第15話 懲役二週間

 昼休み後の眠い授業をどうにか気合いでやり切って、先輩のいる三階の教室へと向かう。


 2年A組の教室前。廊下から教室の中を覗くと、一人でぼーっと外の景色を眺めている逢坂先輩を見つけた。普段群れを成している女子高生がこうやって一人で居るのはとても目立つ。孤高の狼か、或いは群れからはぐれた哀れな羊か。うーん、どっちかというと後者だろうな。


 なんて考えている内に、僕が来ていることに気付いた先輩がやってくる。


「来てくれたのね。で、どうだったの?」

「早紀からオーケーが出ました。条件付きですけど」

「条件?」

「私と過ごす時間を減らすようなことはしない。それと、絶対に本気にならないこと、だそうです」

「なんだ、そんなの当たり前じゃない。女子トイレに入るような奴とずっと一緒に居るなんてこっちから願い下げよ」

「それは記憶が飛んだからだって言いましたよね……それで、期間はどれくらいなんですか?」

「そうね、2週間あれば十分かしら」

「2週間か、意外と長いなあ」

「刑務所に入るよりはマシでしょう?」

「まあ……そうですね。でも、先輩にそれほどのアグレッシブさがあるなら、五樹も告白を受けてくれると思いますよ」

「はぁ……分かっていないわね。告白が成功するのがゴールじゃないのよ。その先、上手く付き合っていけるかが重要なの。……ちょっと、何よその目は?」

「いや、先輩って意外と真面目に考えているんだなあって」

「そんなの当たり前のことじゃない。周りが何も考えていないだけ! 私はね、ノリだけで付き合う脳内お花畑野郎とは違うのよ。あいつら何にも考えていない馬鹿ばっかなんだから!」

「こりゃなかなか拗らせていますね」


 とは言ったけど、先輩の言うことは百里あった。恋愛映画なんかではなんやかんやあって、ヒロインと付き合い始めたところで物語は終わってしまうけど、現実ではそこからがスタートなのだ。むしろ、本当の苦難というやつは付き合ってからやってくる。勢いだけで付き合って、失敗するカップルにはなりたくない。逢坂先輩はそんな未来を見据えてこの取引を持ち出したのだろう。知らんけど。


「じゃあ私これから帰るんだけど」

「……はぁ、お帰りくださいませ」

「これから帰るんだけど!」


 逢坂先輩はそれだけ言ってここから動こうとしない。

 これはなんだろう。私が帰るから一緒に帰ってくれないかしら? という遠回しなアピールなのだろうか。


「さては先輩。素直になれないツンデレタイプですね?」

「なに馬鹿なことを言っているのよ」

「うーん、もっとデレ部分を見せてくれるといいんだけどな。言っておくけど、僕は早紀と帰るのでここでサヨナラですよ」

「ちょっと、それじゃ意味がないじゃない!」

「さっき条件を伝えた通り、早紀との時間を減らすわけにはいかないんだよ」

「困ったわね……」

「ほんと、困った先輩だ」

「何か言った?」

「いえ、何も」


 先輩は眉間にしわを寄せながら唸っている。

 大体、彼女が出来たら友人との付き合いも減ると言われているのに、今日知り合ったばかりの先輩と一緒に居ろと言われても無理があるんだよ。しかし取引に応じてしまった以上、なにかいい案がないか僕も考える。そして閃き。


「そうだ。先輩、早紀と会ってみませんか? もしかしたら友達になれて、ボッチを卒業出来るかもしれませんよ?」

「え、えーっ!? でも……それは……」


 急に口ごもる先輩。何故だか知らんけど打って変わって消極的な反応を見せてくる。


「うん、それがいい。そして今日は3人で帰ることにしましょう。早紀も先輩のこと知っていた方が安心だと思うし。これもリハビリの内です」

「ちょ、ちょっと、勝手に決めないでよ! って、腕を掴むな、引っ張るなぁーっ!!」


 そんな先輩の叫び声を校内に響かせながら、僕は先輩と共に早紀の待っている校門前へと急ぐのだった。


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