第29話 デートの練習はおしまい

「五樹は僕の唯一の友人なんですよ」

「唯一って……友達彼しかいないの?」

「それをボッチ先輩に言われると複雑だな」

「も、もーっ! ボッチ先輩は禁止って言ったでしょう!?」

「あはは、ごめんなさい」

「全然謝られている感じがしないのだけど……」


 逢坂先輩はムスッとした顔をする。


「友達を作らない理由とかあるの?」

「友達なんて作らなくても生きていけるから別に作ろうとしなかった。そしたら友達が出来なかった。それだけです」

「ふうん……紡のことだから友達は数よりも質だ、なんて言うかと思ったわ」

「まさか。僕はそんな選り好みできるような立場じゃないよ」

「そうかな。紡が本気を出せば、どこでも誰とでも上手くやれそうな気がする」

「それは流石に買いかぶり過ぎですよ。先輩は友達が居ないのに何か理由があるんですか?」

「わ、私は……」


 流れで聞けそうだったが、そこで言い淀む。


「嫌なら別に話さなくてもいいですよ」

「ううん、話すよ。私……昔からアニメとかインドア系の趣味が好きでね。休日も友達と遊ばずに家にこもってばかりいたの。……言い訳かもしれないけど、背も小さいし、オシャレにも疎くて、それに……人と遊ばないから会話の仕方が分からなくなってしまって、気が付けばクラスの女子たちに色んな意味で差が付けられちゃってた。友達の作り方なんか今更分かんないし、人と話そうとするだけで頭が真っ白になっちゃってさ、いざ人前に出ると自分でもワケの分からないことばかり話しちゃって……それが恥ずかしいから人と話すことを避けて……それの繰り返し。悪循環……そうしていくうちに、ダメダメなボッチ先輩になっちゃった。あはは……」


 逢坂先輩はそう言って笑うけど、後半は涙声。無理をして笑っているのは明らかだった。


「……先輩は全然ダメダメじゃない。逢坂先輩は必死にもがいて、自分の殻を破ろうと頑張っているじゃないですか。自分を変えるのは大変だって僕も知っています。今の先輩は最高にカッコいいですよ」

「つ、紡……。も、もう、何を言ってるのよ馬鹿……」

「まあ、ボッチ先輩なことには変わりが無いけどね」

「こ、こらあ!」


 午後は水族館でまだ見ていない場所を見て回ったりした。そして、そろそろ帰るかーってところで、お土産コーナーがあった。


せっかく来たのだから早紀の為に何か買っていくか。……そう思って、お土産コーナーを見て回る。お菓子なんかも良さげだが、どうせなら手元に残るようなものがいいな。ぬいぐるみに、マグカップ……こういうものは早紀と2人で来た時に買うべきだろうか。なんて思っていると、


「彼女に何か買っていっていくの?」


 横からひょいと逢坂先輩が顔を覗かせる。


「ええ、早紀が帰ってきたときにちょっとした話のタネくらいにはなるだろうと思ってね」

「それなら、これなんかどうかな?」


 そう言って、逢坂先輩が持ってきたのは水色とピンクのイルカのキーホールダー。

2つセットで、合わせるとちょうどハートの形になるという、まさにカップル専用のアイテム。僕に彼女が居なければ絶対に買わないであろうアイテムだ。


「へえ、逢坂先輩ってセンスがいいんだな。これにしようかな」

「でしょ!? 私もこれを買うんだ!」


 そう言って、2人で同じものを買うことになった。逢坂先輩は五樹にでも渡すつもりなのだろうか。

店員さんは僕たちのことをカップルだと思っていたようで、買うときに「これは片方を相手の方に渡すんですよ」と親切にも教えてもらったので、「カップルじゃないです」と伝えたら店員さんは気まずそうな顔をしていた。逢坂先輩も苦笑い。


そうして、水族館を出て駅まで歩いて戻る。

その頃には太陽が西に傾いており、空の色もオレンジ色。眩しい夕日に照らされながら僕たちは電車に乗って自分たちの町まで帰った。電車の振動も今では心地良い。


「ねえ、紡。今日のデートはどうだった?」

「楽しかったですよ」

「ほんと!?」

「本当です」

「よかったぁ……つまらないって言われたらへこんでた」


 そう言って安堵の表情を見せる。

 こういうのに正解なんてものはないだろうから、結局は楽しんだもの勝ちなのだ。


「紡、早紀ちゃんとのデート、頑張りなよ」

「もちろんです。先輩も頑張ってくださいね」

「うんーー」


 僕が言うと逢坂先輩は俯き、元気の無さそうな返事をする。

 時折見せる逢坂先輩のこの態度が引っかかる。まさか、リハビリの終了を前にして怖気づいているのだろうか。それとも……いや、まさかな。

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クラスの美少女に僕の子供を妊娠したと言われたけど記憶にない はな @aynsley

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