第7話 こうして先輩はおしかける
下心なんて微塵もないので間違いが起こることなどありえないのだが、それでも高校生の男の部屋をこうも簡単に選択肢に入れるのは、年頃の女子としてはガードが緩すぎないだろうか。
少し、心配になる。
「ん? もしかして迷惑だった?」
「いや、そういうわけじゃないけど。部屋とか、散らかってるし」
「エロ本? ティッシュ?」
「なんでそれ限定なんだよ。……普通に服とか、あとは漫画とかゲームとかだよ。あと、妹とかいるし――」
「えっ!? ミッシー妹いんの? マジ見たい、すっごい興味ある!」
「うぐ……」
食いついてしまった。家族の存在をちらつかせてやんわり断る口実にしようとしたが、どうやら逆にその気にさせてしまったようである。
「いや、そんな期待されてもな……あんまり俺には似てないけど、まあ普通だし」
「いいじゃん普通で。私だって、ほら、そうじゃん?」
「お前は普通じゃないだろ。バカだし」
「えー、それミッシーひどくない?」
本人には絶対に言ってなどやらないが、まあ、多少は他の女子と較べて顔はかなり整っているほうだと思う。俺よりも身長は頭一つ分小さいので、神楽坂先輩や正宗先輩のような美人系というよりは、可愛い系というか。
って、何をいちいち論評してるんだ俺は。
「とにかく、放課後はミッシーの家でミッシーの妹ちゃんと楽しくおしゃべりね! もう決まりだから、変更不可!」
「勉強会だ、バカ」
仕方ない。とりあえず妹には事前に連絡しておこう。初めて自宅に他人を招き入れる、しかも女子……妹が見たら、どんな反応をするだろうか。
「おはよう、後輩。今日は忙しくてお昼ご飯が一緒できなかったら、その分いっぱいハグを――って、」
「あ、会長。どもっす」
「……なんだ、橋村もいるのか」
入室する前までは底抜けに元気だったはずの神楽坂先輩の表情が、俺の隣にいる橋村の姿を見た途端、一気に曇る。
「久しぶりじゃないか。友だちとの予定はいいのか?」
「まあ、色々と邪魔が入りまして、仕方なく。でも、そのおかげで新しい予定が入ったんで結果オーライっていうか。ね、ミッシー?」
「む――」
俺を見る神楽坂先輩の眼光が鋭くなる。
説明せよ、と、そう問い詰められている気しかしない。
「あの、ただちょっとノートを俺の家で写させてやるついでに勉強会をやるってだけで――橋村が匂わせているようなことは何も」
「ねえ、会長。会長はミッシーの妹ちゃんって見たことあります? 私、これから会いにいって、お喋りする予定なんですよ?」
「お前、また余計なこと……」
俺の家族構成について会長には全て話しているが、これまで、そのことについて興味を示されたことはない。
なので、俺の妹で会長にマウントなんてとれるはずが、
「なあ、後輩」
「はい」
「妹さんは、どんなお菓子が好きなのかな? どら焼き?」
「興味津々か。……和菓子ならなんでも好きだと思いますよ」
真剣な顔で俺に訊いてくる会長。どうやら、橋村の安い挑発の効果は抜群なようで。
「いや、橋村に勉強を教えるなとは言っていない。人に教えることで、復習の効果も得られるしな。だが、場所が良くない。付き合っていない男女が、男の部屋に二人きり……お姉さん、そんなこと絶対に許しません!」
いつの間にか『先輩』から『俺の姉』に(勝手に)昇格した神楽坂先輩が、橋村から俺のことを引き離す。どうやら先輩も俺と同じようなことを想像し、心配しているみたいだ。
「と、とにかくっ! 橋村が行くっていうんなら、私も後輩の家にお邪魔するから! 妹さんと楽しくおしゃべりして、私も仲良くなるから!」
「勉強会だ、って言ってるでしょ」
勉強会→妹と楽しくおしゃべりへと目的が切り替わろうとしているが……とりあえず、妹にはもう一人、女の先輩が追加されたことを伝えておこう。
今ごろ家でひっくり返ってる気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます