第4話 イベントってお金稼ぎみたいなことあるよね#2

「あの、改めて助けてくれてありがとうございます」


「いえいえ、悪行を成敗するのは私達の責務のようなところですから」


「? 責務?......ああ、実績せきむか」


 場所を移動してとある宿場。そこにある料理処で禅とユノは未だ深く猫耳フードを被った少女と向かい合っていた。

 というのも、助けてくれたことに少女がお礼をしたいと申し出てきたのだ。

 そのお礼がイコールお金とは限らないが貰えるものはもらっておこう、ということで少女に案内されるままにこの場所にやって来たのだ。


 周りにはほぼ裸のようなガタイのいい戦士やら明らかに世界を超えて贔屓してるだろと思うほどのイケメン、美少女が多い。あくまで禅の基準がこの世界とズレているだけなのだが。

 見たところ種族にいろいろ違いが見受けられる。耳が尖った人や小人のようなじいさん、猫耳や犬耳やらをつけた人に人語をしゃべる動物や爬虫類など。


「(悪いスライムいるかな? 俺、スライムナイトになりたい......)」


 ただの歩くのを楽したい願望である。

 そんな禅をよそにユノが話を進めていた。


「それであなたは?」


「私はマユラと言います。それであの時、知らない言いがかりで借金の取り立てをされてて、その金額はとても払えるものでなくて......それで払えないのならその身で稼げって」


「完全な人さらいですね。町の自警団に連絡しておいて正解でした。ゼンさんが気づくのが遅ければ奴隷になってましたね」


「奴隷ね......奴隷ってこの世界では合法なのか?」


「一般的には。でも、あくまで犯罪を起こしてとかそういう人達がほとんどです。ですが、食い扶持のために身内を売ったりとか、さらわれて売られたりとか一定多数いますけど」


「なるほどな。それで? その借金の金額は?」


「1000万ギルです」


「ほう~1000万ね。ん? 1000万!?」


「一生かけても払え切れない金額ですよ。少なくとも国仕えじゃないと」


 ユノの言葉にマユラは顔を俯かせる。フードのせいで顔は良く見えないが、落ち込んでいるようだ。

 そんなマユラの様子を見て禅とユノは顔を見合わせる。そして、互いに「仕方ないな」といった顔をすると告げた。


「まあ、乗りかかった船だし手伝いますか。どうせあの3人の男を追い払ったところでまた新たなのが来そうだしね」


「そして、俺達にそのうちの数割くれればいいだけだしな」


「え? もしかして? その金額をお支払いするのを手伝ってくれるんですか!? でも、3人でも必死に稼いで何十年って額で......」


「そんな年数かけるわけねぇって」


「一日で終わらせるわ」


 禅とユノの言葉にマユラはキョトンとする。先ほどユノ自身が「一生かけても払えない」と言っていたのだ。それが3人で払え切れるとしても一体何十年かかるかどうか。

 しかし、二人はそんなマユラにわかりやすく端的な答えを与えた。


「「カジノで!」」


****


「「赤ああああああ!」」


 場所は移ってマユラが連れてきたカジノ。そこではディーラーが回しているルーレットに食い入るように見つめる禅とユノの姿があった。そして、その後ろには心配そうに見つめるマユラの姿が。

