第13話 障害が多いほど燃える恋の障害は薪かもしれない
「それで、どうしてあんなことをしていたんですか?――――――マユラさん?」
「はは、感情が昂ってしまったという感じで......」
場所は移って、宿屋の一階にある食事処。そこで禅とユノ、そして猫耳フードを外したマユラの姿があった。
二人にとっては初めてみる顔だが、思ったよりおっとりした雰囲気がある。優し気な感じが伝わって来なくもない。
故に、今朝の行動はとても言及したくなるのだ。
「感情が昂ったって......そりゃねぇよおめぇ。こっちなんて体がおかしくなってんだよ? 竜が襲ってきて戦った時にはかすり傷で済んだのに、ユノに蹴り飛ばされて頭ガラスで切ったら血がドバァだよ?」
「それはギャグだからですよ」
「だそうだ。仕方ねぇから俺の怪我のことについては不問にしてやる。だが、どうして俺の布団に忍び込んでいたのかハッキリ説明しろ」
「好きだからだよ」
「.......これはまたハッキリ言いましたね。説明にはなってませんけど、わかりやすい言葉ではあります。なんかキャラ急変してません?」
「ほら、恋すると世界が変わって見えるとか言うじゃない?」
「いや、言いますけど、見え方以前に根本的部分が変わってるからより驚きなんです」
あまりにもハッキリした言葉にユノは逆にキョトンとした顔をした。その一方で、禅はため息を吐きながら告げる。
「いやまあね? 好意を持ってくれることは悪いとは言わねぇが、おたくちょっと行動力がありすぎたりしない? たった二回助けられた程度で寝床に忍び込むのはフットワークが軽すぎるよ。尻軽女と思われるよ?」
「いや、普通二回も助けられたならそれなりに好意的な印象は受けると思いますが......恐らく惚れやすいとかなんでしょう。そういえば、少し気になってましたが、口調そんなのでしたっけ? 別にタメ口でも構いませんけど」
「もう一緒に朝を迎えた中なんだから、やっぱり嫁としては同じ目線に立つのが大事かなと思って。それに私がしっかりしないとダメだなって前に思ったから」
「あれ? 聞き間違いかな? 今、嫁って言わなかった? そもそも何勝手に段階すっ飛ばしてるの? 俺のエクスカリバーはまだ一度も鞘に収まったことないよ?」
「最低なことを言ってないでください。でも、地味にマウント取りに来ました? 少なからず、私はゼンさんよりは真人間です」
「それよりも聞かせてくれない? 俺、昨日のこと思い出せねぇんだよ。もしかしたら、もしかするとになるかもだしな」
「...........いいよ」
「え、何ですか? その間」
「俺、パパになります!」
「待って待って、気が早いですよ! 仮に万が一ゼンさんを好きになるもの好きがいるとしても!」
「なあ、それ酷くね?」
「きっとわけがあったんですよ! ほら、ゼンさんって基本目がお金で出来ているような人ですし!」
「お前、人の目を何だと思ってんだ! 俺はそんなにがめつくねぇよ! むしろ消費家だ!」
「それ自信満々に言って良いことじゃないですけど!? っていうか、お金が貯まってないのはやっぱりあなたのせいかー!」
「あのー、話を進めていいかな?」
マユラはゴホンと一回咳払いするとこれまでの経緯を話し始めた。
簡単に要約すると、マユラは禅とユノに助けてもらった後、友達二人は故郷に残ったがマユラは一人目的のためにこの町に残った。
そして、二人がいろいろやっている間にせこせこと他にも借金していた場所にお金を返すために働いていた。
そんなある夜、不埒な輩に掴まってよもやあってはならないことが起きようとした時、泥酔した禅に助けてもらう。
フラフラでまともに歩けていない禅の肩を貸して、部屋まで運ぶと突然「暑い」と言ってパンイチになり、マユラを抱えながらベットにイン。幸い何もなく朝を迎えた。
その一連の話を聞いたマユラは横にいる禅に向くと鋭く突き出した拳で殴った。
「全部あなたのせいじゃないですかああああ!」
「ふばっ!」
禅の頭は大きく弾かれ、禅は咄嗟に殴られた頬を触る。そして、「あれ。やっぱ鼻血出てる......」と悲し気に手についた血を眺めていた。
