第36話 講義の時間ですよー
「こ、ここはどこなんでしょうか?」
「一言で言えばメイクしてくれる店。ここで少しお化粧の勉強をした方が良いかなって」
続いてマユラが連れてきたのはとあるメイクショップ。
そこはその町のプロのメイク師が悩める女性達(女性モドキもいるが)のためにお値段は少しかかるが、その分自分ではそうそう真似できないメイクをしてくれる場所だ。
その店の外装は他に比べれば派手さはあるものの、かといって酷く周りより浮いて見えるというわけではない。
その絶妙なバランスの取れた店を見て、田舎者のルルは思わず挙動不審になる。
そして、別の意味で挙動不審になる人物がもう一人。
「なあ、ここにはさすがに俺がいる必要はないんじゃないか?」
「そんなことありませんよ。男性の客観的な視点というのは大切なんですから。まあ、可愛くてヤれれば基本関係ないんでしょうけど」
「なんかとんでもねぇこと言わなかったか? この女神」
「あと、ゼンさんは素材がよい......わけがないので、少しは美意識を持った方がたたたたた! 痛い、痛い! アイアンクローはやめてください!」
「なら、最近調子に乗ってる減らず口を少しは強制しろ」
ついに禅の沸点が振り切れたのかユノの顔面を鷲掴みにしてそのままユノの体を持ち上げる。
ユノは禅にポコポコと殴ってやめさせようとするが、禅は全くひるまない。それりゃ、そうだ。その脳筋ステータスにしたのはユノなのだから。
そして、ユノは「わかりました! 反省します!」と告げるとようやく解放された。
その顔は涙目で、顔には赤い手の跡がしっかりと残されている。
ユノは気を取り直すように一度ゴホンと咳払いすると話を戻した。
「ともかく、女は若いうちが華なんて言葉もあるぐらいですから、若いうちにどれだけ可愛くなる努力をしようが構わないのですよ。
それに『内面が良いに決まってるでしょ』みたいなことをいう人に限って大体見た目100パーセントで選んでいます。
もし100パーセントは言い過ぎだとしても、90パーセントは確実です。そこら辺は男性代表のゼンさんはどうですか?」
「そうだな......正直、全く内面を考えないわけじゃない。けど、それって付き合って気づくものが大概だから、確かに男はなんだかんだで面食いだ」
「これが男性の本音です。もちろん、これが全てではないですが、ぶっちゃけ可愛いければそれだけで勝率は上がるというものです。
ちなみに、内面判断を消しきれないというのは、大体内面がキレイな人は可愛い人が多いからですよ」
その言葉にメルトが思わず反応する。
「きれいな人にはトゲがあるって言葉があるけど、それは違うの?」
「違いませんよ。確かにそういう言葉はありますが、逆に捉えればそれだけのしたたかさを持っているという事にもなります。
つまり教養が高いのです。根暗で自分に自信がない人に見た目可愛い人は少なく、また可愛い人に根暗で自信がない人ってあまりいないでしょう?」
「そう考えるとあまり見ないかも?」
「そうですね......ルルさんは自分に自信がないという意味合いではあまりよくないかもしれませんね」
「それはどういうことですか?」
「つまり、心身相関ってことだよ。かみ砕いて言えば、
体がなんかだるいな~って時に気分が高まることはないでしょ? 逆になんか調子がいいと思うと体はスムーズに動いていく。
私達の間でも有名な研究論文があるんだけど、二人の人物を用意して、そのうち一人に毎日鏡で自分にポジティブな言葉をかけて過ごしてもらうって実験をしたの。
すると、3か月ぐらいに大きな変化が出たの。鏡に向かってポジティブな言葉を言っていた人はどんどんきれいになり、逆に何もしなかった人は若干老けたってね」
「それ、なんか聞いたことあるな。確か一種の自己暗示だっけな」
「そう、いわば自己肯定感を高めるものだよ。きれいな人ほど自信家が多かったりする理由はきっとここら辺かな。
体が自分の意思によって常日頃変化してるものなの。そして、その意志はネガティブな感情の方が残りやすい。
それはそれだけ印象に強いから。楽しい思い出より、辛かった思い出の方がすぐに思い出すのはそんな理由からだね」
「確かにそう考えると、私って自分でドジとかマヌケとか思ってて、それにあの3人組からも言われててそれでそうなんだと思っていました」
「恐らく、あの忌まわしい3人組の言葉のせいでルルさんの自己肯定感は低いのでしょう。
しかし、やる価値はあると思いますよ。
鏡に向かって言葉に出してるのは頭の中で思うよりも耳や口の動きでより覚えるからですから。
暗記テストで音読しながら歩き回るみたいなのと一緒で、動作を交えて伝えることでより記憶に刻み込まれやすくなるのですよ。
そうやって刻み込まれた言葉は次第に自分の無意識下に働きかけて、自分の体に変化をもたらします。
これが心身相関ってことです」
「ちなみに、気分が落ち込んでる時に軽く運動すると少しだけ気分が明るくなるのも心身相関によるものだよ」
「な、なるほど......」
二人の教養レベルに圧倒されたルルは思わず聞き入ることしかできなかった。
しかし、その手には凄まじいほどのスピードでメモがされていっている。
そして、そのメモを取っているのはルルだけではなかった。
「え、なにこれ?」
俯瞰的に見ていた禅が周りを見るとその場にいた客やスタッフ、挙句の果てに店長までユノとマユラの言葉にメモを取っていた。
その場はまるで一種の講義室だ。誰もが真剣にメモをしてる。
まあ、ここに来る時点で自分は美しくなりたいと思っている人だからなのだろう。
その周りの状況に先ほどまで禅に怒られてやや沈んでいたユノも今や天狗になりかけている。
これも立派な心身相関である。
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