に顔面からダイブ。それから、顔を上げた時には鼻血を流していた。


「何すんだいきなり! 俺の大事にとっておいたファーストキス初めての相手が地面じゃねぇか!」


「その行動の意図を自分で理解も出来ないほどの愚か者なのですね。まあ、知ってましたけど。人助けは躊躇いもなくやってのけたからある程度の尊敬はあったりしたんですがね......ぺっ」


「あの~、その冷ややかな目はよしてもらえませんか? 地味に心に来るので。あれ~、俺の人望が崩れていく~」


「人望らしい人望は最初からあなたにはきっとないので安心してください。あとこれからハレンチなことは気を付けてください。純潔の女神の一人たる私が許しませんからね」


 そういって、四つん這い状態の禅を置いて歩き出そうとしたユノであったが、ふとあることを思い出し振り返る。


「そういえば、これから防具屋行きたいのですが、お金は?」


「お前の胸の中」


「は? もう一度殴られたいのですか?」


「いやいや、ほんと。マジで。信じて。『ポケットないからここでいいや』って言ったのお前だから」


 ユノはゴミを見るような目で禅を見ながら、自分のブラ越しに胸を触った。すると、何か違和感を感じた。

 そして、チラッとブラをめくり、違和感に手を突っ込んでみると――――――谷間から200ギルが出てきた。


「!」


 ユノは衝撃を受けた。それはもうすでに十分なハレンチ行為をしている自分がさらにどこぞの女航海士みたいにハレンチな行為を重ねていた


「まともな服すら買えない」


「そっちかよ」


 ――――――ということよりも、自分の持ち金がそれだけの方がショックが大きく、膝から崩れ落ちた。

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