(5)警笛
週が明けて一月八日、三学期の開幕は霧峯の鮮烈なデビューによって始まった。
全校集会での登場こそ普通であったものの、
「ねえ、何か上級生の人が来てるみたいだけど、みんな仲がいいんだね」
この一言の瞬間、霧峯の位置が校内で決定的となったのは明らかであった。その後は案の定、ケンカを仕掛けてきた先頭の一人を
クラスでの自己紹介も
「そこにいる博貴の家の隣に引っ越してきました」
と大声で言ってしまったがため、あえなく死者の招きに
そうした騒動の中で学校は昼前に終わり、翌日の実力テストに向けて解散となった。ただ、部活生と図書部員だけはその中でも淡々と集まりつつあった。
「でもよ、つえぇな、こいつ。体則使った腕相撲で俺とタメ張るなんてすげぇな」
そう言ったのは、霧峯と三勝三敗で五分の腕相撲勝負を演じた渡会であった。これでも、ほぼ全滅した他の面々に比べれば健闘した方である。ちなみに、私は体則に加えて技令の強化を徹底的に重ねてようやく一勝を得ることができた。それこそ、司書の剣による支配以来
「で、何でおめぇは急に女運が上昇してんだよ。今までそんなことなかっただろうがよ」
「女運っていうか、
「ま、俺も人のこと言えねぇけどよ」
そう言う渡会はこの冬休みの間になんと彼女ができてしまっていた。きっかけは知り合いに誘われてサバイバルゲームに参加したところ、そこでいい勝負になった体則士といい感じになったそうである。ミリイというハングルネームだそうで本名は
「内田よか良い身体してるぜ。胸でえぇし、いい感じなんだ」
とのことであった。
「つーか、霧峯の方は胸だけ幼児体型だな。内田の方がいいんじゃねぇのか」
この直後にセクハラ発言が飛び出す渡会であったが、それだけ、巨乳好きらしい彼は上機嫌であった。とはいえ、真に気に入ったのはその強さと性格だったようであり、正々堂々と勝負して見事に分けて理解しあえたそうである。スポ根もいいところであるが、
「っていうか、別に私は内田や霧峯をそんな対象として見てるわけじゃないぞ」
「ま、おめぇのこった、そんなとこだろうな」
私の返答を渡会は軽く笑って済ませた。その細めた目は何か
「で、二条里、お前は勝てたのか」
ふと、後ろを振り返る。そこには、冬休み前と変わる事無く黒いナイロンのジャンパーに身を包んだ辻杜先生の姿があった。
「せ、先生」
「お前がこうしてこの霧峯を連れてきたあたり、お前が勝ったんだろうがな」
火こそ
「まあ、勝敗は別に構わないが、問題はレデトール側が行動を強めていることだ。先のハバリート戦以降、積極的に地球へ干渉を行い、各地で技令士や体則士と交戦している。間違いなく、この地も戦いの舞台になってくる」
「もう始まってるんですか」
「ああ、俺自身も既に十数
そう言うと、先生は流石に
「霧峯と言ったな」
静かに辻杜先生が霧峯を見下ろす。それをきょとんとした瞳で
「
先生の眼は明らかに鑑定士そのものであり、何度も何度もその背中から腕までを
「そうか。闘いがあったのか」
鳥が一羽、
早々と、皆と別れて三人で
「でも、近道でこんなとこ行くんだ」
霧峯が
「で、博貴、ここっていつもこんなに残留技令の溜まってる場所なの」
「いえ。そのような危険な場所であれば私達が使うはずがありません」
状況が今一読み込めない。そうこうしている間に内田も霧峯も戦闘態勢をとっている。
「なんか敵がいるのか」
「いえ、親玉はいません。ですが、幻想種が数体召喚された跡があります」
「そうね。私も技令は詳しくないけど、これだけ強い技令の残り
その中で全く
「陰の幻想種、マンドレイク」
黒い影が内田にとびかかる。内田は剣で
「博貴、マンドレイクは陰の召喚体です。陽の技令を当てれば容易に打ち破れます」
内田は簡単に言うが、相手が幻想種でかつ
「博貴、マンドレイクは
「それって、音波なんだろ。なら、防ぎようがないじゃないか」
「ええ。風技令でも軽減するのが精一杯です。ですから、下級でも急いで
内田の起こす風が
「博貴、彼女が」
内田の声に、反応する。
状況を視認する。マンドレイクは五体。二体は内田が
「霧峯、そこを絶対に動くなよ」
「うん」
身に余る技令を浴びながらも、霧峯は
「二重円陣」
霧峯を中心に二つの円陣を
「霧峯、大丈夫か」
「うん。ちょっと眠気が来てるだけだから、まだ大丈夫。それより、水無香ちゃんが」
「大丈夫です。私でしたら問題ありません」
そう言いながら、内田は難なく、飛びかかってきた一体を切り落とす。が、一瞬で起き上がるとその一体は再び
「博貴、技令は」
「標的が小さいうえに速くて
「もう、技令って
「それだ、あいつに向かって二発放つんだ」
一瞬だけ目を丸くした霧峯は、しかし、
「この星の祈りを天上より
雷撃に二体のマンドレイクは消し炭となる。特殊な技令的装飾の
「全く、問題ないと答えたところで、博貴はすぐに加勢をされるのですね」
「ま、帰るのが遅くなるのもなんだからな。それより、霧峯は大丈夫なのか」
「体力の
「いや、他に技令の形跡はなさそうだ」
「おかしいですね、私達を襲うつもりであればもう少しいてもおかしくないはずですが」
内田はそう言いながら剣を
「とりあえず早く戻ろう。レデトールの攻撃なのか何かの
私の言葉に二人とも笑って
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