第14話 大体意気込んだ時は失敗する

「おいおいおい、これマジでどうすんの? まさかまさかのデートするハメになっちゃったよ?」


「しつこく断っても食い下がってきましたからね。あれはマユラさん本人から見限るぐらいじゃないと諦めませんよ?」


「俺より俺のこと知ってるみたいな感じだったからな。いや、別に気にいるほど中身ないと思うよ? まあ、俺はそんな自分が嫌いじゃないけど」


「「はあ~」」


 マユラとの会話が終わり、デートの約束をして解散した現在、宿屋の自室にてもう過ぎ去ったことに対して嘆いていた。

 そして、ユノは(禅の行動が信用できないので一人部屋から二人部屋になった)自分のベッドに座るとゴロンと寝転がる。

 その一方で、禅は椅子に後ろ向きで座り脱力していた。


「ともかく、明日のデートは絶対に失敗させてください。そうしないと、マユラさんが可哀そうです。心に言えない傷を与えてしまいます」


「現在進行形で俺に癒えなくはないけど治りが悪い傷を与えてるのわかってる? とまあ、ユノの言い分は一理ある。正直、俺も誰かに縛られたりしたくねぇしな。あの子束縛強そう」


「少なくとも胆力はあるでしょうね。普通好きになった人とはいえ、すぐに一緒のベッドで寝れるかっていうとそんなわけないですし。とにもかくにも、明日は10割増しにゲスいことでマユラさんの好意を減らしてください。あなたの世界にあるギャルゲーで好感度あげるよりはよっぽど楽でしょう」


「まあ、な」


****


 翌日、時刻は午前10時頃の街の中央にある噴水広場でマユラは噴水の縁で遠くを眺めていた。そして、時折楽しそうにニヤニヤしながら、軽く足をぶらぶらと揺らしている。


「(これはこれは......逆にあんな人に初期好感度MAXって言うのが凄いですね。あんな笑みみせるのって、長年一緒に暮らしてきた妹か親交の深い幼馴染クラスですよ? 明らかに黄〇聖闘士レベルです)」


 そんなマユラをコッソリ覗くビキニアーマーが一人。ユノだ。最近周りから恰好のせいで意図せず痴女扱いされているユノであるが、今回はそんな周りの目を気にしていられない。

 なぜなら、すぐ近くに同じ一人の女性の運命が決まろうとしているのだから。


「(さて、どうやってゼンさんは来るのでしょうか。正直、デート内容の方はゼンさんに一任してあるんですよね。だって、ダメ人間だから。どうせ思考もダメ寄りでしょうし、ダメのことを考えればお手の物でしょうし。まあ、一応マユラさんのデートプランを提案したら断るようにと言ってありますが)」


「お~い。待たせたな」


「(お、来ましたね。というか、ようやくですか。集合時間に30分も遅れてくるなんて......いや、今回に限ってはそれでいいのか。ならば、出だしはバッチリです......ね!?)」


 手を振りながらノロノロと歩いてくる禅の恰好はオシャンティーに決まった星のマークが入ったトランクスを見せつけるパンイチ姿であった。まるで、カジノで負けた時のようである。

 その恰好にユノは思わず引いた。しかし、自分が引くぐらいが丁度いいと観察しているとマユラが禅に近づいていく。


「あ、禅さん。大好きおはよう。今日はいい天気で何よりだよ」


「あ、うん。おはよう」


「(あれ? 今、ルビおかしくなかった? っていうか、もっと気づくべきところありますよね? 確かにいい天気ですけど)」


「でも、ゼンさんはなんだか寒そうだね」


「(そうそう、それそれ! 寒そうじゃなくて、変態なんだけど)」


「いや、別に寒くねぇよ。すって服が無くなっただけだ。気にすんな」


「でも、そのような恰好をされてると私もなんだか寒く感じてくるので、これ着てください」


 そう言って、マユラは猫耳フード付きの上着を脱ぐとフリル付きの白のノースリーブになりながら、禅の腰に上着を巻く。


「(え、着るってそっち? まあ、大きさが合わないから上じゃ着れないって判断なのかな......)」


「いやだがよ、こんなことしなくても――――――」


「いいの。私はゼンさんがどんな格好をしようとたとえ汚物にまみれていようと優しく抱きしめる自信がある。だけど、たった一つだけ後悔することがあるの。それはそんなゼンさんに何も手を差し伸べられなかった時。だから、せめてこうさせてもらえない、かな?」


「......ああ、わかった(トクン)」


 禅はそのストレートの言葉に頬が上気する。しかし、それにユノが反応しないはずがない。


「(なんであなたが照れてるんですかああああ! それにトクンって何!? あなたは好感度を下げるためにそこにいるんでしょうが! 逆にマユラさんに好感度上げられてどうするんですか!)」


「......あ、そろそろ行くか」


「そうだね。それで一応行きたい場所とか考えてあるけど、どこかある?」


「ん? ああ、カジノだ」


「(そうですそうです。その選択肢はいいですよ。恐らくゲームでは今ので3つぐらい選択肢出てたと思いますけど、一番悪いいい選択肢ですよ)」


「いいね! ぜひ行こうう!」


「「(あっれ~~~~?)」」


 測らずとも禅とユノの反応は一緒になった。それもそのはず、二人は気づいてないのだ。

 カジノと言う場所はマユラが初めて禅に助けてもらった場所であり、いうなれば好意を抱いた大切な場所でもある。

 故に、その選択肢はマユラにとって好感度のメーターを振り切らせる力があるほどの良い選択肢であり、二人には一番悪い選択肢だったのだ。


 そして、二人はカジノに移動していく。その後をバレないようにユノもコソコソついていく。


 二人がブラックジャックのレート台に座るとユノは少し遠くのルーレット台から様子を見守る。


「(まあ、楽しそうに賭博してますね。ゼンさんは目的を忘れていないでしょうね? それにしても、マユラさんは本当にあの人のどこがいいんでしょうか。まあ、全くダメというわけじゃありませんが、少なからず日常生活ではアリの方がよっぽど働いてますよ。あれですね、ゼンさんはアリの社会にいたら積極的にサボり役に行くタイプのアリですね)」


「お客様、賭けは?」


「え? ああ、赤に5000ギルベット」


 ユノはチップを赤の方に置くとすぐに禅たちの方を見る。すると、禅とマユラは席を立ちあがり移動し始めた。


「え、ちょっ、もう移動!? ゼンさん、早すぎないですか!? あ、私もいかないと。でも、結果気になる!」


「お、赤に行きそうだぞ。いけ! いけ! いけ! いけ!」


「え、そこの人、ほんとですか!? 信じますからね! そーれ、あーか! あーか! あーか!」


 ルーレットの回転が少しずつゆっくりになり、やがてルーレットの上のボールが赤、黒、赤、黒、とゆっくり場所を移動していく。


「いけ! いけ! いけ!」


 そして、カランという気持ちのいい音ともにボールは赤に止まった。


「いやっほーーーーーー! 倍だ! 倍! 勝ったーーーーーー!......ってそうじゃない! 早く追わないと!」


 ユノは急いでチップを換金するとバビューンとカジノの外に出た。そして、辺りをキョロキョロと見回す。


「大丈夫?」


「あ~、くそ~。やっぱ飲み慣れることはねぇのか......」


 二人の声が案外近くから聞こえてきた。だから、急いで物陰に隠れて声のする方向を見る。

 すると、禅がマユラの肩を借りながら店から出てきた。あの様子はどうやら午前中から酒を飲んだらしい。

 いつもなら怒りたいところだが、今回に限ってはいい判断である。


 そして、ユノが観察していると二人はベンチに座った。しかし、ベンチから禅の姿が見えない。そのことを疑問に思ったユノは場所を変えて再び観察を始めた。


「(いや、何膝枕してもらってるんですかーーーーー! っていうか、なんというかもう雰囲気が遊び疲れた子供を寝かす母親のそれなんですけど!?)」


 すると、禅はマユラに膝枕してもらっていた。しかも、禅は気持ちよさそうに、そしてマユラは慈愛の笑みを浮かべて。

 あの男、この状況にかこつけてひたすらに甘えているだけではなかろうか。


「ならば、見せてやろう。私の女神の本気を!」

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