 他にもいくつもの台があり、そこらはレートとゲーム内容の違うようだ。そして、そこらに遊び出来ている富豪のような服装のものもいれば、明らかに廃人そうな人もいる。


 そして、二人の見ている台のルーレットが段々と速度を落としていくとルーレットの上で回っていたボールも失速し始める。その結果は――――――


「赤でございます」


「「ひゃっふううううぅぅぅぅ~~~~~!」」


 禅とユノはハイタッチ。倍率は賭け金の2倍だが、とりあえずこれで当たったのは5回目だ。かなり調子がいい。


「あなた、いい思い切りするわね!」


「ははは、それは勝負の女神がいてのことだ!」


 二人は勝ちに酔っているのか意気投合。ギャンブルで意気投合するほど悲しい物はないが、まあ二人の唯一の共通点がそこぐらいなので仕方ないだろう。

 しかし、これ最初の賭け金1万ギル(少女のお金)から32万まで増やした。かなりツイてるとしか言いようがない。


 そんな二人にディーラーが声をかけた。


「さらにレートの高い台がございますがどうなされますか? 最低レートが200万ギルとなりますが。ちなみに、こちらからチップをお借りするということになります」


「どうする?」


「行くしかないでしょ!」


「だよな!」


「え、え!? 本気ですか!? って、もう移動し始めてる!」


 マユラの切羽詰まった声もよそに禅とユノは高いレートの台が揃うVIPルームへと移動していく。明らかに罠じゃないかという提案にひょいひょいと乗っかっていく二人。なるほど、ダメ人間と駄女神だ。

 すると、法外なレートで遊ぶ部屋に向かって行く二人を見つめているマユラにオーナーらしき小太りの男が酔ってくる。


「ふぇっふぇ、よくやってくれたな。まさか本当にカモを連れてくるとは思わなかったが」


「あの親切なお二人には心から申し訳ないと思っています。ですが、約束は守りました。これで私の大切な友達二人は解放してくれるんでしょうね?」


「それはあなたの頑張り次第。まずは手始めにあの二人から搾れるだけ絞りつくしてこい」


「.......っ!」


 マユラは歯噛みするも何も答えずVIPルームへと入っていった。その後ろ姿を小太りのオーナーはふてぶてしく笑う。


****


「半か丁か。さあ、張った張った!」


「「丁おおおおおお!」」


「結果は~丁だ!」


「「うおおおおおお! 儲け♪ 儲け♪ 儲け♪ 儲け♪」」


 マユラが遅れてやってくると禅とユノが小躍りしていた。その顔はとってもいい笑みを浮かべている。

 生気の感じられない目をしていた禅の目は活魚のように活き活きしていて、ユノに限っては女神らしからぬラリったような顔をしていた。

 しかし、そんな二人を見てマユラは思ってしまうのだ。意図的に勝たされて喜んでいる、と。


「あの、遅れてごめんなさい。それで今一体いくらになったのですか?」


「「930万ギル」」


「きゅ......もうそんなに!?」


「ああ、でももっと稼げた方がいいよな」


「そうね。私ぐらいだと屋敷じゃ手狭だもの。それこそお城みたいな家を建てないと」


「そ、それなら、良い台がありますよ」


 マユラは騙していることに悪気を感じながらも二人を別の台に移動させていく。それは先ほどまでのが勝たせる台であれば、次は確実に負ける台だ。

 本来ならマユラがカジノで良い台を知っているという時点でおかしな話なのだが、現在進行形でヘヴン状態の二人にはなにも思わない。

 ハリボテの天使の翼で天国と言う名の地獄に叩き落されることをまだ知らない。


「あ、あの......」


 マユラは思わず立ち止まった。そして、拳を強く握りしめて告げる。


「本当にまだ続けますか? もう止めた方が良くないですか? こういうのって引き際が大事だって言うじゃないですか」


 声が少し震えていた。いや、声だけじゃない。握った拳も腕も僅かに振動を繰り返していた。

 切実とも聞き取れる声はまるで「もうこれ以上はやめてください」と言っているようなものであった。

 しかし、二人はマユラの肩にポンと手を置くとカッコつけて告げる。


「人にはな、勝負する時があるんだよ。それが今だってことはわかる。それにお前も今なにかと勝負しているんだよな? なら、任せろ。必ず勝ってみせるから」


「私は勝負の女神よ? むしろ負けることが難しいわ」


 カッコよく通り過ぎるとマユラの正面にあった台に座る。そして、その台でディーラーと勝負を始める。

 そんな二人の姿がマユラに妙にカッコよく見え――――――


「フルハウスです」


「「あ、負けた」」


 閉まらなく連勝記録が終えた。


「あの......そのポーカーの台じゃないです」


 そして、もっといえば普通に不正のない台で負けた。

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