(34)少女の涙 慈愛の夢

「ここは」


にじんだ薄暗い視界が戻った時、頭だけが虚空にあるような錯覚が至り、次いで、鈍痛が身体の形を成した。


「全く、司書の盾の守りがあるからといって、無茶をする奴だ」

「せん、せい」

「気づいたようだな。休みの保健室を空けて蘇生の処置をした後だ」


少しずつ、世界が輪郭を取り戻してゆき、やがて、無機質な蛍光灯の光が飛び込んできた。

僅かに顔を動かすと、そこには穏やかな表情をして先生があった。


「勝負は」

「お前が負けて、お前たちの勝ちだ。全く、博打ばくちが過ぎることをして」


そう言うと、辻杜先生は懐から赤いマルボロの箱を取り出し、一本取ろうとしてばつが悪そうにまた懐へと収めた。


「いえ。あの瞬間は霧峯を守って、内田を負かせばこちらが勝ちでした。私が残る必要はありません。でしたら、無防備で攻撃を全て受けてでも、内田の退路を断つのが正攻法です」

「ああ、確かにそうだ。霧峯の一撃を受けた内田が脱落。その瞬間に勝敗が決まった。勝利条件を考えれば悪くない判断ではある。ただ、もう五時過ぎだ。お前の受ける損傷を少しは考えるべきだったな」


先生の一言に、思わず笑いが漏れてしまった。


「笑い事じゃない。全体で勝っても、欠けることは許されない。どんな戦いでも、自分が死ぬことは許されないんだ」


辻杜先生が鋭くにらむ。

その威圧は私から軽口も余裕も全てを奪う。


「いいか、それだけは絶対に覚えておけ。俺の下で戦うということは、そういうことだ」


そう言うと先生は立ち上がり、


「回復は済んでいる。話をしたら、早く帰れ」


入れ替わるように、少しうつむいた霧峯が入ってきた。


少し引きる身体を起こして少女と対する。

トレードマークのリボンは下を向き、少女と共にある。


「博貴、勝ったよ」


肩を震わせる少女は、それでも振り絞るように言った。


「でも、もう」


そして、真っ赤な顔を向け、


「しないで」


私の胸元に飛び込み、声を上げた。


少女の涙に私は、勝利の後悔に打ちひしがれた。






「大変でしたよ、あの後。二条里君が死んだ、と霧峯さんが泣かれて」


暗くなって、六時半。

身体は問題なく動くようになった私は、それでも、念の為と言ってついてきた山ノ井を入れて、四人で帰途に就いていた。

歩みはいつもより遅い。

蘇生を受けたために体力の回復は大きかったのであるが、やや痛みが残っている。

いつもは前を行く少女がの視線が後ろから刺さる。


「僕の技令と内田さんの技令を受けていましたから、かなりの深手でした。脈も弱まるほどでしたので、総出で回復にかからなければ危ない状態でした。死ぬ、というのはやや行き過ぎだったかもしれませんが」


