ここから、カクヨムオンリー
(7)会敵
作戦開始から七日。とりあえずは無事に物事が進行していた。正しくは、先生の言う「訓練」規模の
「なに、死ななければ無事だ」
という辻杜先生の言葉の通り、部員に生傷が絶えることはなく、朝から私や内田が回復技令を
そして、夕。いい加減にこの
「でも、私たちのところっていつも少ないよね、敵」
一時間の探索の後、ふと、霧峯が
「不満なのか」
「ううん。戦うのが好きっていうわけじゃないから。でも、思い切った行動に出ないで、ずっと攻め続けるなんて」
快活な少女がどもる。
確かに、言われてみれば遊撃隊として危険個所を
「確かに、あれだけ襲撃をかけるなら一回に力を絞れば十分に一人や二人は討ち取れそうだな」
それ以前に、単純な技力の無駄である。戦う以上、効率的に技令を使用するべきであろうが、そのような感じは
「水道の
「だといいんだけど。相手が何考えてるのか分かんないのが、一番、面倒よね」
そう言う少女は目の前にある敵を
「ま、考える時間がもったいないよね」
と、それまでの全てを否定する一言で閉じるのがお決まりであった。
それがあまりにも意味不明な状況に深々と物を考えるようになってしまっている。その時点で、異常だ。だが、霧峯の異常を考える以上に、今はこの状況の異常さを
その時、呼び鈴の音が
「二条里君、山ノ井です。ポイント二十八。
僅か十八秒の通話。だが、それだけで事態はおよそ
「博貴、行こう、二十八番ポイント」
霧峯の声に我へと返る。
先生が設定したポイントは全て
「各個撃破という意味では不利ですが、全体攻撃の観点からすれば的確すぎる場所です。警戒ポイントに入れるべきです」
これを
一年の阿良川と谷崎が既に深手を負っている。その前方で三人の部員が腰を抜かし、倒れ込んでいる。そのような中でもなお、彼女は
「二条里先輩、ど、どら、どらご」
そして、対するは巨漢の
「
絶望を絶対なる
「二条里君、ドラゴンです」
正体は山ノ井の解説を待つまでもなく明らかだ。が、対処法となると話は別である。種々の
「ドラゴンは
と、要約すれば戦いようがないということを一言で示しただけであった。それを今、二人で受け止めている。
「アース・クェイク」
山ノ井が的確にランドドラゴンの弱点を突く。その巨体
「
もうこれ以上、傍観を決め込むことはできなかった。私は内田との間に壁を作り、霧峯はドラゴンの
「ここは僕達で抑えます。二条里君は傷ついた皆さんの回復をお願いします」
山ノ井の指示に一瞬だけ
「
が、回復をしながらでも攻撃はできる。補助となれば
「二条里君、回復は」
「今やってる。やってるからこそ、
既に阿良川と谷崎の
「博貴、話し込んでいる余裕は無いようです」
「氷室の風」
「
山ノ井と二人で防壁を張る。白い
「風の
内田も加わっての三枚壁。それでも襲い来る
「博貴、もう一つ行ける?」
霧峯が壁の最前線で敵を
「タイム・シェイカー」
壁に風穴を開ける。二本のナイフが放たれる。炎が侵入する。少女に
その時、山ノ井が口より奇妙な音を放った。それと同時に、四色の
「あれは、
「何なんだ、その
「特殊な技令の一つです。四種の技令属性を示す一音を発することでそれを集束させた光を放つ技令です。口で言うのは簡単ですが、実際には各技令のバランスをとる必要があるので相当に難しい技です」
思い返せば、内田の正気を取り戻す際の作戦では、山ノ井は八つの技令のバランスを取って技令陣を
「そして、彼女の技令素養は」
内田はそう言うと、霧峯を真っ
その後、腰の抜けてしまっている後輩たちに回復を
「失礼ですが瑞希、時々、
その途中、例の最初に襲撃のあった
「うん、時々見るけど、どうして」
「いえ、今日の戦いを見ていまして瑞希の技令素養が時間技令ではないかと考えたものですから」
霧峯と思わず顔を見合わせる。
「瑞希の使用されているナイフは刀身を技令で
彼女の説明に私も少女も聞き入っていた。内田の
「私、時々はっきりした夢を見るの」
この時、私は少女の
「ただ、気になるのはあのドラゴンの炎です。瑞希の属性は確かに陰ですが、微弱な陰気だけでは炎を単純に
「時間技令が弱点の炎って何だ。そんなのあるのか」
「ええ、普通はありません。ですが、それを
「そんなの意味あるのか。弱点指定が必要なら多少は意味があるんだろうが」
「ええ、
内田がその一言で黙り込む。真冬の風が
「一つの可能性って、自分から倒される前提で攻めてくることなんかあるのか」
内田の
「もうそろそろ、真実をお話になられたらどうですか、『霧峯』さん」
内田の一言に霧峯が声を上げる。
「おじいちゃん、なにしてるの」
霧峯の一言に困惑しつつも思わず、頭を下げる。理由は分からないが、まともに顔を見ることができない。
「瑞希、おじいさんは私達を、いえ、瑞希を
眼前の老人は静かに
「瑞希がいつ、正体に気付くかと思っていたが、友人に気付かれるとはな。最も
「まあ、今回の件に関しては旧友の依頼で行ったものであるから、瑞希には特に気を付けて隠していたからでもあるのだが」
「依頼って、おじいちゃん誰に頼まれたの」
「名前を言うよりはお前の中学の校長と言った方が分かり良いだろう。もう引退した私に孫娘の仲間たちのレベルを底上げするよう無茶な話を持ち込んできたのだ。言われた通りレベルの低い
そう言うと、やっとのことで直視ができるようになった私を老人は
「君は
話の流れから察するに、私は今この老人から褒められているのだろうが、どうやっても心からそれを理解することができない。むしろ、
「まあ、マンドレイクから始まっての訓練は今日で終わりだ。私もこの数日で
「は、はい」
「孫娘を、瑞希を
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