新事実と友人

「いい加減終わりにしないとな」

「いきなり何言ってんだお前?」

「いきなりでもなんでもないよ」


 ここまで星野さんとの関係についておおよその進展はなし。今でも夜になるとメールや電話はひっきりなしにかかっている。


 それが辛くないかといわれれば間違いなく辛いし、何よりこれ以上彼女と関わっていると咲夜に対して申し訳なさすぎる。


「大体敦の方はどうなんだよ」

「俺? ああ、早乙女ちゃんの事ね」

「お前まだ名字呼びなのかよ……」

「うるさいなぁ……大体こっちは別に早乙女ちゃんの事なんとも思ってないんだから仕方ないだろう」

「え? そうなの? てっきり性欲お化けのお前の事だから好きなのかと思ってたよ」

「あのな……俺はそこまで女性に見境がない人間じゃないぞ?」

「え……嘘だろう?」

「嘘じゃねぇよ。大体その理屈で言うならとっくに彼女の一人や二人作ってるよ」

「またまた。お前ラブレターの一つも貰ったことない癖に~」

「いや。普通にあるよ‼ 何なら高校一年の頃はよく貰ってたよ‼」

「なん……だと……!?」

「その世界の終わりみたいな顔止めろよ」

「だって……ねぇ?」


 てっきり敦は誰からもモテていないと思っていたが、それは僕の勘違いだったようだ。


「その事は朱音も知っているのか?」

「あ? ああ、うん。一応知ってるぞ。というかその辺の事に関しては朱音はかなり厳しいからな。逐一チェックされる」

「そ、そうですか……」


 僕の立てた作戦は結局全部無駄だったわけですか。そうですか。


「なんかごめんなさい……」

「ん? なんで謝っているんだ?」

「いや、その……なんか……色々ゴメン」

「お、おう。別に気にしてないからいいけど……」


 敦は僕がどうして謝っているのか全く気付いていない。こういう鈍さがあるからこそ朱音の気持ちは、一向に届かないのだろうが今はその鈍さに救われたから何も言えない。


「ああ、それと早乙女さんの件。後は僕に任せてくれればいいよ」

「おいおい。これまた随分急だな」

「急なのは承知だよ。でもこれ以上お前に任せていると一向に進展しそうにないからな」


 僕は一刻も早く星野さんの抱える悩みを聞き出し、解決の糸口を見つけ出したい。


 第一早乙女さんと星野さんが昔は仲良かったという裏付けは昨日の調査で既に取れている。他にも彼女の弱みなども色々入手しているので、それを交渉材料として出せば嫌々ながら口を開いてくれるだろう。


 ただそのせいで僕は、早乙女さんからきっと恨まれることになるだろうが……その様な事粗末な問題だ。


「ということで今早乙女さんを呼び出してくれないか?」

「それは構わないが……お前一体何する気だ?」

「脅し」

「……それはまた随分物騒なことで」


 敦が僕の事を睨む。敦は多少早乙女さんと関わったことにより、彼女に情でも移ったのだろう。


 僕が星野さんに肩入れするように、敦は早乙女さんに肩入れしているのかもしれない。例え彼女が星野さんに酷い行為をしている少女だとしても。


「脅しといっても別に彼女に暴力を振るわけではないし、何なら話を聞くだけだ。もし彼女がすんなり話してくれるならこちらとしても脅す気は一切ない」

「……わかった。でもその席には俺も同席する」

「別に構わないよ。ただ僕の邪魔だけはしないでね。その時は例え敦でもするから」


 このセリフに嘘はない。敦が少しでも早乙女さんの事を擁護しようものならばその時は、僕は全力で敦を排除する。まあ排除といっても席を外してもらうだけだが……


「お前ナチュラルに怖いこと言うよな」

「別に怖いことなんて言ってないよ。僕は至って普通の事を言ったまで」

「はあ……お前のその目的の為ならば手段を択ばないところ。木葉さんと本当そっくりだよ」

「……咲夜は別にそんな冷たい人間じゃない」

「その言い方だと自分が冷たい人間ということになるが?」

「何も間違っていないだろう。それとも僕は何か間違った事を言っているか?」

「お前は間違っているよ」

「ふ~ん。何処が?」

「冷たい人間という所。お前はそんな奴じゃないよ。ただ自分にとって何が大事なのかきちんと理解しているだけの、普通に思いやりのある人間だよ」


 いざそう言われてしまうとどこか恥ずかしいものがある。


「顔。真っ赤だな」

「……うるさい」

「へいへい。それは悪うございました」

「……いいからさっさと早乙女さんに連絡しろよ」

「その件なら既にすんでいるよ」

「仕事が早いことで……」

「ひとまずいつも俺達が待ち合わせしているファミレスに来るように連絡したから行くぞ」

「了解」

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