第二幕

チャイナドレスと幼馴染

 咲夜に告白をしてから一日。僕は咲夜の家に招待され、今は彼女の部屋の前に立っていた。


 咲夜の家に来るのはこれが初めてではないし、昔は何度か来ていた。でも最近は専ら僕の家に咲夜が遊びに来ることが多かったので、こうして咲夜の家に来るのはなんだか気恥ずかしい。かといってこのまま部屋の前に立っている分けにもいかず、僕は恐る恐る咲夜の部屋の扉をノックする。


「どうぞ~」


 咲夜の了承の声が聞こえ、僕はその声を聞い後、扉を開く。


「じゃ~ん‼ どう? 似合う? 似合う?」

「え、あ、うん」


 咲夜は何故か赤色のを見に纏っていた。


 チャイナドレスは生地がとても薄いので、体のラインがどうしても出てしまう。その為それを着るには相当自分のプロポーションに自信がないと着ることはできない。それで肝心の咲夜だがとても似合っていた。しかも咲夜の身に着けているものは通常のチャイナドレスとは違い、コスプレ用の為なのか露出が非常に多く、目のやり場に非常に困る。


「あれ~? あまり反応よくなかった?」


 そんな事は無い。とても似合っている。むしろ似合いすぎて怖い。特に太腿なんか最高だ。


「いや。似合っているよ。ただどうしてチャイナドレスなんか着ているんだ?」


 別に今日は祝い事でもなんでもない、ただの平日。その様な日にこのような装いをするのは明らかにおかしい。それに咲夜の身に着けているもの自体コスプレ用で、露出の多いデザインの物なので、祝い事にも来てはいけないと思う。


「そんなのまーくんの理性を崩壊させて、私の事を襲ってもらおうと思ったからに決まっているじゃん‼」

「いや。決まっていないだろう」


 僕はそういうが内心かなり心は揺れていたので、咲夜の行いはあながち間違いではない。でもその事は絶対に言えない。言えば咲夜が今以上に過激なアプローチを仕掛けてくる可能性があるから。


 でもここで何も言わないのは、咲夜の作戦が僕に通用したかと思われかねない。だからこそうまくごまかす必要がある。


「私の中ではそうなの。ただ肝心のまーくんには効果ないみたいだけれどね……」

「残念だったね。生憎と僕のチキンな心はその程度の事じゃ揺れないんだ」

「自分でチキンっていうんだ……」


 咲夜はわずかに憐みの籠った目で僕の事を見てくる。その様な目正直言って今すぐ止めて欲しい。じゃないと僕の心はそれこそ砕かれてしまいそうだ。


「まあまーくんがチキンなのは今更なんだけどね」

「咲夜ってナチュラルに僕の事ディスるよな……」

「ん~? そうでもないよ。むしろまーくんがチキンなのは私にとってプラスな面の方が多いし」

「というと?」

「だってチキンだとあまり他の女の子と仲良くなろうとしないじゃん‼」

「ああ、そういうこと……」


 確かに僕はあまり自分から異性に話しかけようとはしない。勿論普通の会話はできる。ただ自分から話しかけに言ったり、ましてなどできるはずがなかった。


 咲夜からすればそれはつまるところ僕が他の女性に目移りする可能性が減るということなわけで、プラスというのにも納得がいく。でもそれは逆に男として致命的に死んでいるともとれるというわけで、僕の気持ちは中々複雑だ。


 ただもし僕がナンパでもしようものならば咲夜は泣いてしまいそうだし、何より先輩が相手の女の子を殺してしまいそうだ。


「ところでなんでチャイナドレスなんだ?」

「ん? だからそれはまーくんの理性を……」

「いや。そういう事じゃなくて、何故選んだ服がチャイナドレスかということだよ」


 咲夜は僕の理性を崩壊させるためにコスプレしてくれたようだが、なにもチャイナドレスにこだわる必要は一切ない。


 ナース、巫女さん、警察官にチアに二次元のアニメキャラクター。上げらばキリがないがコスプレしようと思えば一杯あるのだ。その中で何故咲夜がチャイナドレスを選んだのかがわからないのだ。


「それはまーくんが以前チャイナドレスが好きって言ってたから……」

「あれ? そんな事言ったっけ?」

「言ってたよ‼ 私の前で堂々と‼ 楊〇妃たん可愛いって鼻息を荒くしながらキモイ感じで言ってたよ‼」


 そう言われて確かに咲夜の前でその様な事言った気はするし、どうやら咲夜は僕が可愛いって言ったキャラがチャイナドレスを着ていたから真似たらしい。


 そんな些細な言動まで覚えていてくれたのは嬉しいし、僕の為にコスプレまでしれくれたのは感無量としか言いようがない。でも一つだけ言いたいことが僕にはある。


「僕はそんなキモイ言い方していないよ!?」


 確かに僕は咲夜の前で楊〇妃可愛いとは言った。でもその時のトーンは至って普通で、断じてキモイ感じで言ってはいないし、鼻息も荒くしてなどいない。何せ咲夜にその事を言ったのは先輩と付き合っている頃なわけで、その様なキモイ言動できるあろうはずがない。


「私からすればまーくんが私以外の女の子を褒めるのは嫌なの‼ 例え二次元でも‼」

「それ、マジ?」

「マジだよ‼ あ、でも幼馴染キャラの女の子だけは別。むしろそういう子たちに関しては推しに推して欲しい‼」

「ええ……」

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