第8話 運の悪さは間の悪さ
「それで俺達はどんなものを探すんだっけ?」
「薬草ですよ。薬草。冒険者になりたての時はわかりやすい実績がない限り、どの冒険者も例外なくFランク冒険者らしいですから。まあ、それでコツコツ実績とお金を稼いで昇格して、早いとこ強いクエストに挑めるようにならないとですね」
「どこもそこも実績実績。まあ、そう簡単に楽できるわけじゃないよな」
「まあ、出来たとしてもカジノですっからかんにしていきそうですけど」
「人のことを言えねぇだろ」
「言えますよ。私は節度を持ってやります」
「やること自体は否定しないのな」
冒険者ギルドで無事に登録が済み、二人は早速明日を生きるためのお金を稼ぎ始めた。そのため、現在は近くの森に来ている。
ちなみに、禅は相変わらずパンイチで、ユノは丁寧に拭いた上で左手に盾、右手に剣と装備している。
「そういえばなんだけど、ここで薬草以外のものも回収したら......たとえば普通に魔物を仕留めて売れば早く実績を増やすことは出来ねぇかな? そうすれば、少しはやる気が出るんだけど」
「ゼンさんのやる気に微塵も期待はしていませんが、まあ多少見る目は変わってくれるんじゃないですか? 知らないですけど」
「なら、別々に別れた方がよくね?」
「そうですね。そうしましょう。ある程度回収出来たら森の入り口に集合ということで」
そう決めると二人はバラバラに移動していく。まあ、ぶっちゃけて言うならば禅にとってのサボるための口実なのだが。
あらかじめ調べてきた薬草の特徴を思い出し一応は辺りを見ながらのらりくらりと進んでいく。
「ん?」
背後にカサッと何かが茂みに隠れる音がした。その方向に近づいてみると角が生えたウサギがいるではないか。
それを見た禅の頭にはすぐさま方程式が。いや、方程式と言うには実におこがましい単純なウサギ→お金という式が。
つまるところ......
「お金のニオイ」
禅は目の色を変えてウサギに近づいた。すると、ウサギもその悍ましい金の亡者の気配を感じたのかバッと茂みから出て来て逃げ出す。
しかし、禅の圧倒的ステータスの前にはどんな獲物であろうと無意味。すぐさま近づいて、角を掴んで持ち上げる。
「さて、捕まえたものの。これからどうしよう。やっぱ殺しちゃうべき? いやまあ、そうだよな。そうしかないよな。生け捕りのままギルドに回収してもらうわけにはいかないよな。あ、でも動物愛護団体的なのいるかな? いたら怖いな。ここで変に行動したら俺知らず知らず前科持ちになるじゃん。あ、でも、普通にクエストとして討伐とかあるぐらいだし。いや、でもあれって、外来種の数を減らそう的なやつだったらめんどくさいな。あ~、もう少しこの世界の事情をユノから聞いて―――――いてっ」
禅が何やらウサギを見ながらぶつくさ呟いていると後頭部から鋭い痛みが。その痛みに思わず背後を振り返ると目の前に石が飛んでくる。
しかし、弾速はあまり速くない。というか、速かろうとあまり関係ないのだが、首をちょこっと傾けて飛んできた方向を見るとカウボーイが被りそうな帽子を被ったおさげの少女姿が。
その少女は腕一杯に石を抱えて、涙目で次の石を構えていた。そして、告げる。
「その子を返して!」
「......ん? 俺って悪者?」
*****
「いや~、悪かったって。ほんとに知らなかったんだよ。そのウサギがさ? お前のペットだったなんて。ほら、何かあげる......ものは何もねぇや。あー、どうしよ」
森の中にあるとある川岸で禅とその少女ヤユイは隣同士で座っていた。絵面で言えばパンイチの成人男性に小学生ぐらいの少女だ......犯罪臭が絶えない。
そして、禅は必死に先ほどのウサギを抱えて泣いている少女に謝っているが、うんともすんとも答えてくれない。
そのことに思わず頭を抱えている。
するとしばらくして、少女は口を開いた。
「おじさんはどうしてそんな格好してるの?」