とはいえ、すぐにその中の話から禅は気になるワードを問い質す。
「おい待て、なら何で今朝のお前は全裸だったんだ?」
「あ~、私フリーダムの状態じゃないと寝れない体質でして。もしかしたら、寝てる間に脱いじゃったかもしれないね」
「ユノさんユノさん、これ俺が10割悪いわけじゃなくね?」
「女の人を家に引き吊り込んだ挙句に同衾した人がなにを言ってるんですか」
「はい。すみません」
ユノはギロッと睨む。そして、一度大きく息を吐くとマユラに告げた。
「あの~、こういっては何ですが本当にやめた方がいいですよ? だってダメ人間ですし。どこがダメって聞かれても存在がダメとしか言いようがありませんし、人間をなりをしたダメですし」
「なあ、酷くない? そこまで言うことないじゃない? それに人間のなりをしたダメってなんだ。もはやそれダメですらねぇよ」
「大丈夫だよ。愛は形がないから愛なんだよ。故に、なんでも型にはまってその形を変えることが出来る。もちろん、それだけじゃダメってわかっていますが、それならその人にあった愛の形を探せばいいと思うの。私、愛せる自信しかない!」
「うわぁ~、言い切った~」
「それにそんな現実味がない話では信用ならないとなれば、少しは打算的なことも考えてますよ」
「と、いいますと?」
「ゼンさんはこの町を救った英雄みたいな人だから。もしいけたなら輿の玉じゃない」
「玉の輿ね。それだとただの下ネタに聞こえちゃうから。でもまあ、確かにグッと現実味を感じましたね。とはいえ、言葉から裏を感じませんし。ここまでぶっちゃけると素直に監視しますよね? ゼンさん?」
「ま、まあ、そうだな」
「ちょっとこっちに来てください」
ユノは冷めた目で禅を連れ去るとマユラから聞こえない位置でこそこそ話し始める。
(ちょっと、なに照れてるんですか!)
(照れてねぇし。ふざけんなし。俺は別になんか真正面から告白されたことにど、動揺してるわけじゃねぇし!)
(バリッバリに動揺してるじゃないですか! 一体どこの思春期ですか! もうあなたに春は来ません!)
(なあ、最近言葉に切れ味がすごくないか? 俺の心ガラス細工なんだよ? 知ってた?)
(ともかく! あの子はあなたのようなダメ人間に惚れるのはもったいない子です! それはあなた自身も感じていることでしょう?)
(まあな。正直なところ、俺は年下よりも年上派だ。年上の普段見せない弱みを彼氏だけに見せる時がすげーグッとくる)
(あなたの趣向は別に聞いてないです。いいですか? しっかりと断ってください。あの子のためなんですからね?)
(わーってるわーってる)
禅は頭をボリボリとかきながらユノとともに席に戻ってくる。そして、責任もって禅から告げた。
「あの~、その~、実はな俺には好きな人がいるんだ」
「!」
「初耳ですよ! それ!」
マユラとともにユノも目を見開いて驚いた。そのことに禅はイラッとしながら横目でユノに伝える。
すると、ユノも伝わってくれたようで大きく頷いてくれた。
そして、視線を戻すと先ほどよりも2割増しにニコニコしているマユラの姿があった。
(あれ、少し怒ってるように感じるの気のせいかな?)
(まあ、自分の好きな人に好きな人の話をされるのは誰だって嫌でしょう。実質振られたようなものですから。でも、いいチョイスです。このまま押し切りましょう)
「で、その人に告―――――――」
「名前は? 名前は何というのですか?」
「え? ああ、確かサッチーって言ったような。俺、こう見えて奥手だから外から眺めることが多くて」
「なら!」
マユラは席を立ちあがり机をバンッと叩いた。そのことに思わず二人は「ひぇっ」と小さく声を漏らす。
そして、先ほどよりもニコニコしているのに身もそぞろな恐怖を感じるマユラは告げた。
「私とそのサッチーさんのどちらがいいか確かめてもらっていいかな? デートをしましょう」
「「(どうしてこうなった~~~~~~~!)」」
二人の心の叫びは届かない。
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