第28話 イルカショーの後で

「ねえ、聞いていい?」


 イルカのショーが終わったところで、突然逢坂先輩が真剣な表情で僕を見つめてきた。

 ここで駄目ですと言ったらどんな顔するのか見てみたくなったが、あまりにも真剣な表情だったものだから自制する。


「五樹のことなんだけど……」

「うん」

「……紡と五樹ってどんな関係なの?」

「どんな関係って、普通の友達だけど」

「本当に?」

「まさか、僕がソッチ系じゃないか疑っているんですか? 言っとくけど、僕はちゃんと女の子が好きです。五樹の方は知らないけど」

「ち、違う! そ、そんなこと疑ってないし!」


 顔を真っ赤にして叫ぶ逢坂先輩。


 いつまでも終わったイルカのショーの席に居座り続けるわけにもいかないので、水族館の中に入り、泳いでいる魚たちが見れる休憩スペースの長椅子に座って話すことにした。


「……他になんかないの? 関係だけじゃなくても、五樹に関わることならなんでもいいわ」

「そう言われてもなぁ……。逢坂先輩だって急に自分の友達のことを説明しろって言われても困るでしょう?」

「……それ、私に友達が居ないと分かってて聞いているのかしら?」

「そういえばそうだった」


 って言ったらなんだかすげえ怖い顔で睨みつけてきたので、素直に謝る。


「……じゃあ、出会ったときのエピソードとかは?」

「出会ったのは中学生のときで、すげー陽気なやつだなあっていうのが第一印象だったな。……えーと、どんなことがきっかけで友達になったんだったっけ」

「覚えていないの?」

「ほら、僕って記憶が時々飛んでしまう変な体質の持ち主でしょう? こんなんだから記憶も曖昧なんだよね」

「記憶が飛んでしまう体質ね……それ、本当なのかな」


 僕が笑って言うと、逢坂先輩は僕の方を見て疑うような、怪しい表情をする。


「ちょっ、本当だってば。いい加減信じてくれよ!」


 必死に懇願すると、


「いいよ。信じてあげる」


 優しく微笑む逢坂先輩。……意外にもあっさりと信じてくれた。


「本当か!?」

「でも、女子トイレでの出来事は許したわけじゃないから」

「そ、その件はこのリハビリが終わったら忘れて欲しいな……」

「……うん。リハビリが終わったら……ね」


 そこで何故か逢坂先輩は曇った表情をしたのを僕は見逃さなかった。

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