変態と幼馴染
「あぁ‼ 雅也君の匂い‼」
先輩は僕の部屋について早々、僕の使用している枕に顔を埋め、ベットの上で足をじたばたさせている。
「うわぁ……うわぁ……」
「咲夜。凄い顔になっているぞ」
「いや……だって……ねぇ……?」
咲夜の言わんとしようとしていることはわかる。でも流石にその顔はいけない。女の子がしちゃいけない顔だもの。
「うへ……うへへへ……うへ……うへへへへ……」
まあそれを言うなら先輩も同じなのだが。
先輩の顔はだらしなく緩み切っており、よく見ると僕の枕は、先輩の涎でべちょべちょになっている。
「僕、今日のあの枕使って寝ないといけないの……?」
「安心して。私の予備の枕があるからそれを貸してあげる」
「さ、咲夜……」
本当に咲夜のその申し出は、ありがたかった。僕の家には現在枕の予備はない。つまるところ咲夜の申し出がなければ僕は、あの枕を使って寝なければならないところだった。
人によっては先輩の涎まみれの枕はご褒美になるのだろうが、生憎僕はその様な特殊な性癖を持ち合わせてはおらず、あの枕で寝るのは拷問にも等しい。
「そ、それでね‼ もし雅也君がいいっていうならなんだけど、あの枕。私にくれないかな? 代わりに私の枕上げるからさ」
「別にいいけど、あんな汚物とかした枕何に使うんだ?」
「な、何にって......秘密だよ‼︎ 秘密‼︎」
「ふ~ん」
心なしか咲夜の顔は、赤く染まっている気がする。
まあでもそんなのはどうでもよくて、咲夜が欲しいというのならばこちらとしても別に問題はないし、咲夜の枕を貰えるというのだからむしろこちらとしては大助かりだし、win-winの関係だ。
「ほ、本当‼ やった‼」
「あ、ああ……」
あんな汚物を貰って喜ぶというのだから咲夜はもしかして結構特殊な性癖な持ち主なのでは、なかろうか?
「ちょっと待ちなさい」
「なんですか。変態」
「そうですよ。変態」
「雅也君が言うのはまだしも木葉さんにだけは変態と言われたくないわ‼」
「私の何処が変態だというんですか‼」
「携帯」
先輩がボソッとそう呟いた瞬間咲夜の表情が曇り、額からは滝の様に汗が流れていた。
「どうかしたのか?」
「な、なんでも……」
「よく聞きなさい。この女のスマホの中。実はあなたの……」
「ああああああああああああああ‼ 何も聞こえなぁぁぁぁぁぁぁい‼」
咲夜は急にそう叫びだすとそのまま変た……ゴホン、先輩に向かってタックルし、二人は取っ組みあいの喧嘩を始めてしまった。その際互いに何か言いあっているようだったが、声が小さすぎてここからでは上手く聞こえない。
「って‼ そんな事暢気に思っている場合じゃない‼」
二人が何を思ってその様な事をしているのか知らない。でもこのまま放っておいたら僕のベットを壊されかねない。
ただでさえ枕だってやられたのに、これ以上僕のモノをやらせるわけにはいかない。
何よりベットの下にある
「二人ともこれ以上暴れるなら縁を切るぞ‼」
その言葉を聞いた瞬間、二人の動きが止まった。どうやら効果があったらしい。
こういう事を僕としても軽はずみに使うつもりは、なかったのだが、こちらとしても手段を選んではいられない。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんさい。ごめんなさい……」
「まーくん。お願いだから‼ それだけは、勘弁してぇ‼ お願いだからぁ‼ それ以外なら何でもするからぁ‼」
二人のリアクションは僕の予想していたものより遥かにすさまじく、先輩は先程から壊れた人形の様にずっと謝り続け、咲夜は涙で顔をグチャグチャにしながら僕の膝に縋ってきた。
そんな二人の惨状を見せられ、僕の心は無性に罪悪感にかられ、やはりこういう言葉は軽はずみに使う物ではないのと思い知らされ、今後二度と二人の前ではこの言葉を使わないと誓った。
「じょ、冗談だよ‼ 冗談」
「「そう……なの?」」
「そう。そう。いくら何でもこれぐらいで、二人と縁切りませんよ」
「そう……よかった」
「あ、あんしんしたよぉ……」
二人は心底安堵したような表情を見せ、こちらの事責め立ててくることは一切なかった。
「な、なんかゴメン。まさか二人がここまで取り乱すと思わなくて、あんな事言って……」
「いいのよ。悪いのは、私達なんだから。そうよね? 木葉さん?」
「貴方にそう言われるのは、癪なのだけれど実際そうだもんね……」
「まあまあ。もう済んだ事なんだからそんな落ち込ま……」
「そうにもいかないわ‼ お詫びに今度何か奢らせて頂戴」
「え、それは……」
「雅也君。騙されちゃだめだよ。この人、お詫びと言いながらただ単に、雅也君のデートしたいだけだから」
「チッ……余計な事を……」
ええ……何その反応、怖い。
「それに雅也君へのお詫びは、私がするので、先輩はさっさとお引きとりください」
「嫌」
「まあまあそう言わずに」
「嫌と言ったら嫌。大体あなたは、いつも雅也君の部屋に来ているんでしょう? そういう貴方こそ帰りなさい」
「はぁ? なんで私が帰らなくちゃいけないんですか?」
二人の間に再び険悪な雰囲気がながれ、早くもまた取っ組み合いを始めそうで、僕は呆れる他なかった。
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