独白と元カノ

「雅也君。これは一体どういう事かしら?」

「どういう事も何もそのままでは?」


 先輩の手には一枚の手紙らしきものが握られている。そしてその手紙を執筆したのは僕だ。


「この手紙には授業後屋上に来て欲しいと書かれていたのだけれどもしかして愛の告白でもしてくれるのかしら?」

「まさか。そんなわけないでしょう。それにそんな事は先輩が一番よく理解しているのではないですか?」

「……そうね。それにしても雅也君が私に手紙をくれるなんて初めてのことよね」

「ええ。まあ。というか僕自身誰かに手紙を書くなんて初めての事ですよ」

「それってつまり雅也君の初めてを貰えたってことよね?」

「そうですけど……その言い方止めてもらえません?」

「嫌よ。だって私は事実を言っているまでだもの」

「いや、それはそうですけど……」


 ただ単に昨日の意趣返し的な意味で先輩に手紙を送ったのだが、こうまで喜ばれてしまうとこちらとしてはやるせない。


「そんな事よりも僕が先輩を呼び出し理由。お判りですよね?」

「勿論よ。昨日の事……でしょう?」

「ええ。そうです。昨日あの後先輩は星野さんから何か情報。それについて教えて貰ってもいいですか?」

「嫌よ。何? 雅也君ってもしかして記憶力悪かったりする?」

「記憶力自体はあまり自身はないですけど少なくとも一日前の出来事を忘れる様な脳はしていませんね」

「なら……わかるわよね?」


 先輩の目はいつにもまして厳しい。そこまでして僕に星野さんの情報を渡すのが嫌なのか。まあ彼女がそう来るだろうということは百も承知だったのだが……いざこうして美人の女性に睨まれると多少すくみはする。実際足は若干震えている。でも……ここで引くわけにはいかない。


「先輩が何を言っているんだが僕にはわかりませんね」

「……昨日は何も言わなかった癖に」

「それは言わないでいただきたい」


 先輩の言う通り僕は昨日先輩に何も言い返すことはできなかった。だって先輩のいうことは全て正しかったから。確かに星野さんは魔性の女で、このまま関係を気づけば咲夜との関係が崩れる恐れもある。


 その様な事になればきっと僕はまた前の僕に逆戻り。星野さんの事も結局は救えず、あるのは破滅の未来だけ。


 でもそれはあくまで先輩の予想するビジョンで、僕の思い描くビジョンとは違う。


 先輩は僕と咲夜との間にある絆を知らない。僕と咲夜は子供の時からずっと一緒にいて、片時も離れたことはなかった。初めは小さな絆だったそれも年月が経った今では強固なものとなり、それを断ち切ることのできるものは誰もいない。僕も咲夜もそう信じている。だからこそ咲夜はあの時僕の背を押してくれたのだ。


 本当咲夜には面倒をかけっぱなしだ。だかこそここらで一つカッコいいところでも見せてやらねばならない。


「雅也君が何を思ってそう言ったのかは知らないけど私としては雅也君をこれ以上星野さんと関わらせる気はないわ」

「どうしてですか?」


 そもそもの話。先輩がこうまで拒絶するほうが可笑しいのだ。先輩はこれ以上僕が星野さんと関わると咲夜との関係を失うと言ったがそこがまずおかしい。だって咲夜は先輩にとってなのだ。


 先輩の僕を思う気持ちが本物なのはわかるし、理解している。だからこそおかしいのだ。先輩の思いを添い遂げるためにはこの場面でその様な忠告をするのは彼女の状況をかえって不利にするだけで、何らメリットがないはずなのだ。


「そんなの雅也君には幸せになってもらいたいからに決まっているじゃない」

「……は? 何それ?」

「……私としては結構重要な告白だったのだけれど随分淡白な反応なのね」

「淡白というか……なんというか……理解できないというのが正解ですね」

「どうして? 人間誰しも好きな人には幸せになってもらいたいでしょう?」

「ええ。それはそうですし、その部分については理解できるんです」

「それじゃあ何が理解できないの?」

「咲夜との破局を望まない事についてですよ。だってそれって……」


 咲夜と先輩の間で行われている恋愛に自分で負けたと言っているようなものなのだから。


「雅也君が何を思っているのか大体予想はつくけど……そのうえで言ってあげる。私事霧羽零には金剛雅也君を幸せにすることは

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