第7話 下着が装備品なら装備品は下着
「なんですかね。その堂々とした姿は。特に無意味ですけど尊敬すら感じてきました」
「尊敬にはせめて意味を見出してくれ。それじゃあ、ただの上っ面だ」
現在、トランクス一丁の禅とどこかで拾ったボロ布で下着を隠しているユノはユノが持っている全財産200ギルで防具屋へと向かっていた。
とはいえ、200ギルで何が買えるかと問われるとそれはなんともいえないわけで......
「どうすんだ? 防具屋以外でチラッと覗いた感じでも、相場は明らかに全財産より多いぞ?」
「とはいえ、防具がないことには冒険者ギルドでも絶対にいろいろと言われますし......はあ、仕方なですね。杖を売りましょうか?」
「いいのか? それって大事なもんなんだろ?」
「時には非情な選択をしなければなりません。そうしないと、実績を作る前に私の明日がありませんから。願わくば良い人に買われて欲しいものですね。付与が付与だけに」
「お前がその選択で良いなら、俺は止めないけどな。まあ、それだけ凄いものだったら高く売れるだろう」
*****
「ビキニアーマーしか買えなかったぁ......」
「ちょっと! うちの相方が今にも号泣しそうな目で地面に四つん這いになってるんだけどいいの!? あなたには人の良心というものがないということになるけどいいの!?」
「そんなこと言われましても......」
防具屋と武器屋が一緒になっている場所を見つけてすぐに杖を鑑定してもらうと、それは安かった。
<看破の魔法>が付与されているということで、高くは評価されたけど、元が低すぎたせいで全体的に低い値段でしか買い取ってもらえなかった。
いうなれば、ひのきの棒に上位魔法を付与しているようなものの状態で、その杖についている球体も「ただの魔法球」ということで判断された。
その時の必死の形相のユノは心を痛くさせた。「この木は聖樹アベリアので!」とか「この魔法球は竜神バベルの魔道具で!」とか。そんなことを店主に縋り付いて言っていたが、あえなく撃沈。
そして、杖を売って出来たお金で変えたのがユノの赤いビキニアーマーのみ。つまるところ、禅は未だパンイチである。
「その杖を安く買い取ったなら、それなりにサービスがあったっていいだろ? なんせ、うちの相方は下着で道を闊歩するような苦行に耐えてきたんだからな。あと俺も」
「う~ん......」
「それに下着姿のまま恥じらいもせず、泣きつく姿を見ててなにも思わないのか? あと俺も。あれだぞ? 衣服を無理やり脱がされて買い取られた挙句、心無い言葉で攻め立てられたって言うからな。ドM開発されかけたって言うからな。それが嫌だったら、少しは相方にサービスしてやってくれ。あと俺も」
「わかりました。わかりましたから。店の評判を落とすようなマネはやめてください。私もそこまで鬼じゃありません。どうぞ、そこら辺に置かれている盾や剣ならお好きに選んで取っていってください」
禅のなんともセコイ脅しに思わずため息を吐いた店主は店の前に置かれている箱に刺さった剣や、壁に立てかけられている盾なんかを指さして告げる。
それを聞いた禅とユノは一度顔を見合わせると物色し始めた。
****
場所は移って冒険者ギルド。そこには様々な冒険者が集っている。職業も年齢もバラバラ。強いて言うなら、比較的戦士と若い人たちが多いというところだろうか。
そこには酒場もあってからか、一部の人は昼間になりかけている時間にもかかわらず酒を煽っている。
装備の恰好もいろいろでガッチリとした鎧のような人から、軽装備に身を包む人。そして、―――――――
「あのー、冒険者登録したいんだけど」
「その恰好でですか?」
装備すらしない人ともはや装備しているかも怪しい人だ。
その人である禅とユノは受付にいる金髪を三つ編みにしたギルド嬢キアラに奇異な目で見られていた。特に禅の方。
確かに、男性冒険者の中で露出度の高い人はいる。鍛え抜いた筋肉を自慢するためにあえて上裸の人もいる。
しかし、禅は下着だ。パンイチだ。最終防衛ラインがまざまざと露見としてしまっている。
「ん? しっかり防具はしてるだろ。ユノはビキニアーマーで。俺はトランクスアーマーで」
「トランクスアーマーって何ですか。それ下着ですよね? どこからどう見ても下着ですよね?」
「ちげぇよ。これは......ほら、アレだ。普通の人には見えない防具を着てるんだよ。特殊なやつ。透けちゃって見えちゃってるだけだって」
「さっきと言ってること違うんですけど。それにそんな防具聞いたこともないんですけど。仮にそれが透明の防具だとしたら、それは付与された類のものですよね? なら、解除して本来の防具を見せてもらえますか?」
「な、何言ってんだ恥ずかしいだろ」
「どうにも私達と恥ずかしさの基準がズレているようですけど、それって恥ずかしいのは今では? まあ、証明できないなら、相方さんだけしか登録できませんが」
「まあ、待て。防具ってアレだろ?
「そうですね。大事な
禅はおもむろにユノを持っていた盾とギルド壌から丈夫な紐をもらうといそいそと股間につけ始めた。
「ほらよ、大事な
「死ね」
「ぐばぁっ」
ついに頭が狂ったような行動に出始めた禅に隣にいたユノが持っていた剣を頭に叩きつけた。その衝撃で、禅は倒れ込んでいく。
その時のユノの明確な殺意が宿っていた。見下ろす視線は路傍の石ころを見るように無感情で、そして躊躇いもなく本気で叩きつけるのトゲトゲした気迫で。
目の前で殺人現場を見届けてしまったキアラは思わず三つ編みの髪を大きく揺らしながら後ずさり。なんてことだ。ただ普通の業務をしていただけなのに。
他の冒険者もその一部始終を見ていたのかいつしか笑い声が消えていた。
しかし、その空気はすぐに一変する。
「痛った! 何すんだ!」
「今すぐ私の盾を返してください。マグマに放り込んでドロドロに溶かして、オリハルコンとミスリルで叩き上げて、鋳型に詰めて作り直してください。私の最強の盾を返してください」
「なんか聞いたことない鉱物の名前が出て来てるんだけど!? これ普通の鉄の盾って聞いたけど! なにさも最初からそうでしたみたいにいいもんねだってんだよ! ねぇーんだよ、金が!」
「返せ......私の盾を返してよ~~~~~~~! その汚物にまみれた取っ手を私に握って使えっていうつもりですか! 嫌です! どうしてもと言うなら去勢してください!」
「人の象徴を汚物とか言うんじゃねぇ! 去勢もしねぇ! 痛いから! いくら防御値が高くても痛いものは痛いから! やめて......やめてください! ほんと剣を振り回さないでー!」
泣きながら剣を何度も叩きつけるユノ。それに対して、腕で防ぎながら耐える禅。
それは本来言い得ぬ凄惨な現場になっているはず――――――なのだが、禅はユノが加護をつけた脳筋最強なので、弱体化しているユノの剣ではほぼダメージがゼロに等しい。だから、血も出ない。
それが何を言うかというと、まるで透明の鎧を着ているようだということ。
「ほ、ほんとに透明の鎧を着ていたのですね......」
「「え?」」
目を丸くしているキアラの言葉を聞いた二人は思わず不思議な顔をして、キアラを見つつも一度顔を合わせ、もう一度見る。
そして、告げた。
「「はい、そうです」」
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