辻杜先生から告げられた、蘇生、という言葉が思い起こされる。

その処置が必要であったということは、それだけ重篤じゅうとくであったということである。

勝利を目指した軽率に、少女の涙が重なって身が縮む。


「ただ、二条里君のまさかの捨て身に、素早く反応した霧峯さんも流石でした。僕達は僅かに呆然としてしまいましたから」

「ええ。ヒット・アタックですぐに気絶させられましたが、あの状況で攻撃できる瑞希に驚きました」

「だって……ムダにしたくなかったもん」


霧峯が少し恥ずかしそうに答える。

顔は見えないが、声が赤く染まっている。

珍しい。


「ああ。霧峯だったら、やってくれるって思ってた」


だからこそ、思わず出てきた言葉にむずがゆくなる。


「うん、でも、もうダメだから、ね」


さっきよりも、幾分か言い方が優しくなっているが、その芯は強い。


「瑞希、その思いは届かないと思いますよ。博貴は無理や無謀が好きなようですし」

「はい。二条里君は自分を捨て駒として使うことに抵抗がありませんから」


二人の言葉に容赦ようしゃはない。

これには思わず、乾いた笑いを上げざるを得なかった。


「それにしても、残念でした。昨日から山ノ井さんと準備したので、二人に勝てると思っていたのですが」

「ま、私は脱落したんだけどな」

「それでも、霧峯さんの能力と二条里君の采配が噛み合ってなければ僕達が勝っていました。これはお二人の勝利です」


「いや、それは違う」

「それは違うかなぁ」


山ノ井の一言に、思わず上げた声が霧峯と重なる。


「みんなで戦えたから」


私と霧峯はここで初めて笑った。


「そうなんだよな。無理したのは他の皆が頑張ってくれている以上、負けられないって思ったからなんだ。元々の戦力比は最弱だったんだが、三人一組で凌ぐ作戦で序盤を戦えたのが非常に大きかった。私と霧峯だけが頑張るんだったら、持たなかっただろうな」

「うん。最後に阿良川ちゃんが指揮をしてくれたのも大きかったよね」

「ああ。憎まれ口は叩かれるが、要所要所は締めてくれたからな」

「そういう、ことでしたか」


山ノ井が深い溜息を吐く。

穏やかさをたたえた彼からは、普段考えられないその吐露に私は少し驚く。


「ただ、負けっ放しというのは少々悔しいですね。山ノ井さん、次があれば、勝ちましょう」


坂の下を行き交うヘッドライトを前に、彼女は穏やかに、しかし確かに問いかける。


「ええ。そのつもりです」


それに答えた友の顔は、どこか夕闇に溶けてしまっていた。







翌十二日から始まった学年末テストは十三日の昼下がりには終焉を迎え、私は学校から帰るなりベッドに飛び込んだ。

猛烈な眠気が私を夢の世界へと強引に誘おうとする。


それというのも週末の訓練の後、霧峯と内田から数学やら理科やらの質問を受け、それをこなしていくうちに副教科の勉強をする時間を取られ、見事に夜遅くまでの学習をする羽目となってしまったためである。

