答えと僕
「う~む。う~む」
「何唸っているの?」
「いや……ちょっと考え事があってな」
早乙女さんの話はやはりというか、信じたくはなかったが僕の予想したもので大きな間違いはなかった。
なんでも早乙女さんと星野さんは元々仲の良い友人同士であり、いわゆる幼馴染同士の関係だったようだ。その為よく互いの家に遊びにいっていたらしい。
そこで星野さんと早乙女さんの父親は出会った。初めは何の違和感もなく、会っても軽く会釈するだけの軽い関係だったみたいだが、その関係に変化が生じたのは早乙女さんの父親が自身の会社の経営で大きな失敗を犯してしまった時だ。
早乙女さん曰く、その時星野さんが父親を誑かし、家庭を崩壊させたと言っている。何でも早乙女さんの父親は愛妻家らしく、自身の奥さんであり、早乙女さんの母親を深く愛していたらしい。
だからだろう。自身の父親がまさか自身と同い年のまして幼馴染である女の子に心奪われるなんてことを理解したくはなかったのだろう。
その気持ちはわからなくはないが、彼女の話を聞いて感じたのは明らかに私怨が混じっていること。事実として確認する分にはまだいいが、彼女の話をそのまま鵜呑みにすることはできない。
「咲夜ならもしおばさんが僕の事好きだって言ってきたらどうする?」
「え? 何それ。気持ち悪い」
「こらこら。いくら何でも気持ち悪いはダメだろう」
「だって今のはまーくんが悪いよ。そんな
「世の中絶対ないなんて事はないよ」
「それはそうだけど今回の事に限っては絶対にないよ。だってまーくんが好きなのは私でしょう?」
この子。自身へ向けられている愛を微塵も疑っていない……恐ろしい子。
「それじゃあ例を変えるとしよう。もし僕と咲夜との間に娘がいるとして、その子には一人の幼馴染の少女がいます」
「まーくん。まーくん」
「なんだ」
「まーくんは娘が欲しいの?」
「どうしてそうなる。今のは唯の物の例えであってそこにそう言った意味は含まれていない」
「私は息子が欲しいかな」
「おい。人の話を聞け」
「あ、でもでも娘もいいかも」
「咲夜さん? いい加減にしないと怒りますよ?」
「あはは。ゴメン」
「全く……」
咲夜は自身の頬をかきながら申し訳なさそうにはにかんでいる。
「話を戻すぞ。もしだぞ。もし僕が娘の幼馴染の女の子事を好きになったと言ったら咲夜はどうする?」
「う~ん。ちょっとまーくんが何言っているのかわからない」
「そ、そうですか……」
自分なりに結構わかりやすい例を挙げたのがこれでも通じないとなるとどうやったら理解してもらえるのか……
「大体私から言わせて貰えば夫婦の絆なんてそんなに軟な物じゃないよ」
「それはわかるけどさ。もし咲夜は自身の心が弱っている時にイケメンから甘い言葉を囁かれたら恋に落ちたりしないのか?」
「あるわけないよ。もしかして私の事馬鹿にしているのかな?」
「ごめん。そういう意図はなかったんだ。ただ人間誰しも弱っていると時に甘い言葉を囁かれるのに弱いというのを理解してもらいたかっただけなんだ」
「それにしたって今の例は酷いよ。あの言い方だと私がまるで頭能無しの尻軽女みたいな言い方だったもん‼」
「はい。全くその通りでございますね。今回は完璧に私が悪うございました」
「反省しているならもういいよ」
そう言って頬を膨らませているあたり。まだ完全には許していないな。でもそんな拗ねている咲夜も可愛い。
「第一夫婦ってものは二人の助け合いが大事なのであって、もし夫が心に余裕がない状態なのならば妻はそれにいち早く気づいて夫の心を満たしてあげないといけないし、逆もまた然り。それができない関係のならそれは
「偽物……」
咲夜の言葉。僕には何も間違ってはいないように思う。
夫婦の関係は助け合い。それができない関係ならばいずれ壊れる。
つまるところ早乙女さんの家庭崩壊の件、少なくとも星野さんに非はなく、ただ運が悪かっただけ。いずれ崩壊するはずの関係を彼女と関わってしまった事によって先倒ししただけ。
星野さんは確かに人を惑わす悪女タイプの少女なのかもしれない。その一点については僕も否定するつもりはないし、否定できる材料が現状ない。
でもそれがどうしたというのだ。そもそもの話、星野さんという女性が現れて自身の気持ちが揺るぐほうが悪いのであって、揺らがせている側も悪いのではないか。
もし星野さんが悪意を持ってその様な行いをしていたのだとしても、その程度の事で揺らぐ愛なら所詮その程度というまでの事。
答えは出た。後は明日、星野さんの考えをただしてやるだけだ。
「今のまーくん。凄くスッキリした顔しているね」
「ん? そうかな?」
「いつもの10倍カッコいいよ」
「ありがとう」
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