「ようやく口を開いてくれたと思ったらそこか.......まあ、会話の糸口とすれば丁度いいか。そうだな、人には一度ぐらい解放的な気分になりたい時があるんだ。ほら、森ってマイナスイオン感じるとかいうだろ?」
「まいなすいおん?」
「あ~、要するに自然と一体化するような感じだ」
「恥ずかしくないの?」
「恥ずかしさはカジノと一緒にすってきた。あとな、他に大事な理由があるとすれば、服の偉大さを身に染みて感じることだ。ほら、いつも当たり前みたいに服を着てるけどさ、大昔は俺のような状態だったわけでな。一度身をもって体感することで、服の偉大さを実感するんだ。ちなみに、よい子はマネしちゃいけないぞ。おじさんは......ほら、今のところ捨てるものないから。自分で言ってて悲しくなるな」
「......」
「やめて。そんな悲しそうな目で見ないで。おじさんのハートは意外と繊細なの。ガラスをさらに加工したような特殊工芸品で出来てるから。ちょっとした傷ですぐに大きくヒビ入るから。ウサギもそんな目でおじさんを見るな。同情を見せるな」
「私の上着あげようか?」
「ありがとう。でも、気持ちだけな。受け取った瞬間、俺の何かが足元から崩れ落ちそうになるから。もう取り返しのつかない奈落に落ちそうになるから。気持ちだけな」
禅は幼い少女に同情されたということに少し悲しいため息を吐きながらも、軽くリラックスしたような体勢で聞いた。
「それでお前さん――――――」
「ヤユイ」
「......ヤユイはさ、ここで何やってるの? 散歩? にしては、この森で一人はちと危ない気がするがな」
「大丈夫。ここ最近、ゴブリンとか魔物の姿が見えて無いから。だから、最近は安全なの。だから、マリンと一緒にお出かけしていたの」
「......そんな楽しそうな面には見えねぇがな」
禅が横目で見るヤユイの姿は懐にウサギのマリンを抱えたまま悲しそうな目をしていた。それは当然、先ほどの禅に対する目とは全く別の意味で。
その言葉に対して、ヤユイはポツリポツリと言葉を告げた。
「お母さんとケンカしたの。私はお父さんが好きで、一度一緒についていったクエストでカッコよくて、冒険者になりたいと思って。でも、お母さんはそれに反対して。最初は我慢してたけど、気持ちが抑えきれずに一緒に山菜取りしている時に“冒険したい”って抜け出して。そして、日当たりのいい場所でお昼寝してたら気づいたらここに来てて」
「そっか。まあ、小さい頃にはありがちな気持ちかもな。だけど、自分が思っていたよりも、甘くなかったってわかったってことだな?」
ヤユイはコクリとうなづく。ハッキリと言葉にしたせいか、寂しいやら怖いやらの気持ちが溢れて今にも泣きだしそうに目をうるうるさせている。
そんなヤユイの頭にそっと手を置くと帽子を軽く前にずらした。そして、立ち上がる。
「まあ、ここで出会ったのも何かの縁だ。なあ、ヤユイは薬草見つけるの得意か?」
ヤユイはコクリとうなづく。それを見て告げた。
「それじゃあ、俺と一緒に薬草集め&母親探しのクエストしようじゃないか」
「!」
ヤユイはビクッとして禅を見る。そして、目が合うと二カッと泣きながらも笑っていた。
「よし、決まりだ。立てるか?」
「......うん」
禅が手を差し出すとヤユイはその手を掴み、引っ張り上げてもらう。
そして、いざ出発と行ったときに背後からガサッと何かが落ちる音がして振り向く。
「しょ、少女誘拐.......」
半分ほど薬草が入った加護を落としたユノの姿であった。ユノは「ついに、ついにやった」とでも言いたげな顔でわなわなと震えている。
そんなユノを見て禅はニコッとした顔をするとヤユイに告げた。
「予定変更。先にまず目の前の女神を討伐する。準備はいいか!」
「え、え!?」
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