委員会活動と幼馴染
早朝。僕は今現在風紀委員の仕事の一つ、校門での身だしなみチェックを咲夜と共に行っていた。
「そこ。スカートの裾短い。きちんと直す」
「ええ~これぐらいいいじゃないですか~」
「ダメだ。特例は、認められない」
「ちぇ~」
僕にそう指摘された女性は渋々と言いながらも、スカートの裾をきちんと既定の長さへと戻してくれた。素直に聞いてくれるのは本当に助かる。僕たちの学校は皆いい子ぞろいだからこうだが、他校だとはこううまくはいかないらしく、その話を聞かされた時は、表情が凍ったものだ。
「感心、感心。今後は、こういう事は、ないよう気をつけろよ」
「は~い。気をつけま~す」
「うむ」
ーーやっぱりこのしゃべり方嫌だなぁ……戻したいなぁ……
僕の口調が普段と違うのには当然理由があり、端的に言うならば他の生徒から舐められないようにするためだ。
僕の普段の口調や性格は咲夜曰くラフすぎて、特に女性からは馬鹿にされる典型的なタイプらしい。
その様な人物が風紀委員長となれば風紀委員の威厳を損なう恐れがあると感じた咲夜は、僕に対して口調を改めるよう強制し、今も尚それが続いている。
ただ僕としては慣れない口調で話すのは当然疲れるし、何より違和感がありすぎて気持ち悪く、何より他の人を威圧しているようで、申し訳ない。
「な、なぁ咲……」
「ダメだよ。絶対ダメ」
「うう……」
風紀委員の活動をしている時の咲夜は、非常に厳しい。特に僕に対しては、それこそ異常な程に。
二人きりの時は一転していつもの彼女なのだが、周囲の目が発生した途端彼女は、それこそ鬼の様に厳しくなり、何度泣きたくなったことか……
「おはよう。雅也君。今日も朝からご苦労様」
「あ、先輩。おはようございます」
先輩は昨日の取り乱しようは嘘の様で今は、僕が好きだった頃の綺麗な先輩をうまく演じており、そんな彼女を変態だとは誰一人思っていないだろう。
「そ、そんなじっと見ないで頂戴。こ、興奮しちゃうじゃない」
訂正。やっぱりこの人は、常時変態だ。はぁ……
「先輩。貴方生徒会長の癖にスカートの丈少し短いのではないでしょうか?」
「あら? 木葉さん、いたの? 全然気が付かなかったわ」
先輩は咲夜の事をわかりやすく挑発するが、咲夜は表情一つ変えない。
「そういうのは、いいので早く戻してください。じゃないとここで脱がせますよ?」
「じょ、冗談でもそういう事言うのは、止めて欲しいのだけれど……」
「冗談じゃないですよ。私は本気です」
咲夜は手をぽきぽきと鳴らしながらゆっくりと先輩へと迫る。その様は男の僕から見てもかなり怖く、まして美人の咲夜がそれをすると迫力は、より一層凄まじい。
「わ、わかったわよ……」
先輩も僕と同じ気持ちだったのか少々おびえた様子で、咲夜の要求を呑んだ。
「はい。いいです。それじゃあさっさとご自身の教室に向かってください」
「ちょ、ちょっと待……」
「なんですか? まだ何か用があるのですか?」
「貴方に用があるんじゃなくて、雅也君に……」
「それって
「ぐぬぬぬぬ……」
本当にこの人咲夜に弱いなぁ……
先輩は一見馬鹿そうに見えるのだが、勉強の分野だけで言えばそうではなく、学年一位の実力を持つ紛れもない秀才なのだ。
咲夜も頭こそいいものの先輩レベル程ではなく、二人が純粋な知恵比べをしたら先輩が余裕で圧勝するだろう。そうであるにも関わらず先輩は、咲夜に口喧嘩ではただの一度も勝ててはいない。それは何故かと言われれば二人の相性の問題だろう。
先輩は咲夜に対してめちゃくちゃ相性が悪く、咲夜の様な女性は言ってしまえば
逆に言えば咲夜にも苦手なタイプは存在しているし、僕はその人物を
「ま、雅也君‼ ひ、昼‼ 昼に、貴方の教室に行くから‼ 待って……押さ……」
「ほら。早く行く」
咲夜は、先輩の事を本気で嫌っているのだろう。扱いがどんどん雑になっていく。そんな先輩の事を少々憐れには思うが、同情はしない。
「全く。朝から本当に面倒な人。いっそ事故にあって死なないかな」
「ちょっと、待て‼ いくら何でもそれは……」
「雅也君。口調」
「う……」
こんな時でも口調を指摘してくるとは……本当に咲夜の奴徹底してやがる……
「はぁ……それに雅也君も雅也君だよ。先輩に話しかけられただけで口調戻っちゃうし、先輩を見て鼻の下伸ばしているし、もう少し風紀委員長としての自覚持ってよね?」
「いや、待て。鼻の下は、断じて伸ばしていない‼」
確かに先輩は、見た目だけは完璧だ。そこは認めるし、一時期はそんな彼女に惹かれていましたとも。でも今は、違う。本性を知ったあの人の事は、恐怖の対象だし、咲夜の方が可愛い。というか比べるのもおこがましい。
「嘘。どうせあの人の事未だに好きなんでしょう? 口では、嫌いとか言っておきながら今も仲良くしているのは、そういう事でしょう? 違う?」
「違う‼ 僕が好きなのは……」
咲夜。そう言いそうになったところで、僕は咲夜に嵌められている事に気付き、咄嗟に唇をかむ。
「うう……痛い……」
「ま、まーくん唇から血‼ 血が出ているよ‼」
危ない、危ない。つい咲夜が好きだと口走ってしまう所だった。
「咲夜。お前。家帰ったら覚えておけよ……」
「そんなことよりは、早く止血しないと‼」
「いや、これぐらい……」
「いいからまーくんは、黙ってて」
咲夜は僕を無理やり押し黙らせると自身のハンカチを僕の唇に押し当ててくる。そんな僕たちの事を周りに人が好機の眼で見ないわけがなく、その事に対しする羞恥と咲夜を身近に感じられる嬉しさの相反する気持ちをこの時の僕は、味わっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます