第19話 明らかに仕込まれてますよね?
「なあ、最近俺の周りでなんか起こるんだけど知らない?」
「なんかって何ですか......まあ、私達以外のところでやたら滅たらボロボロになって帰ってきますから。とはいえ、こっちの身にもなってくださいよ。社会的変態さん」
「待て、それは俺の故意じゃない。なるべくしてなった姿だ。俺がそこまでの変態に見えるか?」
「私はゼン様がどんなに周囲から汚物を見るような目で見られても愛せる自信があるよ!」
「素敵な宣言ありがとう。だが、求めてるのはその言葉じゃないんだ。もっと擁護してくれるフォローが欲しかった。それじゃあ、遠回しに俺のことをそう言う目で見てるってことになっちゃうから」
「なっちゃうというかなってるんですよ。過去形で。夜中に酔っぱらって周囲に
「確かに事実だ。それは、その情報はまぎれもなく事実だ、だが、真実がそれとは限らないって話だ。あれだ、もう少しパーティの仲間を信用しようぜってことだ。全く説得力ないけど」
「自覚してるなら言わないでください」
「私はどんな社会的ゴミでも愛せる自信があるよ!」
「もはやそれは別の意味でおかしいのでぜひともやめましょうか、マユラさん」
一旦話が区切れ禅とユノは思わずダバーッとため息を吐いた。二人とも悩んでいることに大きな違いがあれど、困っていることは確かなのだ。
「それで困ってることってなんですか? もう既にあなたの痴態は聞きましたけど」
「もう既に聞く気ないよね、それ。あのな、もう一度言うが――――――」
「サービスです」
その時、一人の店員が禅の前にコップを置いた。しかし、そのコップの中身は明らかにおかしく、紫色をしていてグツグツと何かが煮えている。
そんな明らかに飲んではいけないしろものを禅は気にすることもなく口に入れようとする。
「どうも。ああもう、なんか言葉が出てこないな。一旦頭の中スッキリさせよう」
「いやいや、なにあっさりスルーしてるんですか!? なんですかその得体の知れない液体の入ったコップは!?」
「この店とは懇意にさせてもらってるからわかるけど、新作とか出してないよ......」
とはいえ、その謎の液体Xを見かねたユノとマユラが止めるはずもなく、禅は飲むのをやめるとそれを机に置いた。
「あー、なんか最近雇われたとかいう子が俺が来ると定期的に置いてくるんだよ。まあ、きっとあれだな、シャイな子だな。こう新作を作ってみたけど、誰かに味見してもらわなきゃいけないわけだし。そのためかこういう風に“サービス”と称して送ってくるんだよ」
「私の知る限りのシャイな子はそんな見た目劇物をサラッと渡していかないですけどね」
「それにそのコップの液体のグツグツが激しくなってない?」
マユラの指摘に二人はそのコップに注目してみるとぷくっぷくっと気泡を膨らませては弾けさせる液体が段々とその数とテンポを増やしていく。
そして、やがてジュワーとコップを溶かしながら机に広がるとさらに机の木もシュワ~~~と溶けて煙を放ち始めた。
その光景に三人は唖然。まあ、当然と言えば当然の結果だ。
「あ~、溶けたな」
「溶けましたね」
「溶けたね」
「「「.......」」」
「あ~、これはもしかして溶けるタイプのやつか?」
「溶けるタイプって何!? 固体のものが液体に溶けるとかじゃなくて、液体が別の固形物溶かしちゃってますけど!?」
「実はな、このタイプは見るの初めてなんだよ。最初は赤で、その次青で、その次は黄色で、緑もあったかな? んで、この紫。早めに一気に飲むよう推奨されてたけど、もしかしてこれか~」
「もはや見た目も中身も劇物であったのにそれを目の前にして冷静な反応。ときめきポイントが一上がったよ」
「マユラさんもマユラさんで何言ってるんですか? 現状の時点でメーター振り切ってるときめきに一体どこまでステ振りするつもりですか。って、そうじゃなくてなんでそんな冷静なんですか!?」
「いうやま、毒の調合とかで時々こうなるし......」
「ああ、そういえばマユラさんは魔女でしたね。それは納得.......できない! え、毒!? 毒が盛られてたってことですか!? それを平気でゼンさんは飲もうと......確かに加護で適正もってるといえ......ゼンさん、ちなみに他の色の時の症状は?」
「えーっと、赤は体が猛烈に一瞬熱くなって、青は逆に寒くなって、黄色は痺れて、緑は何だろ? 喉が焼けるような感じは少ししたと思う」
「(火傷、氷、麻痺、腐食......全部バッドステータス!!)」
ユノは禅からポロポロと告げられる衝撃的な事実に思わず開いた口が塞がらない。
確かに、確かに加護でバッドステータスにはかからないが、それでも明らかにおかしい色をしたものを飲むか? コイツバカか? .......あ、バカだったな。うん、忘れてた。
とはいえ、さすがにこの話を聞くと禅がこれまで話してきた内容が無視できなくなったユノ。
仲間である自分達がいて堂々と劇物で暗殺しようとしてきたのだ。もっとも明らかに飲んじゃまずいものを出すあたり、相手も苦戦しているのかもしれないが。
「ゼンさんゼンさん、これまで聞いてきた話が全てゼンさんの言った通り何者かにやられたとすると......一体誰にケンカ売ってきたんですか?」
「俺がケンカ売るような奴に見えるか? 見た目は普通、中身は憶病の俺だぞ? 酒飲んでも変わらなし、酒飲んだ俺に誰が近づくんだ?」
「訂正がありますよ、ゼンさん。見た目もダメで中身もダメで、存在がダメダメです。とはいえ、確かに普段のゼンさんを知っている私達からすればケンカ売るような真似はしないですね」
「仮にもこの町を救った英雄だけどね」
「おーい、マユラさん。仮じゃないよ。一応大まじめだよー」
「それに竜とタイマンで戦う相手にケンカを売るような真似はしませんね。売られてもこの町のものなら買うことすらしません。『勝手に野垂れ死ぬなアイツ』ぐらいですよ」
「え、何ユノ。今ちょろっとこの町の俺に対する総評みたいに聞いた感じがするんだけど!? 俺、初耳なんですけど!?」
「そうだね。『死ぬ時の死因は絶対寝ゲロだな。あ、それ俺も。んじゃ、あえてこっちに張ろう。買ったら奢れよ』とかも聞いたこともあるし、ケンカはまず売らないだろうね」
「ねぇ、何今の!? 思い出し方の言語化も不自然なんだけど、一体誰が誰と会話してるの!? それに今の完全に何か賭け事してるよね!? 俺の死因でかけ事してるよね!?」
「ここじゃ、店の迷惑になりますね......もうかけてるけど......ともかく、一旦外に出ましょう。人通り多い場所なら安全でしょうし」
「え、無視?」
禅の言葉が耳に入っていないのかユノは考えた様子で立ち上がるとそれに合わせてマユラも立ち上がる。
その後を少し遅れて追いかけるとユノ、マユラ、禅と順に店の出入り口の階段を下りて行った。
するとその時、ちょうど禅の首辺りで何か細い糸に引っかかった。
「あ、そうだゼンさん、先ほど言ってた液体――――――」
――――――ピーピードガアアアアンッ!
マユラが振り返ると同時に禅の頭辺りで大きな爆発が起こった。もはやそれは人一人を殺すには明らかに過剰な威力。
そのあまりの事態に二人はまたもや唖然。そして、当の本人は―――――
「ゴホゴホ、生きてることが不思議だわ」
頭をアフロにしながら、顔をススで真っ黒にしていた。
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