第20話 時代遅れなプレゼント


「はい、プレゼント」


 もはや日課になってしまっている先輩と2人きりでの昼食会。

 そこで突然渡されたピラピラの1枚のカード。そのカードにはアニメの女キャラが描かれている。

 もちろん僕の知らないキャラだ。知っているキャラの方が少ないんだろうけど。


「なんですか? これ」

「テレホンカードよ」

「これはまた時代遅れなプレゼントですね」

「スマホも持っていない時代遅れな後輩にお似合いでしょう?」

「確かに」


 そして、そのテレホンカードをよく見ると、既に何回か使用されており、穴が空いている。


「犯罪者予備軍の後輩なんかに新品をやるのは勿体無いでしょう? でも、昨日付き合ってくれたから、せめてものお礼。ありがたく受け取りなさい」

「わー、すげー嬉しいです。ありがとうございます」


 棒読みでお礼を言う。

 逢坂先輩から大変素晴らしいプレゼントを頂けたので、今日一日は幸せな気分で過ごせそうだ。財布のカード入れにしまっておけば、魔除けぐらいにはなるだろう。


「じゃあ、僕からはカルシウムのサプリメントをプレゼントです。未開封品なので安心してください」


 何故かカバンに入っていたカルシウムのサプリメントを先輩に渡す。


「なぜカルシウム……悪意が感じられるわね」


 とか言いつつ、早速受け取ったカルシウムのサプリメントをスナック感覚でボリボリと食べ始める先輩。


「僕たちもプレゼントを渡せるような仲になれたことだし、今度は五樹と会ってみませんか?」

「そ、それはまだ早すぎるからダメ! きっと今会っても早紀ちゃんと会った時みたいになるだけよ。付き合う前にマイナスな部分は見せたくないの!」

「まあ、嫌なら強制はしませんけど……」


 恋愛について現実的な考えをしていたわりに、好きな人に自分の本当の姿は見せたくない、か。


「どっちにしても対人恐怖症のようなところはなんとかしないといけないですよ」

「なんとかならないから困っているんじゃない」

「昨日の先輩を見ている限り、お店のレジとか、駅とか、そういう場面はちゃんと一人でも出来るんですよね」

「あれは絶対にしないといけないものだから……でも、内心ドキドキで、出来るなら避けたいわよ」

「……ってことは、やっぱり先輩は荒療治が向いているみたいですね。逃げられないような状況を作って、無理矢理克服するしかないんだ」

「で、でも……どうすればいいの?」


 あらかじめ用意しておいたアルバイト情報誌を取り出して、僕は笑顔で話す。


「一緒にアルバイトをしましょう」



 ――というわけで放課後。皮肉にも早速先輩からもらったテレホンカードを使って、アルバイトの申し込みの電話することにした。応募するのは常にアルバイトを募集していて、人手が不足してそうなファミレスだ。ここなら先輩でも面接に落ちることは無いと思う。つうか、落ちたら相当ヤバイと思う。


「ね、ねえ。やっぱりやめない? まだ間に合うよ?」


 電話ボックスの入り口で、僕の制服の裾を掴みながら涙目で制止する先輩。さっきまでは「ま、やってみてもいいかな」「先輩だし、アルバイトくらいできるし」なんて大口をたたいていたくせに電話ボックスを前にして、急に弱気になってしまった。


「お金も稼げるし、リハビリにもなるし一石二鳥です。僕と一緒に新しい世界に飛び込みましょう!」

「やっぱ、私にアルバイトなんか出来るわけないってば! よりによって飲食店!! 私みたいな人間が一番やっちゃいけない仕事だよ~~!」


 赤ん坊のように駄々をこねる先輩を無視して、ファミレスに電話をかける。

 

 2人でアルバイトをしたいということを伝えると快く了承された。よほど人手不足が深刻なのか、必要書類だけ持ってきてくれれば面接も免除されるとのことだった。念のため、先輩が極度の人見知りだということを伝えたのだけど、問題ないとのことだった。後悔しても知らんぞと僕は内心ほくそ笑む。


「応募、無事完了しましたよ。先輩の人見知りもノープロブレムだそうで。早速明日から始まるそうです」

「うぅ……こんなことならテレホンカードなんかプレゼントしなければよかった……」

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