三時間ほどしか眠れぬ日が続き、今日の午後は流石に休むと決め込んでいたのである。


そのため、気づいた頃には時計が六時を回ってしまっており、辺りの暗さに私はひどく驚かされた。

しかし、それと同時に出がけに母が言っていた、今日は遅くなるという言葉を思い出し、慌てて台所へと向かった。

昼食は買ってきた弁当で済ませていたからよいものの、夜は作らなければならない。私だけであればまだ良いのであるが、内田もいる以上急ぐ必要がある。


慌てて米を研ぎ、炊飯器にかけたところで違和感に気付く。

二階から降りるまで家中が暗かった。

この時間帯になると内田は廊下などの電気を点けるのであるが、それがない。

それに、この時間帯は社会勉強のために地域の報道番組を見るべく、目覚ましをかけてでもリビングに降りてくる。

ということは、内田はいないのである。


と、リビングのテーブルに黄色い付箋ふせんが貼られているのを見つけた。


「瑞希の家に伺います。夕食までには戻ります」


用件だけの単純なメモは、名前がなくともその主が分かる。

私はそれをそのままに夕食の支度を続けた。


内田が帰ってきたのは七時を過ぎである。

丁度、出来立てのオムライスを並べたところであり、部屋に鞄を置いてきてから彼女は食卓に就いた。


「遅くなって申し訳ありませんでした。瑞希に誘われたものですから」

「なるほどな。で、何をしてたんだ」

「いえ、大したことではありません」


内田が微笑んで返す。


この瞬間に何か引っかかるものを感じたのであるが、それと同時にそこへ踏み込むことに躊躇ためらいが生じた。

特に大したことではないのかもしれないが、無言の圧が彼女の奥に見える。

穏やかにグリーンサラダに箸をつけ、コンソメスープを口にする所作に乱れはない。

ただ、それだけに彼女が殊更ことさら日常らしさを取りつくろっていると私には見えた。


とはいえ、先のハバリートの時とは異なり、


「申し訳ありません、瑞希の家に忘れ物をしてきたようです。また、少し行ってきます」


ドジを踏む分だけ、そう気に揉む必要はないだろうと私は少し安心した。






翌朝、登校して初めに渡会の豪快な笑い声が轟いた。


「いやあ、稲瀬からチョコレートを貰ったんだ。昨日のうちに。どーだ、去年みたく男からのじゃないんだぜ、ほらほら」


昨年、菓子作りを愉しみ過ぎた私への意趣返しのように、赤い包みを見せつける。

見かねた辻杜先生が、


「あまりこうしたことに厳しくないのがうちの学校だが、いい加減にしないと没収するぞ」


と言ってくれたおかげで、この騒ぎはひと段落することとなる。


ただ、昼休みには私の近くに女子の群がりができていた。


「あはは、こんなことになるんだ」


隣の席の霧峯はチョコの交換を持ち掛けられ、少し唖然としながらそれに対応していた。


「なるほど、これがバレンタインデー、というものなんですね」


感心したように頷く内田に少し笑ってしまったが、圧倒されたのは私も同じである。

この祭りは昼休み中続いたようで、私と内田が図書室から戻った頃には、霧峯が珍しく少し疲れた表情をしていた。


さらに放課後。

いつもの面子がいつものように残り、館内に人が少なくなったところで、霧峯が突如として小さな包みを配り始めた。


「お、こんないいもん貰っていいのかよ」

「うん。あの時、守ってくれたみんなに。お礼」


 ライトグリーンの包みはちょうど両手に収まる大きさで、それを真正面から受けて、


「あ、ありがと、な」


私は思わずぶっきら棒に応えてしまう。

それでも、少女は満面の笑みで私達の間を回る。


「そっか、じゃあ、いいこと思いついちゃった」


あの夜、少女はそう言って私に満面の笑みを見せていたが、その時の「いいこと」はこのことだったのかもしれない。


「で、霧峯、俺の分は」

「先生の分は、ありませんよ」


辻杜先生の問いに対して湧き上がった笑い声を眺めながら、私は少し鼻の奥がつんとしたように感じた。


