ゲームセンターと幼馴染

「さて‼ 今日は命一杯遊ぶわよ‼」

「テンション高いなぁ……」

「ふふふ……そうだね。こんなに生き生きしている朱音は久しぶりに見たかな」

「俺からすればこの朱音がデフォルトなんだけど……」

「あ、そうですか」


 なんか俺だけ朱音の事をよく理解していないみたいで、妙な疎外感が……というか敦。お前絶対朱音と仲いいだろう。仲悪いとか嫌いとか絶対嘘だろ?


「よし。敦‼ ひとまず格ゲーで勝負するわよ‼」

「は!? ちょっと待て‼ 俺は今日雅也と……」

「あんたの意見は聞いてない‼」


 やっぱり仲いいじゃないか。


 敦は首根っこを朱音にガシリと捕まれ、ずるずると格ゲーのコーナーへと連れていかれていた。その時の朱音の横顔は、とてもイキイキしていた。


「やっぱりあの2人って……」

「ん? どうかしたの?」

「いや。もしかしてあの2人ってできてるのかなって……」

「どうしてそう思ったの?」

「朱音の横顔」

「横顔?」

「うん」


 先程の朱音の横顔を僕は、今まで一度も引き出せた事は無く、とても魅力的な笑顔をしていたのだ。それこそ心に決めた人がいる僕の心を多少なりともざわつかせるぐらいには。


「ふ~ん。まーくん。朱音のことはよく見ているんだ。私と違って……もしかしてああいう子がタイプなの?」

「違う、違う。僕のタイプの女の子は、可愛くて、健気で、一途で、いつも笑顔で、癒してくれるそんな女の子が好きだよ」


 さらにエロいと尚よしだが、流石にそこまでは言わない。というかここまで言えば咲夜には、僕の好きな人が誰か伝わるとおもうんだけど……特に一途という部分で。


「ふ、ふ~ん。そ、そっか。えへへ……」


 どうやらうまく伝わってくれたらしく、咲夜は今だらしない笑みを浮かべている。


「そういう咲夜の好みの男の子は、どういうのなんだ?」

「ん? そんなのだよ?」

「いや。それは好みじゃなくて、人物であって……」


 というか呼び方変わってるし。


「だからまーくんが好みなの。仮にまーくんと同じ性格、同じ言動、似たような容姿をした人がいてもその人は、まーくんじゃないでしょう?」

「それは、まあ……そうだな」

「つまりそういう事だよ」

「どういう事?」

「だから‼ 私が好きなのは、まーくんなの‼ 金剛雅也君の事が好きなの‼ 他の人じゃダメなの‼」

「そ、そうか……」


 顔が熱い。ああ、もう。なんで咲夜はこうも男らしいのかな。僕なんて素直に咲夜が好きだと言えないのに、この子は、本当に、本当にもうなんなんだ。


「あ、うん。あ、ありがとう……」

「ふん。わかってくれたなら何より……ってまーくん顔赤いよ?」

「う、うるさい‼」


 一体誰のせいでこうなっていると……


「う~ん?」


 こういう所は鈍いのかよ‼ ああ、もう言いたい‼ 咲夜が好きだって超言いたい‼ けど言えない‼ ああ、もうもどかしいし‼ 過去の自分をぶん殴りたい‼


「僕の事はもういいだろう‼ それより早く遊ぼうぜ‼」

「う~ん。まーくんがそう言うのなら……」


 よかった。うまく話題を逸らすことができた。これ以上咲夜にあんな様な事を言われようものならばそれこそ僕の方が、堕ちかねない。まあ既に彼女の魅力に完全に堕とされてはいるのだけれど。


「ひとまずUFOキャッチャーでもやるか?」

「いいね。UFOキャッチャー‼」


 僕たちは台を周り、欲しい景品、取れそうな景品がないか慎重に吟味する。


「まーくん‼ まーくん‼ これ‼ これ‼」

「な!? これは……」


 そこには僕の好きなポ〇モンのぬいぐるみがあった。ポケ〇ンの名は、ヨ〇バリス。そのデザインによってネットでは散々玩具にされ、人によっては、気持ち悪いだとか死ねだとか散々な評価をされているキャラクターなのだが、僕はあのなんとも言えないムカつく顔をしているこのキャラがとても気に入っていた。


「私‼ これやる‼ それでまーくんにあげるね」

「え、いやここは……」

「てい」

「あ……」


 咲夜は僕が止める前に既に料金を入れていた。しかも五百円も。


「ふんふんふ~ん」


 咲夜は、鼻歌を歌いながらレバー式のアームを動かす。彼女の動かすアームの軌道は不規則で、そんな動きでどうやってとるというのか僕には、全く予想がつかない。


「おお‼ 取れたよ‼ まーくん‼」

「そんな馬鹿な……」

「えへへ……どう? 凄い? 凄い?」

「うん。凄い、凄いのだけれど……なんでそれでとれるの……?」


 咲夜の動かしていたアームは咲夜が下降ボタンを押すよりも前に時間切れが訪れ、勝手に落ちていった。その後が凄かった。何が凄いって落ちたアームは、ぬいぐるみの重心をきちんととらえ、いともたやすく持ち上げたまま、ぬいぐるみを取り出し口まで運んでしまったのだ。


 咲夜は確かにゲームをたしなむが、こういった類のゲームはほとんどやらない。それこそ数える程度しかやったことがないだろう。にも関わらず景品は、取れてしまった。たったの一回で。


「よ~し‼ もっと取っちゃうぞ‼」

「あ、ああ……」


 咲夜はその後残ったクレジットを用いてぬいぐるみをもう一つ取り、そのうち一個を僕にくれた。その際咲夜の言った「お揃いだね」といいながら可愛らしく笑う彼女の姿は、僕の瞳に強く焼き付いた。

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