第26話 デートの練習

 現在の時刻、日曜日の午前9時。

 澄み渡る青空。ぴかぴかと輝くお日様。今日はなんというデートの練習日和なんでしょう。


 そうそう。どうでもいいことだけど、逢坂先輩は日曜日のことを週末って言っていた。でも実際の一週間の始まりというのは日曜日らしいね。

 まあ、日本語というのは変化していくものみたいだし、多くの人も土日が週末と捉えている人が多いだろう。実際、僕もその内の一人だ。


 さて、いつもの集合場所である駅前に来てみたはいいが集合時間は9時半だから、まだまだ時間には余裕がある。早紀のときとは違って「紡くんに早く会いたいから」なんて理由で早く来たりはしないだろうし、僕が待つことは想定内だった。


 で、待たせる男よりも待つ男になるという目標は達成したのはいいが、かれこれ待ち続けて50分以上も経つ……というのに逢坂先輩は一向に現れる気配はない。集合時間から20分の遅刻である。

 短気な男ならこの時点でキレてしまっているかもしれないが、僕は冷静な男だ。電車でここまで来ると言っていたから、もしかすると遅れが出ているのかもしれない。

 逢坂先輩は僕とは違って文明の利器であるスマホを持っているはずだから、近くにある公衆電話で電話をかけて、今どこにいるのか聞くことが出来る。……が、僕はそこで新たな問題点に気が付いてしまう。


 そう。逢坂先輩の電話番号を知らないのだ。


 こんなことならデートの練習前に聞いておくべきだった――そう悔やんでもどうにかなるわけでもなく、僕はそれから更に15分ほど待たされることになった。


「ごめん! 紡おまたせ!」


 そう言って息を切らしながら現れた逢坂先輩。計35分の遅刻である。

 待つ男になってみた感想としては、待つのは意外と疲れる。出来るなら待つよりも待たせる男になりたいというのが素直なところだ。


「まず、デートに遅刻はあり得ないです。こんなことしたらいくら五樹でも嫌われますよ」

「ごめんってば。本当は電話したかったんだけど、後輩スマホ持っていないでしょう? だから、どうも連絡が出来なくって……。はい、これ。私の連絡先。一応渡しておく」


 逢坂先輩の電話番号が書かれた紙を受け取る。


「電車が遅れていたんですか?」

「ううん、そうじゃなくて……」

「まさか、寝坊?」

「ち、違うわよ!!」


 心から軽蔑をするような顔で言うと逢坂先輩は必死に否定する。

 どんな理由であれ、遅刻をしたという事実に変わりは無いわけであり、もしこれが本当のカップルだったら時間にルーズなやつと見られてしまうのは致し方のないことだ。場合によっては喧嘩になって破局の原因にもなったりする。監督役として、僕は厳しめにいかせてもらう。


「服を……」

「服?」

「デートにどんな服を着て行けばいいのかなって思って……」


 恥ずかしそうに俯く逢坂先輩の恰好を改めて見てみると、白いフリルニットに、ベージュのトレンチスカート。女性用の服はもちろん、ファッションに疎い僕はよく分からないけど、なんとなくデート用に頑張って選んだんだなっていうのは伝わってくる。そんな格好だった。


「服を選ぶのに時間がかかっていたということですか?」

「そう、そうなのよ! 遅刻したのは悪いって思ってる。本当にごめん!!」


 そう真剣に謝られたら、こちらとしても許さないわけにはいかない。



「罰として今日のデートの練習はタメ口でいきます。いいですね?」

「う、うん……いいわ。敬語でデートなんておかしいもんね」

「よし、じゃあ、さっさと行くぞ七海」

「た、タンマ! タメ口はいいけど呼び捨ては禁止!! しかも下の名前じゃん!」


 めんどくさいな。


「それで……どうかな? 私の服……」

「ファッションについて詳しくないけど、先輩が真剣に選んだんならそれでいいんじゃないかな」

「なにそれ、テキトー。……少し褒めてくれてもいいじゃない」

「褒めてもらうのは五樹本人にしてもらってくれ。……ってか、遅刻したんだから褒めるわけないでしょう」


 そう言うと逢坂先輩は不満そうな表情で僕を見つめる。そんな先輩を無視して、僕は駅の中に入っていった。

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