第25話 その後


 屋上での一件があったものの、それ以降は須藤先生のお陰で何事もなく平和な日常を送れていた。


 あの一撃がよほど効いたのだろうか。絡んでこなくなったのは良いことである。

それにしても、今どき生徒に体罰を行う先生というのも珍しいよね。もしあの一件のせいで須藤先生がなんらかの処分を下されたりでもしたら、助けられた僕としては申し訳なくなってしまう。……まあ、そんな噂はおろか、生徒に暴力を振るったとかいう話も聞いていないので多分大丈夫だろう。大丈夫だと思いたい。


 閑話休題。


ファミレスでのアルバイトにもようやく慣れて来て、逢坂先輩も僕の目から見る分では人と普通に会話が出来るようになってきたと思う。あと、これは余談なのだが、屋上の一件以来僕のことを『後輩』呼びではなく『紡』と名前呼びしてくるようになった。どんな心境の変化があったのか知らないが、これもリハビリの成果なのだろうか。いずれにしても良い傾向である。


光陰矢の如し。時間というのはあっという間に過ぎるもので、2週間がもう既に終わろうとしていた。

そんな金曜日の昼休み。しおらしくなっていた逢坂先輩もいつもの調子に戻り、いつものようにお弁当を食べていると、逢坂先輩が突然こんなことを言いだした。


「ねえ、最後にデートの練習をしてみたいの! 彼女が海外旅行に行っているんだし、バイトもお休み。紡のことなんだし週末に予定なんて無いでしょ?」

「……確かにないけど、デートの練習とか必要あります?」

「あるに決まっているじゃない。むしろそれが一番重要だと言ってもいいくらいよ。だから、ね? 行こ?」


 バイト中の逢坂先輩を見ていると最初に比べて改善が見られているのは事実だった。ハッキリ言って普通の女子高生並みには慣れたと思う。こうしてリハビリ出来る時間もあと少し。そろそろ次のステップに進んでもいいのかもしれない……が、どうだろう。デートというのはお互い初々しくも好きな者同士一緒に出かけるから楽しいのであり、練習するようなものではないと思う。失敗もまた思い出となって、後から笑い話に出来るような、そういうのが恋人だと思うのだけど、この考えは時代遅れなのだろうか。


「なんだか腑に落ちない顔をしてるわね。……そんなに私とのデートはいや?」

「デートじゃなくてデートの練習でしょう」

「そ、そうだけど……」


 と、逢坂先輩はなんだか言いづらそうな顔をしている。

 デートの練習とは言ったけれど、こうして誘うのにも彼女なりに頑張って切り出した言葉なのかもしれない。それをバッサリと切り捨ててしまうのは非情。なんだか可哀想な気がした。


「分かりました。リハビリを引き受けたからにはとことん付き合いますよ」

「や、やった……!!」


 男に二言は無い。週末は逢坂先輩とデートの練習をすることになった。

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