第35話 私は二人をおいかける
「ふぁ……?」
鼻がちょっとだけむずむずして、私は目を覚ました。まだまだ全然寝たりないし、頭の方は依然ぼーっとしているけれど、肌寒かったのだ。
どうやら布団を自分で蹴っていたらしい。足元に布団が寄せられていた。
私は寝相が悪いのだ。それも気持ちよく寝ているときほど、なぜかよく動く。
布団をひっつかんで、私は再び布団の中に潜り込んだ。
「……ミッシー……は、もう部屋かな……」
意識のなくなる直前のことを私は思い出す。バイトや劇の練習の疲れもあって、映画の上映会の初っ端から、私はミッシーに寄りかかって寝ていたのだ。
嫌がるそぶりを見せつつも、結局、彼はされるがままで私に肩と腕を貸してくれた。
お願いされると断れない――三嶋朋人は、とてもお人よしで、優しい男の子だ。
だから、ついつい彼に甘えたくなってしまう。全然格好よくない、というか容姿で言えば中の下――やっぱり下の中あたりかも――だけど。
なぜか、彼が隣にいるとすごく落ち着く。
いつも馬鹿だバカだと容赦ないし、たまに軽く叩かれたりするが、嫌な感じはしない。
「えへへ……これからも世話になるぜミッシー……」
私は布団のなかでこっそりと呟く。
私がいつものように甘えたら、彼はいったいどんな顔をしてくれるだろう。私は想像する。
嫌そうな顔はするだろうし、バカバカ言われるかもしれないが、それでも最終的には照れ臭そうに、
『まあ、いいけど』
なんて言って、結局は受け入れてくれる。
彼のそういうところは本当にキモい。キモくて、おかしくて笑ってしまう。にやけてしまう。
……こんなことを考えている私も、もしかしたら彼と同類なのかもしれない。私もキモい。
そんなことを考えていると余計におかしくなって、私は布団の中で丸まって、皆を起こさないように笑いをこらえた。
バイトにのみ明け暮れていた時はこんなことなかったのに……いつの間に、私はこんなふうになってしまったのだろう。
「――……みし……」
「……よければ、一緒に………」
「……んあ?」
目を閉じ、再び意識が遠のいていこうかというところで、寝室のドアの向こうから、そんな話声が聞こえてくる。
二人。ここからだと内容は聞き取れないが、誰と誰かはわかる。
私にとって天敵である風紀委員長の正宗先輩と、それからミッシーである。
二言三言会話した後、二人の足音がどんどん遠ざかっていく。どうやら一緒にどこかへ行くらしいが……トイレかなにかだろう。
ちょっとだけ気になるが、まあ、放っておいていいだろう。それより私は眠い。疲れもあるし、明日もバイトは入っている。
「……むぅ」
しかし、時間が経つにつれ、『気になる度』が私の中でどんどん膨れ上がっていく。多分、二人のうちのどちらかが夜一人で学校のトイレに行けないから一緒に行きましょうという感じなのだろうが。
別に正宗先輩とミッシーが何をしていようが私には関係ない……関係ないのだが、そのことを考える度、なぜだかそわそわしてしまう。
「……面白くない」
ふと、正宗先輩に鼻を伸ばしてデレデレしているミッシーの表情が浮かんだ気がして、私はちょっとだけむかついた。
ミッシーが正宗先輩に単なる先輩以上の感情を抱いていることは、まあわかる。女の私から見ても、単純に美人だと思うし、加えてあの
スペックでいうと、私じゃ到底太刀打ちできる相手じゃ――
「――って、なんで正宗先輩と私がライバルみたいになってんの?」
私は自分で自分に突っ込みを入れてしまう。
寝ぼけて頭が混乱しているのだろう。そうに違いない。バイトもやって、後はみっちり劇の練習。自分で蒔いた種なので仕方ないが、これで疲れるなというほうが無理がある。
明日がある、そう自分に言い聞かせつつ、
「……ちょっとだけ後をつけてみようか」
でもやっぱり私は布団から抜け出した。
別に二人のことが気になったわけではなく、そちらのほうがなんとなく面白そうだと思っただけだ。
何もなければそれでいいし、もし何かヘンなことが起きそうなら、おあつらえ向きのシチュエーションだし、ちょっぴりからかってしまえ――そんな意地悪なことを考えて、私はこっそりと寝室を抜け出した。
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