第22話 たまには知的な一面もあるんだぜ☆
「どうして私がこの日に来るってわかったの?」
時は深夜、どこも寝静まり静寂が包む中、とある宿の一室ではランプのオレンジ色の光が灯っていた。
そして、その床では両手を後ろに拘束されて座っているメルトの姿があり、その前にはベッドに座る禅がいて、その両隣りにはユノとマユラがいた。
ちなみに、禅、ユノ、マユラはなぜか伊達メガネをつけている。知的イメージでも作り出そうとしているのか。
メルトは怪訝な顔をする。それはヘマをしないように慎重に動いていたのに、今やこうして掴まってしまっているからだ。
暗殺者が捕まればそこで人生は終了。でも、明らかに自分が上手く回してきたにもかかわらず、捕まったことが解せない。
どうせ死ぬ運命だとしてもそこぐらいは聞きたいところだ。
その質問に禅はちょっとめんどくさそうにしながらも答えた。
「まあ、別に教えてももうこうして捕まえてるしいいか。単純な話だ、俺はお前に二つの罠を張った」
「二つの?」
「まずお前が俺だけを集中狙いしてる時点で監視の目はどこにでもあると想定した。ただし、実行犯であるお前は俺達からは気づかれないためにも遠くにいる。それを利用したんだ」
「それで肝心な罠の内容は?」
「なんでコイツ掴まってるのに偉そうなんだ......そうだな、さっき言ったことを利用して俺はユノとマユラに個別で行動するように頼んだ。ただし、ユノとマユラは俺が狙われていると知っているので、時折一人の俺に怪しげな人物が近くにいないか遠くから見る
「フリだったの?」
「そうですね、一応フリと言う形にはなります」
「でも、実際ゼン様は襲われているわけだし、ちょっとは真面目に探していたかな。その行動が結果的に良かったのかも」
「なるほど、それが罠と」
「いいや、まだ続きがある。お前は警戒心が高い相手だ。それはどんなに罠を張ろうと俺に姿を見せないことがそうだった。あ、ちなみに、ドリンクを飲んだ後の話な? でだ、俺達がバラバラで動いたのは、当然誘き出すためだろうと考える。しかし、数日経っても何もしてこないので再び集団で動き始める。そうすると、お前は俺達に対して別の作戦を考えてるか、探すことを諦めたかと考える」
「それで私が自分の手のひらであなた達を動かしていると思わせる。でも、実際動かされてたのは自分。道化もいいところね。それで二つ目は?」
「二つ目は特に何もしていない。まあ、あえてだがな。お前は俺達の警戒心を削ぐためにあえて平和的な日々を過ごさせただろうが、それで警戒心が解けたのは俺達だけじゃない。お前もだ」
「私も?」
「ん? てっきり、お前のような職業なら理解すると思っていたがな。さっきも言ったが、お前は平和な日々で俺達の警戒心を解いた。だが、警戒心を俺達以上に張り詰めていたのはお前の方だ。そして、お前はまたいつものような日々を送り始めた俺達に対して食いついた」
「理解した。獲物がもっとも無防備になる時はエサに食いついた瞬間ってことね」
「そう言うことだ。後は簡単。お前が食らいつくを待つだけ」
「でも、一つ疑問がある。どうして私がまた再び警戒して近づいて来ないと考えたの?」
「そりゃあ、簡単だ―――――直感」
「は?」
メルトは思わず呆れて言葉が漏れてしまった。
散々上手いこと罠を張っていて仕掛けるのを待っていた割には最後は運に任せるとは、正直非効率だ。
しかし、禅は「まあ、そう言う反応だよな」と軽く笑うと告げる。
「強いて理由を上げるとすれば、俺とお前の考えの違いかな」
「違い?」
「お前はそういう仕事上、迅速かつ確実という手段を取るだろ? そうじゃないと警戒されてめんどくさいから。そうめんどくさいからなんだ。言い方を変えれば、トロい、スマートじゃない、非効率。それがお前の思考回路。だが、俺はギャンブラーだ。ギャンブラーは時には自分の考えをかなぐり捨てて、幾重もの罠を張ったとしても最後には博打を張る。いわば、非効率な手段を取る。それが俺とお前の違い。かしこいお前には読み切れない考えってわけさ」
「......そう」
メルトは小さく言葉を呟く。しかし、その声はあまり暗くなかった。
自分の考えを看破されて落ち込んでいると思いきや、むしろ喜んでいる様子であった。
まるで目の前に欲しいおもちゃがあって、それを見て目を輝かせる子供ような瞳をしていた。
そして、時折出るため息はどうしてもっと早く見つけられなかったのかという感じであった。
そんな表情に三人は思わず怪訝な顔になる。
潔いと言えばそういうことになるが、あまりにも引き際が良すぎないだろうか。
一応何をしていないとしても、捕まっているのだ。これから何をされるかわからないのに、もう少し怯えたりとかないのか。
まあ、何もする気はないが。
「なあ、お前は他に仲間はいるか?」
「いや、いない。私の単独任務。これまでやってきたのは全て私。それで、これまでやって来たことを謝る気は全然ないけど、頼みがある」
「図々しさが上限突破してやがる。せめてもう少し頼み方ってものがあるでしょが」
「おじさん、私の体好きにしていいから一つ頼みを聞いてくれない?」
「縁交ジャンルときたか......あまり好んで読むジャンルではなかったが、こういわれると意外と悪い気分しないな。うん、いいだろう」
「一度死ねばいいのに」
「なるほど、あえて下手から......ありだね。今度試してみようか」
「あのー二人とも、一旦落ち着こうか。冗談だから。あと、ユノ? そのストレートすぎる悪口をもう少し水で割ってくれない? 俺、度数高いの心臓に来ちゃうから」
ユノとマユラの言葉に禅は思わず何とも言えない顔をしながらも、ごほんと一回咳払い。
そして、改めて聞いた。
「それでどんな頼み事?」
「あなたを実際に煮るなり焼くなり好きにしたい!」
「......ん? んん? え、俺? “煮るなり焼くなり好きにしてください”あたりだったらまだコイツはただのマゾかとか思ったんだけど......え、俺?」
「ゼン様、私はどんなプレイにも対応可能可能だよ! ゼン様次第では私はマユラから雌豚にジョブチェンジするよ!」
「え、マユラさんをそんな風に呼ばせるなんてサイテー。どうせ死なないですし、一度成層圏から全裸スカイダイビング溶かして見れはどうですか? ほら、全裸好きでしょう?」
「ちょっとー、俺のあずかり知らぬところで勝手に話しを拡大させるのをやめてくれない? 俺は確かに開放的な方が好きだけど、その開放的な仕方はあんましだから。で、なんで俺なの?」
「単純な話。その生態といい、私を欺いた頭脳といいとても興味深い。全てを解明したい。そして、いずれはその集大成でもってあなたを殺したい」
「結局、殺す気なのかよ」
「でも、たとえこの願いを受け入れたとしても、私は組織の人間から殺される。それが私のような殺し屋の運命。せっかく生きてみたいと思える日が来たのにな......」
メルトは初めて弱弱しい姿を見せた。その姿に三人は思わず顔を見合わせる。
そして、メルトには聞こえないように小声で相談を始めた。
その結果決まったのは――――――
「んじゃ、その組織をちょっくら潰してくるか」
「え?」
メルトは衝撃的な話し合いの結果に思わず目を白黒させた。
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