「あ、ごめん、一個持ってくるの忘れてたみたいだから、博貴には帰ってから渡すね」


ただ、その中で包みを取られた私は別の意味で鼻の奥に刺激を感じざるを得なかった。






帰宅後、先の一件からかなんとなく気が入らなかった私は着替えを済ませてから、ベッドの上に寝ころんでいた。


「それにしても、珍しいことがあるもんだな」


薄暗い中空に独り言が消える。


霧峯は自由奔放ほんぽうかつ快闊かいかつでありながら、何気ない素振りで気配りを忘れない。

その霧峯が準備で失敗するというのは少し解せないところである。

辻杜先生への対応にしても、自分の目的と奥さんへの配慮を考えればあの軽口で片付けたことも頷ける。


ただ、たかがチョコレート一つで考えすぎだ、ということもできる。

単なる嫉妬しっとを言い換えているに過ぎないと言われてしまえば、今の私にはとどめとなる。


そう、皆が貰う中で自分が貰えなかった、という惨めさが今の私の中にあるものだ。


我ながら仕方のない奴だな、と溜息を吐く。

それに、少女は帰ってから、と言ってくれたではないかと慰めもする。

ただやはり自分が外された、という現実は覆しようがなかった。


「ま、家が隣同士ということの欠点だな」


もう一度、薄暮に独り言を流し、一旦思考を断つ。


「それにしても」


ここで、内田は自分の思うように作れたのだろうか、と要らぬ心配がよぎった。

霧峯のように図書部の面々に配るのかと思ていたが、喧騒の外に在っていつものように淡々とその役割をこなしていた。

ということは、少なくともその対象が霧峯とは違ったということになる。

女子同士で交換する様子も見られず、少ないながらも話をするようになった友人との付き合いという訳でもなさそうであった。


あの夜、彼女は顔を赤くして渡す相手を隠そうとした。

それもバレンタインを知った後で、である。


「博貴、今、よろしいでしょうか」


規則正しいノックと共に、内田の声がする。


「ああ、いいぞ」


ベッドから降りると同時に、電気を点けて内田が入ってくる。

炬燵こたつを境として対した。


「どうした、テストのやり直しでもやりに来たか」

「いえ、今日はその件ではありません」

「じゃあ、レデトールに何か動きでもあったのか」

「いえ、その件でも」


内田にしては珍しく、その視線がどこか泳いでいる。

歯切れも悪い。

こうした時の内田といえば、何かあらぬことをしでかしている。

以前、私の部屋に招かれてベッドの下を漁られた時も同じ表情であったし、あの科学実験の夜も同様であった。

隠し事が苦手な性格である。


「なら、飲み物でも準備して」

「いえ、そこまでは結構です」


立ち上がろうとするよりも早く、内田が制止する。

妙な内田は、そう言いながらも、用件を言おうとはしない。

行き交う車が憮然ぶぜんと息を吐き、時計の音が日常を演じようと主張する。


どこか居心地の悪い沈黙が横たわっている。

ただ、それを打ち破ろうにも、内田は目の前で私を見るでもなくその場に縛ろうとする。

互いの息まで聞こえてきそうな空間の中で、僅かに上下する肩だけが彼女の平生への努力を示すようであった。


やがて、彼女は意を決したかのように深く息を吐いた。


「博貴、こちらを」


白い手が卓上に伸べられる。

その中には拳大こぶしだいの濃紺の箱。


「博貴が必要以上に言うものですから、渡すだけというのに緊張してしまったではないですか」

「これは」

「ええ、バレンタインのプレゼントです。博貴にはお世話になりっぱなしですから、そのお礼に」


内田のほのかな紅潮が見て取れる。

ただ、私も心音が速まっているのも事実だ。


「全く、贈り物をする相手に気取られたのは私の失態でした。それでも、いつも優しくして下さる博貴とお母さん、そして、護れなかった山ノ井さんには、こうして気持ちをお伝えしたかったんです」


穏やかな彼女の笑みが、目の前にある。

それは何かをいつくしむような瞳で、しかし、悲しみを知った瞳で、だから、私はその瞳に吸い込まれそうになる。


「いつもありがとうございます、博貴」

「こっちこそ、ありがとな」

「いいんですか、食あたりがついているかもしれませんよ」


内田の一言に苦笑する。

あの時の軽口を今更ながら後悔しても遅い。

ただ、彼女が穏やかな表情を崩さない以上、気にしない方がいいのかもしれない。


「そうか、昨日はこれを作りに霧峯の家に行ってたんだな」

「ええ。瑞希は料理がお上手ですから、教えていただきに。瑞希も見事だったんですよ」


嬉しそうに昨日の様子を語り始めた内田は、子供のように相好そうごうを崩す。

窓に映った自分の目尻がひどく下がっているのを見て、また苦笑した。







そして、夕食も入浴も済ませた十時過ぎ、私は読書の合間に内田の包みを開けた。


中には洒落しゃれた飾りと共に褐色の粒がいくつか収められていた。

それを一つ手に取ると鼻腔をカカオがくすぐり、私は見れる間もなく口にした。

舌の上で転がすと、しどけなくその姿を崩してゆく。

その中で広がる官能的な苦味と静かな甘みは、彼女の思いを雄弁に語るようであった。


蓋をして、包みを机の端に寄せる。

紅茶を口にしてゆっくりと心を清める。

これだけで、ここ数日の疲れが消えていくような気がする。

思えば、一月の半ばから戦いとテスト漬けで、こうしてゆっくりする時間を手にするのも難しいものであった。

そうした日々から日常へやっと戻りつつある、というのが感じられてたまらなく嬉しかった。


とはいえ、私の周りが変わりつつあるのは確かだ。

渡会に彼女ができたのには驚かされたが、今までの閉ざされた図書部の関係性が外へと広がっていくのを感じる。

そうした渦中に内田も霧峯もいるのだが、以前の違和感は自然に変わり、私もそうした日常を愉しいと思うようになっていた。


乾いたノックの音が室内に齎される。


「遅くなっちゃって、ごめんね」


いつものようにフリース姿の霧峯を部屋に迎え入れる。

外へ誘われなかったのは、先程まで小雨が降っていたからだろう。

間近とはいえ、そのような中で屋根を伝って来られる少女は流石である。


「水無香ちゃんからはもうチョコもらった?」

「ああ。ありがとうな、手伝ってくれて。内田も嬉しそうにしてた」

「ううん、私も水無香ちゃんとゆっくりお話しできたし、楽しかったもん。やっぱり、水無香ちゃんっていい子だよね」


少女の笑顔に合わせて、黄色いリボンが揺れる。

こうしたことを愉しげに語る少女もまたいい奴なんだけどな、という言葉は私の胸だけにとどめておく。


「はい、ハッピーバレンタイン」


少女が差し出した包みが、錯覚だろうか大きく見える。

やはり昼間からの期待感というものだろうか、自分の中で抑えがたくなっている気持ちにどこか恥ずかしさを覚えてしまう。


「ごめんね、学校でかわいそうなことしちゃって」

「いやいや、足りなかったんだから仕方ないさ」

「うーん、ほんとは、ね」


珍しく、霧峯が口ごもる。


「ほんとは、ちょっとだけ、ウソついちゃったんだ」

「嘘、って」

「うん。博貴のはおうちで渡そうって、決めてたから。でも、何もないのに博貴だけ外しちゃうのも、なんだかおかしいかな、って」

「確かにそうだな、渡会あたりがはやし立てるのは目に見える」

「ほんとに、ごめんね。でも、博貴にはたくさんもらったから、私も、たくさんお返ししたいな、って」


やや紅潮した少女の目が真直ぐに向く。

どうにも女性に見詰められるというのには弱いのだが、少女の視線には特に弱い。

逸らすことさえ難しい。


「い、いや、私は、別に」

「そんなことないよ。長崎のことも勉強も教えてくれたし、相談も聞いてくれる。それに、私やみんなを守ってくれるし、お父さんやお母さんの話をした時にもちゃんと聞いてくれた。それに」


笑顔が、


「いつも元気をくれるもん」


まぶしい。


「だから、たくさんお返ししよって思ったら、作りすぎちゃったんだ。だから、ちょっと多くなっちゃったけど、食べてくれたら、嬉しいかな」


もう、澄ました顔でいることはできなかった。


リボンを解き、赤い包みを開ける。

解き放たれた香りが部屋をまたたく間に包み、秘められていた姿が白色灯の下にさらされる。

チョコマドレーヌにクッキー、ブラウニーが愉し気に踊り、その真ん中をチョコレートをコーティングされた棒状のプレッツェルが真直ぐに立つ。

そのやや太めの一本を摘まみ、口に運ぶ。

思ったよりも軽い噛み応えの後に、甘さを控えたチョコの味が広がり、小麦の香りが追従する。


「これ、確か漫画に載ってたやつだよな」

「うん、そうみたい。お母さんが読んでたんだけど、それで一緒に作ったんだ」

「そっか。私も読んでから作ってみたけど、ここまで上手くはできなかったな」

「よかった。お母さん、大切な人に作る時が来るって言ってたけど、ほんとだったなぁ」


霧峯の言葉に、思わずその光景が目に浮かぶ。

屈託くったくのない少女の笑顔と、慈愛に満ちた女性の穏やかな姿がキッチンに並び、その平和な在り方を午後の陽光が照らしだす。

少女の母親など知らぬはずの子供の妄想など馬鹿々々しいと首を振り、それでも、少女の思わぬ一言と今なお屈託のない様子に私の頬が紅潮していくのを感じざる得なかった。


「本当に、ありがとう、な」

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