第23話 屋上の攻防

屋上に行けるなんて青春ドラマか小説の中みたいだなあっていう微かなワクワク感と、これから何されるんだろうっていう大きな不安を胸に、僕は屋上の扉の前に連れてこられた。


「こんなところ初めて来ました。へー、こうなってるんだ」

「……いいから黙ってろ」


どうやら屋上は普段から開放されているわけではないようで、鍵がかかっている。

はて、どうしたものかと眺めていると、不良の男はポケットから鍵を取り出した。鍵を差し込み、回す。

それにしても、この不良先輩はどうやって屋上の鍵を手に入れたのか。もしかして僕の為にわざわざ入手したものなのだろうか。色々とリスクもあるだろうに、有難迷惑な話である。


ガチャリ。扉を開けると涼しい風が流れこんできた。

施錠されていたから当然なのだが、屋上は僕たち以外誰一人として姿は見当たらない。滅多に出入りされていないのか、コンクリートは土埃で汚れている。

しかし、柵の外側を見れば、この学校の屋上は町の景色が一望出来ていい眺めである。風もいい感じに吹いていて心地がいい。こんな状況でなければ素直に喜べたのになあ。残念、無念、また来年。って、来年にはこの先輩たちも卒業してしまうのか。こんなことをしていて平気なのかなあ。僕に構うよりも勉強した方がいいんじゃないですかね。


 なんて呑気に考えていると、僕の身体はゴリラ先輩に乱暴に突き飛ばされて、コンクリートに転がされてしまう。この先輩、見た目だけじゃなくパワーまでゴリラ並みだ。


「なんだァ? おい、てめえら、こんな弱っちい奴に負けたのか?」

「ち、違うんすよ。コイツ、一方的にやられていたのに、急に人が変わったように強くなったんです」


 前の体育館裏での出来事を説明してくれる不良先輩。

 やっぱりアレは僕がやったのか。別人格の僕やるじゃん。すげーじゃん。

 そして今、まさに暴力を振るわれそうな状況だから、ここで別人格に切り替わってくれたら嬉しいんだけどなあ、と僕は考える。が、現実はそう上手くいかない。


「そいつは面白そうだな。……おい、紡。その強くなった姿を俺にも見せてくれよ!」


 そう言ってゴリラ先輩は楽しそうに僕の腹に蹴りを入れてくる。ったく、このゴリラは戦闘民族か何かかよ。UFCにでも行ってろ。

 前に小分の不良先輩から受けたキックとは段違いのパワーだ。食べたものが今にも出てきそう。……いや、実はちょっとだけ出てきてしまっている。ぐえ。


「チッ……駄目だな。コイツ、イモムシみたいに全然動かねえ。お前らも手伝ってくれ」

「へい!」


 と、今度は3人がかりで僕を踏みつけたり、蹴ったりしてきた。

 僕のような奴を相手にするなら1人でも充分だろうに。一対三とは卑怯な連中である。まったく武士の心を持ち合わせていないのかねえ、とか最初は考えていたけど、そんな余裕も無くなるほどに痛い。超痛い。嵐よ早くに去ってくれ。そう祈るもなかなか去らぬ。


 そういや、某バトル漫画で自分の息子を覚醒させるためにわざと敵に痛めつけさせるような場面があったような気がする。その時は親じゃなくて、変な緑の肌をした宇宙人が助けてくれたのか、助けてくれようとしたのか記憶が曖昧だけど、あの緑の肌の宇宙人は良き理解者だったよね。んで、そんな僕を助けてくれる優しい緑の肌をした宇宙人はどこ?


 頼みの綱の人格の切り替えも起こらない。ここまでのピンチで切り替わらずにいつ切り替わるんだよ、って内心僕の別人格に対してもイラつき始めた。いや、イラつく相手を間違えているか。

 

 今日も放課後にファミレスでのバイトがあるから支障が出るような怪我はやめて頂きたいのだけど、言ってやめてくれそうな雰囲気でもない。


 と、その時だ。

 バシーンと、突然屋上の扉が開いた。


「そこで何をしている!!」


 叫んだのは生徒指導部の鬼のスドーこと須藤先生だった。あと何故か後ろには逢坂先輩がいる。彼女が須藤先生にチクってくれたのだろうか。助かった。

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