第20話 「目先の欲」の足元にあるのは大抵穴
「さて、緊急会議だ。どうやら相手は人目も気にせず殺しに来ているようだ」
「会議自体はさっきからしていましたけど、まあ確かにこれは対処しないといけませんね。ところで、まだアフロなんですか?」
「といっても、相手の素性のすの字も見つかっていない今は自衛に徹するほかないだろうね」
一先ず広めの空間がある広場へと向かってきたアフロ禅とユノ、マユラはそこで禅を確実に殺しに来ている相手に対しての話し合いを始めようとしていた。
服が吹き飛んだ禅は新しい服に着替えると警戒するように周囲を見回す。
「う~む、周りに人はいるが大体親子連れだな。もしくはリア充。爆発するのはむしろあっちじゃないのか?」
「こんな人目のつくような場所で......と言いたいところですが、先の件もありますし、警戒には越したことないでしょうね。ところで、まだアフロなんですか?」
「そもそも相手が一人とは限らないし、もっと言うなら大人とも限らない。子供のような大人であったり、本当に子どもであってもそれだけの知識があるのは脅威だよ」
「となるのと、その相手を確かめるにはフィッシングか」
「釣れるでしょうかね~。さまざまな効果のドリンクを作る技術、ターゲットのみを確実に仕留めるよう罠を張った周到さ。侮れる相手ではないと思います。ですが、相手もしぶとく醜く生きるゼンさんに痺れを切らして少し大胆になっているので、全くエサにかからない可能性はありそうですね」
「今の醜くって余計じゃない?」
「とはいえ、その場合はどういったエサが良いだろうね。露骨にゼン様一人にしていても、周囲に私達が見ていると思われてはやってこないだろうし、それにあからさまなエサに引っかかる相手かどうかもわからない」
そう言って「う~ん}と悩ませながら、ふと落ちている50ギルコインを指さし告げた。
「たとえば、そこにあるコインに飛び込むぐらいのがめつさだったらいいのに」
「「そお~~~~~い!」」
そう言って飛び込んだのは禅とユノであった。
禅とユノは我先にと落ちている貨幣を拾いに互いの邪魔をし進む。そして、同時にその貨幣に触れた。
「はいー! 今、俺が先に触れたから俺のもの!」
「いやいや、私が先に触れましたよ! 何を見てるんですか! あなたの目は節穴ですか! というか、まだアフロなんですか!」
「はっ、面白くもねぇ言い訳だな。俺、絶賛今触れてるから! この滑らかな触り心地に日に当たってちょっと温かい感じとか絶対そう!」
「ざんね~ん! それは私の指です~! というか、いい加減にいやらしい触り方するのはやめてもらえませんか!? ちょっと放してください!」
「そんな露骨な嘘に引っかかるわけねぇだろ! お前の指はもっと冷えてる! それこそ氷水に一晩手を突っ込んだような手だ! キンキンだ、キンキン! 心も冷たいお前が温かいはずがない!」
「私は女神ですよ!? 身も心もホットに決まってるじゃないですか! 献身的な愛でこんなにも暖かいのです! ほら、こうしてアフロ全裸変態露出魔となったゼンさんのそばにいるでしょ!」
「アフロは関係ねぇ! いいから放せ~~~~~!」
「嫌ですぅ~~~~~!」
二人はもはやほとんど絡み合うような状態で文句を言い続ける。そして、必死に互いの手を引き離そうと抵抗する。
するとその時、ミシミシと何かが軋むような音がした。そして、心なしか周囲の地面が盛り上がっているような気がする。
―――――――ドシャンッ
瞬間、禅とユノの寝そべっていた地面が音を立てて崩れていく。
その穴はかなり深いのか底に下りたとして、優に2メートルを超えている。なら、一度そこに落ちて跳んで戻ってくれば良いと思うが、そうもいかない理由が下にあった。
「「(何あの針山.......)」」
禅とユノは穴の途中で手足を壁に踏ん張らせてギリギリ耐えた状態から下を見た。
底にはぎっしりと生え揃った針がいくつもある。一本一本がランスの先のような太さで落ちれば腹が貫通する。
しかし、二人には何も出来ない。なぜなら落ちないように手足を穴の周囲に突っ張らせることで限界なのだから。
「おいやべーって。これまじやべーって。もう結構なりふり構わない感じで死神さんこっちに来ちゃってるって」
「やばいのはこの状況に巻き込まれてる私の方ですよ! なんで私まで死にかけなきゃいけないんですか! あ、腕がツライ......ちょっと、下まで降りてくださいよ。そのために最強にしたんですから」
「いやいや、最強でもね、絶対に死ぬわけじゃないんだよ? あの針はダメだって。お腹に風穴開いちゃうって。ほら、剣とか違って広い面積じゃないから。一点突破型って結構やばいから。ほら、爪楊枝で歯茎に挟まったものを取る時に謝って傷つけて血を出しちゃったことない? それぐらいやばいから」
「あなたのやばさの小ささはよく分かりました。大丈夫です。きっとおそらくたぶん。死んだらその時です。少なくとも私は生きたい」
「俺だって生きたいわ! あれだぞ、最強だからってメンタルも最強だと思うなよ!? 俺のハートはガラスはガラスでもミジンコの心臓のガラスだぞ! こういう俺のような人間ほど繊細に扱わないといけないんだぞ! 知ってたか? 知らなかったら知れ!」
「この状況を打破してくれたなら譲歩ぐらいはしてあげますよ。うぐ......腕がプルプルしてきた......って、そういえばマユラさんは?」
「そうだ! 俺達にはもう一人大事な(半ば強引に入ってきた)仲間がいるじゃねぇか! おーい、マユラー! 助けてくれー!」
穴の中から声かける禅に対して、マユラは目を瞑り真剣に考えるような表情で何かをぶつくさと呟いていた。
「おーい、聞こえてるかー? 助けてくれー」
「うん、必ず助けるよ。こう見えてもストーカースキルはそれほど低くないんだ。だから、魔の手から必ず救い出すよ」
「なんか変なこと聞こえたんだが......まあいい、そんなことよりも、確かにそっちも助けて欲しいんだけど。いや、ちょっとこっちに来て“すくい出して”」
「大丈夫、“救い出す”よ」
「おう、サンキュー」
その言葉を聞いた禅とユノは互いの顔を見合わせると「もう助かった」と言わんばかりにうんとうなづいた。
それから、一分。
「「......」」
それから、三分。
「「..........」」
それから、五分。
「.......あ、もう私の手足が生まれたての小鹿みたいに......」
「踏ん張れユノ! といっても、俺ももう余裕ないんだが......あのー、マユラ? ちょっと長すぎない?」
「待って、今考えてるから」
「え、そんなに考えること? ってまあ、確かにした剣山だし、俺達がこういう状況なら仕方ないよな」
それから、さらに5分。
「あ、もうだめ......」
「おい、ちょまてユノ!」
力尽きたユノを禅は咄嗟に片腕でユノを抱えるともう一方の腕で踏ん張る。
ユノの体重分だけ体が傾いてしまって正直かなりきつい。まるで限界を超えろと言っているみたいだ。
とはいえ、こうなった以上長くはもたない。
「マユラ、俺達を早く穴から出してくれ!」
「穴? あ、え? あ、穴だ」
禅が絞り出した声にマユラがようやく反応して、マユラが召喚の魔法陣から大きなスライムを呼び出し、それを針の上にセットすることで二人は事なきを得た。
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