幼馴染ヒロインと幼馴染

「まーくん。唐突だけど一緒にアニメ見ない?」

「本当に唐突だな。おい……」

「えへへ……」

「いや、別に褒め取らんわ。それでなんのアニメ見るんだ?」

「じゃじゃ~ん‼ これだよ‼」


 咲夜が取り出したのは、今現在放送中のアニメ「幼馴染との恋の始め方」という作品だった。


「よりにもよってこれなのか……」

「もしかして嫌……だった?」

「いや、そういうわけじゃなくて……」

「じゃあ何?」

「この作品ってさその、幼馴染がメインヒロインだよな?」

「そうだよ? それが何か問題でも?」


 問題しかなかった。何故幼馴染と一緒に幼馴染がメインヒロインの作品を見なければならないのか。いやね。僕だって幼馴染がメインヒロインの作品は、好きだよ。大好きだよ。でもね。それをリアルの幼馴染と一緒にみろと言われたら話は別だ。


「問題しかねぇよ。何が悲しくてリアル幼馴染と一緒に幼馴染ヒロインの作品を見なくちゃいけないんだよ。こういったものは、普通幼馴染がいない人が見るもんだろう?」

「そうとも限らないよ?」

「というと?」

「まーくんには、この作品を見て幼馴染の女の子の可愛さを知ってもらいたいのです‼」

「ええ……」

「もう。そんな嫌そうな顔しないでよ。視聴している間私のおっぱい好きにしていいから」

「するか‼ というかどんだけ僕に自分のおっぱい触らせたいんだよ‼ 痴女なのか‼ 咲夜は痴女なのか‼」

「う~ん。まーくん限定では痴女でもいいかな。何ならアニメ鑑賞止めて、もっとエッチな事する? 既成事実とか作っちゃう?」

「作らねぇよ‼ 高校生で作ったら僕の人生終わりだよ‼」

「あはは。冗談だよ。一割くらい……」

「九割本気だったのかよ‼」


 僕の幼馴染は一体いつの間にこんなに変態になってしまったんだ。まあ女性がエッチなのは、僕としては嬉しいのだけれども‼ 堪らなくそそられるのだけれども‼


「それで結局どうするの? 私と一緒にアニメ見るの? それとも大人の階段上るの? 私としては断然後……」

「前者で」

「ぶぅ……まーくんの根性なし、童貞、チキン」

「童貞で結構。そういうお前だって処女だろう?」

「そりゃそうだよ。私の初めては、まーくんの為に大事に、大事に取ってあるんだから」

「そりゃどうも……」


 ああ‼ ヤバい‼ 鼻血出そう‼ 女の子が下品な言葉を連呼するのは、最初はどうかと思ってたけど咲夜に関しては別だ。なんだろう。もっと言わせたい。もっと過激な言葉を喋らせたい。でもそんな事言わるわけない‼ 悔しい‼」


「それじゃあ失礼して……」

「なんだ。僕の膝の上気にいったのか?」

「えへへ……まあね」

「そうか」

「もう一つ要望を言わせてもらうならアニメ鑑賞中、私の頭を撫でて欲しいかな」

「素直に言えてよろしい」

「えへへ……」


 うん。可愛い。もうね。最近の僕可愛いとしか言ってないけど仕方ないよね。僕の貧しい語彙力じゃこれが限界なんだから。


「それじゃあ始めるね」

「ああ……」


 咲夜はビデオのリモコンを操作し、アニメの再生を開始する。


 アニメのストーリーの大筋としては、よくある学園恋愛ラブコメで、唯一違う点とすれば主人公がいきなり幼馴染の女の子と付き合う所から始まり、そんな彼女と主人公君の甘々、ジレジレな関係を楽しむのがこの作品の醍醐味の様で、僕はその世界間にあっという間に引き込まれてしまった。


「この作品面白いな」

「でしょう? 私のここ最近の作品の中で一番のおすすめなんだ」

「そうなのか。でも確かに咲夜がこの作品を押す理由はわかる気がする」

「流石まーくん。私の感性とベストマッチだね‼」

「お、おう。でも一つ疑問に思ったんだが、どうしてこの作品あまり話題にあがらないんだ?」

「……」

「咲夜?」


何故何も言わない? それに表情も硬い......


「まーくんは……物語の中での幼馴染ヒロインってどう思う?」

「可愛いのは勿論だけど主人公と何時も一緒にいて、世話を甲斐甲斐しくしてくれて、他のヒロインには持ちえない絆を持っている。大体そんなところかな」

「うん。私もそう思うよ。でもね。世間一般ではもう一つの属性があるの」

「それは……」


 。それが昨今の幼馴染ヒロインの最も特質とする特性だ。僕は勿論この属性を知っていたし、知っていて言わなかった。


「まーくんの思い描いている通りだよ。最近の作品の幼馴染は負け犬属性持ちばかりなんだよ。それは何でだと思う? 答えは多くの人が幼馴染はそういう物だと思っているから。逆に言えば幼馴染が勝利する展開なんて誰も望んでいないんだよ」

「いや、それは……」


 違うとは言えなかった。僕は今でこそ咲夜を選んだが、その前に一度だけ先輩を選んでいる。そんな僕に今の彼女に何かいう資格はなかった。


「いいんだよ。気にしなくて。私だってそんなことは分かっている。でもだからこそ私は負けたくない。世間一般では負け犬と呼ばれる幼馴染が勝つ物語。私はそんな物語を自分自身の手によって描きたい。人生という名の本の上に私とまーくん二人が結ばれるそんな物語を描きたいの」

「咲夜……」

「あはは。そんな辛気臭い顔しないでよ。こっちまで調子狂うでしょう?」


 気にせずにはいられなかった。何せこの時の咲夜は僕が今までただの一度も見たことがない、とても悲痛そうな笑みを浮かべていたのだから......

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