(9)大波止(おおはと)会戦
夜、犬の鳴き声と車の
「霧峯、か」
が、何のことはない。元々女の子に抵抗のない身の上なのである。そもそもがそれだけで官能的なのである。それに、男である以上は思春期ともなればよからぬ方向に物事を考えるようになるものであり、それが私は少し変な方向に向いているだけ、である。男と女の快楽を知らない以上、一緒にいるだけ気持ちが
ただ、である。私は渡会から例の一言を切り出された瞬間、否定できずに質問で返した。その後で改めて否定したものの、あの一瞬の
「博貴、起きていますか」
「博貴、起きて」
疑問を吹き飛ばす二人の少女。扉と窓から現れた暴風に一瞬で飛び起きる。
「な、な、何で二人同時なんだ。って、何があったんだ。つーか、もう戦闘装備って何なんだ」
「博貴、気付かれなかったのですか。強い技令の気配が個と集団とで二つ。大波止方面です」
内田の返答に一瞬で我へと返る。高熱に
「分かった、今すぐ漁港跡地に向おう」
三人で冬の夜道を駆け抜ける。普段であれば三十分はかかる道程を五分ほどで
「どうやら、渡会さんと山ノ井さんが先着しているようです。色彩法とバランスのとれた技令の気配が増えています」
司書の剣による支配以来、内田の実力は明らかに向上している。以前であれば、気配がする、で止まっていた技令分布分析も今ではその属性と強さをおよそ正確に把握し、その他の能力についてもある程度まで
「それでも、戦闘センスと技令の強さのみを比べれば博貴の方に
と淡々と語っていた。その割に、内田は積極的に前に出る。
そうこうしている内に、大波止ショッピングセンター前のスクランブル交差点に
「内田さん、二条里君、霧峯さん。来て下さったんですね」
山ノ井が結界を張りながら大軍を押し止める。見る限り、五十メートル以上は整列した人の波ができている。それだけでも十分に異様な光景ではあるのだが、その全員が明らかに強い技令の気配を放っており、レデトール人であることを示している時点で理解に苦しむ。
「山ノ井、ここで抑えんのはいいけどよ、この先にもう一つ強い気配があるぜ。そっちの方もヤバいんじゃねぇか」
確かに渡会の言うとおり、これより先により強大な技令の気配がある。それこそ、先のハバリートに近い強大な気配が。
「ここは私が抑える。だから、
「僕が引き止めますので、先に進んでください」
その危険性を感じた
「そんなん、どっちでもいいじゃねぇか。とりあえず、二、三人で抑えて進もうぜ」
「いえ、この場は博貴に任せましょう。山ノ井さんの技令も強力ですが、陣形技令には集団性という特性がありますので。それに、進んだ後で後ろを
内田の一言に、山ノ井が
「ねぇ、水無香ちゃん、集団性って何」
「集団性というのは群れに対する技令の効果のことです。通常、技令というのは個対個ないし数体を対象とするものです。ただし、集団性の性質を持つ技令は個への攻撃としても使用できますが、大きな集団に対して広範な影響を与えることができます。博貴の使用する陣形技令は特に数百、数千といった範囲に対しても有効で、非常に高い集団性を有します。これも戦場を駆ける英雄が陣形技令を利用する理由の一つです。同様の性質を持つ技令としては
「そうなんだ。でも博貴、一人で大丈夫」
内田の説明に合わせて、霧峯が私を
「じゃあ霧峯、サポートを頼む。大丈夫だと思うんだが、攻撃なら霧峯の方が
私の申し入れに霧峯も
「しかし博貴、瑞希の攻撃に集団性は
「ああ。むしろ心配なのはその集団性から抜け出した個体を確実に止める方だ。それなら、霧峯は適任だと思う」
私の言葉に、
「分かりました。では、ご武運を」
内田は
「で、この大軍をどうやって相手するの」
「まずは抑える。
霧峯に言った通り、まずは
「
七メートル先右翼にできた乱れに直線の光が
霧峯も負けてはいない。撃ち
必要であるのはここで抑えると同時に押し戻し、そのまま大将のところへと攻め上ることである。それは無言の内に私も霧峯も理解し意識を共有している。その証拠に、霧峯の攻撃は相手を動けなくするものではなく、逃がすものであり、
「霧峯、四時の方向、
「分かった」
「
霧峯に警告すると同時に、
その時、
「全てを消しつくす元始の光を。シャイン」
「霧峯、
混乱し、四散してゆくレデトール兵の中でただ一人、彫りの深い白人様の人物が
「ほう、脳天を直接狙ったはずだが、技力だけでその方向を
「
男からは先程まで感じられなかった強大な技令が感じられる。明らかに、先のハバリートと同格かそれ以上の力。奥に感じる力もそれと同等である以上、陽動の可能性は捨てきれなかった。
「陽動も何も、我々の目的は貴様らの
男の周囲に再び技令が
「博貴、勝算はあるの」
「勝算はない。ただ、陽の技令の代表格である光技令を破るんだ。方法は一つしかない」
意識を集中する。元々から得意な技令ではない以上、集中を要するのであるが、それと同時に少女の目の前でこの技令を放つのはいささか気が引ける感じがした。
「三元の光の下に事象の浄化を。三光」
「光も、闇も、
光を時間の壁で
「ほう、
男が皮肉の
「全てを消しつくす元始の光を。シャイン」
相手もそれを理解しているのか、防御の主である私を狙う。拡散された光もそれを弱めることはない。
「博貴、大丈夫!?」
「とりあえず、大丈夫だ。ただ、レベルが違う。この前戦った相手と同格の相手だ」
この前、と言っても霧峯はハバリートを知らない。しかし、私が知っている強者はハバリートしかいない。そして、霧峯はそれを的確に
「博貴、私に……私に技令を教えて」
「ちょっ、ここでか」
「水無香ちゃんが言ってた。私は時間技令の素質があるって。だから、私なら、守り切れる」
意志の
「霧峯、集中するんだ。集中して、時間をイメージする。それが技令の力だ。後は、その想像が相手の想像を上回れば勝てる。それだけしかない」
技令を覚えたての私には、それが精一杯の説明であった。具体性の全くない
「想像が固まれば、言葉が浮かぶ。後はそれを口に出してスイッチにするだけだ」
放たれる光線の
「光の交わりを
「全てを消しつくす元始の光を。シャイン」
相手の一段上の光に
それでも、全身が焼かれてゆくのが分かる。体力を一気に削られてゆく。攻めかかろうにも壁がなければ
できるとすれば、後ろの少女以外にない。山ノ井を残せばまだ勝機もあったが、この状況では
「霧峯、素養があるなら一から考える必要もない。自分の世界に接続する。それだけで、十分だ」
剣を構える。守っていても、戦う意志は捨てない。霧峯も目を開く。強大な光の技力を前に、
「入り乱れる時の中へ人々の歴史を。時に
「な、に。光技令を完全に受け止める時間技令とは。そこな女は
「これで、
「ふん、この程度で戦いを止めるようであれば、我々はレデトールの戦士ではない。放たれよ我が血肉。
撃鉄が下りる。レデトール人の特性。戦闘専用の身体を持ち、それによって高度な戦いを成す。技令で勝てないことを
内田の戻りも遅い。恐らく、同じ状況となったのであろう。
「良かろう。相手が
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