第19話 俺と先輩たちは配役を決める 1


「――さて、生徒会、そして各委員長の皆!」


 定期試験も無事に終わり、およそ一週間ぶりに生徒会メンバー五人と、風紀、美術、図書、体育、保健、放送等、各委員会の委員長が一同に会している。


「試験が終わって一息つきたいと思うが……今年は二年の一度の文化祭だ! 何をやっていくか決めようじゃないか!」


 神楽坂先輩は、意気揚々とそう宣言した。


「三嶋、どうだった? 結果のほうは?」


「正宗先輩のおかげで、理系教科の点数がかなり伸びたので……これ、順位表です」


「ん。……お、60位か。すごいじゃないか」


「いえ、俺なんかまだまだですから……今後もご迷惑かけます」


「ああ、任せておけ。次は50位内を目指して頑張っていこう。まずは復習からだが……ひとまず、今回の試験で間違えたところを教えてくれ」


「あの、ここなんですけど……」


「うん……ああ、これは引っかけ問題だな。こういうところは、まずしっかりと問題文を読むことが重要だ。設題の意図を読み解くのにも多少の時間はいるから、今後は時間配分の練習もやっていこう」


「はい。ありがとうございます。……ところで、正宗先輩のほうはどうだったんですか」


「一位だ。神楽坂から取り返してやった」


「会長と一点差……やりましたね」


「神楽坂のやつ、順位が上だからって偉そうにしていたからな……鼻を明かせてよかったよ」


「お、おいこら! そこの庶務と風紀委員長!」


 今回の試験の反省会をしているところに、今回の試験で学年一位の座から陥落した神楽坂先輩が割って入ってきた。


「どうした、二位。私は今忙しいんだが。後にしてくれないか」


「二位じゃダメなんですか……って、そうじゃなくて、今は会議の時間だろ。一か月後に迫る文化祭についての!」


 神楽坂先輩がホワイトボードをバンと叩く。ボードには、その名の通り、まだ何も書き込まれていない。


 冒頭で言った通り、本日は、来月に開催される予定の文化祭についての話し合いである。ウチの高校は、体育祭と文化祭を隔年で交互にやるよう決まっていて、今年は文化祭である。


 すでに各部活動や各学年のクラスから企画書の提出は済んでおり、予算配分や出店場所については、試験前に決定している。


 その中で唯一決まっていないのが、生徒会・各委員会合同でやる出し物になるのだが。


「そうは言ってもな……どうせ私たちは劇になるんだろ? 九条」


「まあ、ね。先輩たちからずっと受け継がれてる伝統みたいなもんだし」


 俺や橋村は初めての文化祭になるので詳しくは知らないのだが、生徒会は、毎回、体育館のステージを使って劇をやることになっているそうで、脚本や演出、大道具や小道具に至るまで、すべて生徒で準備する。


 脚本や演出は九条先輩と大和先輩で担当し、その他の裏方仕事は、それぞれ委員会の人たちで用意するところまでは、なんとなく決まっているわけだが。


「まだ仕事の決まってない、美緒と葵、静、それと後は三嶋君。この四人は主要キャストに必ず入ってもらうから」


 九条先輩がそう断言する。脚本のほうはすでに大方出来上がっているようで、意外にもかなりのやる気だ。眼鏡の奥でぎらつく瞳が、やけに怖い。


「そう言われてもな……人前で演技なんて、そんなこと、今までで一度もやったことなんか……他にチョイ役はないのか?」


「あるけど、それはダメ。静はタッパもあるし、女子にも人気あるから。主演の男役、二人の内の一人をやってもらう」


「なんで私が男なんだよ……」


 それについては異論ない。普段から凛々しいいで立ちの正宗先輩が男装すれば、きっと女子生徒は大喜びするだろう。


 劇の大まかなストーリーとしては、とある国に仕える二人の騎士に対して同時に恋心を抱いてしまったお姫様が、二人との間を行ったりきたりする三角関係の模様を描くという、高校生がやるにしては、ちょっとドロドロした話だ。

 

 男役の二人の騎士に、姫様、そしてその三角関係をかき乱すメイドで、計四人。


「なあ香織、一つ確認しておくが、ヒロインの姫と騎士の男にキスシーンはあるか?」


「当たり前でしょ。私を誰だと思ってんの? 二人ともヤっちゃうし、ルートによってはメイドともスるわよ。もうぐちゃぐちゃよ」


 神楽坂先輩の問いに、銀フレームのメガネをクイッとやりつつ九条先輩が答えた。言い方といい、テンションがおかしい。


 しかもまさかの複数ルート……まあ、それは大和先輩が阻止するだろうとして、少なくとも騎士二人とは用意されているようだ。


「となると、ヒロインのお姫様は私しかいないな。フリとはいえ、正宗とキスするのなんて癪だが……だからといって、橋村にトモと合法的にキスできる権利を渡したくなんてないし」


「いやいや、どっちもフリでしょ。なんで俺にだけガチろうとしてるんですか」


 芝居だからと、そう簡単に唇を奪わせてなるものか。ファーストキスは、きちんとお付き合いしている恋人としたい。


 隣にいる正宗先輩とできれば、願ってもないことだが……。


「……なあ、九条。私から一つ、お願いというか、聞いて欲しいことがあるんだが」


「ん? なに? 出来る範囲でなら、構わないけど」


「あのな、その……」


 俺の顔へちらりと目配せしてから、正宗先輩は九条先輩へとお願いする。


「私もヒロイン役に立候補したいのだが」


「「え?」」

 

 顔を赤くして口にした正宗先輩の言葉に、その場にいる一同が呆けた声を上げる。


 ……なんだかややこしいことになってきた。

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