第27話 デートの練習?

ガタンゴトンと、電車に揺られながら逢坂先輩と隣り合って座っている。

 変わりゆく街並み。飛んで行く景色。それをただぼーっと眺めていたんだ。日曜日の朝だからか、電車内はかなり空いている。この町の住人はインドア派が多いのだろうか。


「ねえ、紡」


 3つ目の駅を通り過ぎたところで、逢坂先輩が僕の顔を覗き込んでくる。


「なに?」

「電車に乗ってどこに行くつもりなの?」

「さあ」

「さあって……大丈夫なの?」

「全くのノープランだから大丈夫じゃないかもしれない」

「ちょっ、てっきり行先が決まっているんだと思ってた……。あんな自信満々な顔していたのに、紡ってば何も考えていなかったの!?」

「デートは誰と行くかが一番大切なんだよ。場所はその次だ」

「……本当は考えるのが面倒なだけじゃないの?」

「まさか。どんなつまらない場所でも好きな人と行けば、薔薇色の世界に変わって楽しめるもんだよ」

「……それって、私と一緒に居たら楽しいってこと?」

「少なくとも退屈はしないかな」

「何よそれー」

「それにさ、なんかこういうのって冒険しているみたいで楽しくないか?」

「……たしかに楽しいかも」

「だろ?」


 僕がそう笑うと逢坂先輩もつられるようにして笑顔に変わる。

 電車に乗る頻度は多くても行先は大体いつも決まっているから、それ以上乗ったりすることはまずない。世界が広いということは知っていても、僕たちが生活する中で実際に行くことが出来る世界というのはあまりにも狭いのだ。だから今日はその世界をぐんと広げてみた。

 見慣れない景色。見慣れない建物。そんなものを見つけては逢坂先輩と話して盛り上がる。そして気が付けば、僕たちは終点駅まで乗ってしまっていた。2人、超過料金を支払って駅から出る。


「ここ何処だか分かんねー!」

「あはは! 超ド田舎なんだけど!」


 僕も逢坂先輩もなんだか変なテンションになっていて、何故か笑いが止まらない。

 辺りを見回すと人工物よりも自然の方が多く、人の姿も見えなかった。


 場所はその次だとは言ったけど、流石にこんな場所でデートの練習など風情のかけらもないので、逢坂先輩のスマホで近くに何か楽しめるようなところが無いか調べてもらう。


「近くに水族館があるみたい!」

「じゃあ、そこに行こうぜ」


 逢坂先輩のスマホを頼りに水族館に向かう。歩いている内に段々と人工物も増えてきた。

 そういえば、近くには海があったんだっけ。だから水族館があるのかなあ、とか考えながら僕たちは歩いた。途中、迷子になりながらもなんとか到着。


 田舎ということで、どうせこじんまりとした水族館かと思っていたが、意外と立派な建物で規模も大きめだ。ここらへんでは割と有名なのか人の数も多い。


2人分の大人料金を支払って入場。

海中トンネルっていうのかな、周囲がガラス張りになっていて、自分の周りで魚が泳いでいる道を通って中に入っていく。近くでサメが泳いでいるのが見えた。初っ端から大迫力である。


「逢坂先輩って、水族館に来たことあるのか?」

「小さい頃、両親に連れて行ってもらったことがあるくらいかな。紡は?」

「僕は初めてだ」

「それなら丁度良かったじゃない。……あ、見て見て。紡に似た顔の魚がいるよ!」


 逢坂先輩はガラスに顔をくっつけて楽しそうにはしゃいでいる。

 先輩の言う魚はいかにもアホっぽい面構えをしていた。


「……これ似てるか?」

「紡がぼーっとしてるときの顔にそっくりだよ」

「こうか?」


 と、それっぽい顔を作ってみせる。

 似てる似てない以前に、こんなことをやっている自分がアホみたいだ。


「あはは! めっちゃ似てるー!!」

「マジかよ。超失礼なんだが。謝れよ魚に」

「ちょっ、なんで魚の方なの! あははははっ! ぷっ……ダメだ。思い出しちゃう……ふふっ」

「いくらなんでも笑いすぎだろ」


 デートの練習とは言ったけど、なんだか僕もすっかり普通に楽しんでしまっている。デートなんてものは結局楽しんだもの勝ちなのかもしれない。

 それからヒトデやカブトガニのお触りコーナーのようなところで「きもーい」とか言って遊んだり、爬虫類コーナーなんか見たりして、水族館の半分くらいは回れたと思う。


「ねえ、紡は早紀ちゃんとデートしたことあるの?」

「ないよ。正式に付き合いはじめて、すぐ海外旅行に行っちゃったからな」

「そうなんだ……えへへ」

「なんか今、嬉しそうな顔していなかったか?」

「し、してないし! 大体、デート中に他の女の子の話をするのは失礼だと思うの!」

「はあ? そっちから聞いてきたんだろうが……」


 って、話をしたところで「ぐう~」と逢坂先輩の方から妙に高い音が聞こえてきた。


「おならか?」

「お腹よ!!」

「一文字しか違わないじゃんか」

「意味が全然違うのよ!!」


顔を真っ赤にして恥ずかしがっている逢坂先輩。

たくさん歩いたからお腹が空いたのだろうか。

時間を見ると丁度お昼時だった。なんでもこの水族館にはちょっとしたレストランというか、食べる場所があるようで、せっかくだからそこに行こうぜって話になった。


「カレーにラーメン……普通の定食屋って感じだな」

「もう、水族館になにを期待しているのよ」

「水族館だから寿司とか、海鮮モノを期待していたんだけどな」

「水族館は魚を見て癒される場所なのに食べたくなんかならないわよ」

「そうか? 僕はめちゃくちゃ食べたくなったぞ」

「紡がおかしいだけ」


 どうも僕と逢坂先輩は考えが合わないようだ。価値観の違いってやつなのだろう。

 しょうがないので僕はカツカレーを、逢坂先輩は味噌ラーメンを注文することになった。

 味はあまり期待していなかったのだけど、意外と美味い。逢坂先輩のラーメンも少し貰ったけどそれも美味しかった。

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