第23話 俺はあのバカを捜索する


『ごめん、ミッシー! 私急な用事、っていうか友だちとのアレを思い出しちゃったから、帰るね! 先輩たちにはよろしく言っておいて。てへ☆』


「……あんにゃろう」


 昼の休憩を終えても戻ってこないことを不思議に思っていた矢先、俺のスマホにメッセージが届く。


 生徒会活動でも初っ端からサボることはあったが、途中離脱とは初めてのパターンである。


 というか、友だちとのアレとは。おそらく遊びにいってしまったのだろうが、昼の間に強く誘われでもしたのだろうか。


 生徒会活動の仕事なら、俺や他の皆でカバーすれば済むが、さすがに劇でメイドとヒロインの一人二役はできない。セリフも多いし。


 とにかく、追いかけることは決定である。


「九条先輩。俺、ちょっとあのバカのこと連れ戻しに行ってきます」


「お願い。こっちはこっちで二人の指導に時間がかかりそうだから」


 二人ともセリフの覚えは問題ないが、初めて男役を演じるということで、神楽坂先輩も正宗先輩もそこの表現に苦労しているようだ。


 俺もヒロイン役なんて初めてだが、セリフを読んだ後、九条先輩からは無言でただ何度も頷かれ『いいね!』された。なぜだ。


「そうだ三嶋、これを。頼んだぞ」


「え? わっ、と」


 ステージを降りて、体育館を出ようとしたときに正宗先輩から竹刀の入った袋を投げ渡される。


 アイツをかわりに殴っておいてくれ、ということだろう。ちょうどいい、俺も少し腹を立てているところだ。



 ジャージのまま電車に乗って、俺はこの周辺では一番栄えている駅の繁華街へ。


 ただの放課後、休みに関わらず、ウチの高校で遊ぶところといったらここだ。市内の中心部に較べればこじんまりとはしているものの、ショッピング施設、映画、カラオケ、ゲーセンその他、大体揃っている。俺も、何か欲しいものがあれば、まずはここをのぞく。


「……ウチの生徒、いないなあ」


 とりあえず人の多いところからしらみつぶしで捜索してみるが、まず、ウチの制服を着ているヤツがいない。


 私服ならもちろん判断はつかないが、文化祭の準備があって、その帰りにここに来ているのであれば、普段以上に目立つはずなのだが……。


 休日だからもう少し遠くに行こうと、市内の中心部のほうへ行ったのだろうか。


 もし、そうなると、人も候補の場所も多すぎて、さすがに連れ戻すのは無理だ。


 何度も連絡しているが、橋村からの返事はない。


「さて、一応、もう一度だけ探してみるか。ニアミスの可能性もあるし――」


 生徒会のグループチャットにもう少し探してみる旨を送って、俺が来た道をもう一度戻っていると、


「――あれ? もしかして、アンタ三嶋?」


「え?」


 背中から声をかけられた。振り向くと、そこには私服の女子グループが。三人組で、そのうちの一人の顔に見覚えが、あったような。キャップをかぶっている。


「ああ、やっぱりそうだ。休日に高校のジャージだったからもしやと思ったんだけど」


「えっと、確か同じクラスの……嶽矢たけやさん、だっけ」


 キモいと思われるだろうからその先は言わないが、あだ名はごくやんという。嶽という字が地獄の『獄』に似ているから、という理由だ。


「当たり。ってか、アンタもちゃんとクラスメイトの名前、覚えてんだね。ハブってる私たちなんかに興味なんてないと思ってたのに」


 教室に居れば、嫌でもそういうのは耳に入るわけだから、印象に残る人はいるだろう。


「というか、そっちこそ、良く俺に話しかけようなんて気になったね。クラスで俺のことハブってるのにさ」


「刺々しいな。……クラスの誰が中心でアンタをハブろうと始めたのかは知らないし、興味ない。私はただ面倒だから遠巻きに見てるだけだよ。ま、別にクラスで一人でも、生徒会の先輩とは仲良くやってんでしょ? ならいいじゃん」


「まあ、それはそうだけど」


 実害がなければ、俺はそれでいい。もし実害が起こっても、先輩たちが黙ってないだろうが。


「で、気まぐれに聞いてみるけど、休日にそんなカッコで何やってんの? 素でそれだったら、さすがにウケる通り越してキモいけど」


「そんなわけないだろ。……文化祭の準備で学校に来てたんだけど、橋村が急にサボっちゃって」


「へえ、葵が?」


 橋村のことを名前で呼ぶ嶽矢さん。


「葵……もしかして、橋村と仲いいの?」


「中学時代からの友だち。っても、あの子忙しいから、私は最近さっぱり遊んでないけど」


「忙しい?」


 遊びで、だろうか。生徒会ではサボりの常習犯としてしか定評のない橋村だが……。


「あれ、なに? もしかして、葵って、アンタとかには何も言ってない感じ……だったりする?」


 気まずそうな顔で、嶽矢さんが俺に訊いてきた。


「やばいな~……だとしたら、ちょっと悪いことしちゃったかも」


「……ちょっとだけ、話聞かせてもらってもいい?」


 だが、口を滑らせてしまった以上は、こちらとしても追及しないわけにはいかない。


 渋々ながらも、嶽矢さんは応じてくれた。


 途中離脱だから少し怪しいとは思っていたが、橋村には橋村でサボるのにも理由があったようで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る