可愛くて、健気で、エッチで、一途な女の子達は、好きですか?~付き合いたい彼女達と付き合いたくない彼の攻防戦~

三日月

開幕

僕と幼馴染

「まーくぅぅぅぅぅぅぅん‼」


 腹部に鈍い痛み。僕はまどろんでいた意識を、現実へと強制的に引っ張り上げられる。


「ああ……?」


 目を覚ますと僕の視界には真っ黒で、何かが僕の視界を防いでいるようだった。


「一体全体どうなっているんだ……?」


 視界を確保しようと僕間目の前に存在している謎の物体に手を伸ばす。


「あん……‼」


ん……? 今変な声聞こえなかったか……?


 柔らかでありながら暖かい感触が僕の手のひらに伝わり、僕はそれをもっと味わいたかった。


 今度は先程よりも少し強めに、それでいて複数回握ると先程聞こえた声が先程よりも艶めかしい声で聞こえ、僕はその声をどこかで聞いたことがあった気がする。


「まー君のエッチ……」


 その声とともに視界が開けていく。


 目の前にいる存在は頬をわずかに赤く染めながら潤んだ瞳で僕の事を見つめており、僕はその時先程の自分の行いを全て悟った。


「またお前か……

「にひひ。そうだよ。まーくんの、の幼馴染の咲夜ちゃんだよ」


なんだよ僕専用って……


 咲夜は、ニヒヒと笑い、こちらの事を本当に楽しそうに見ている。


 木葉咲夜このはさくや。僕事金剛雅也こんごうまさやの幼馴染にして、お隣さん。夜空に輝く星の様に美しく、腰まで伸ばした長い、銀色の髪を赤色のリボンで一本に結び、ポニーテイルにしている。


 口からは可愛らしい八重歯が覗いて快活そうな印象を与え、どこか小動物を思わせる可愛らしい顔立ちをしている。


 胸は本人曰く、Eはあるらしい。胸が大きいと太って見えるらしいが、咲夜に関していえば違う。


腰は括れていて太っている印象など全く与えない。それに加えてお尻も安産型。太ももはムチムチしていて、エロく、まさに男性の望む女性の容姿を完璧に体現しているの存在……それが木葉咲夜という少女だ。


「何がそんなに嬉しいんだよ……」

「何って……私は、まー君と一緒にいれるだけで嬉しいよ?」


 咲夜派無邪気にそう笑い、僕の心はライフルで打ち抜かれたかのような衝撃が胸を突き抜ける。


「へ、へぇ……そうかい」

「うん。だって私まー君の事大好きだもん‼」


 咲夜は僕の上で腰に手を当て胸を張っており、ただでさえ大きな胸がより強調される。


 僕はその胸につい先程まで触れていた。咲夜の胸の感触はマシュマロの様に柔らかく、それでいて程よい弾力性もあった。その感触を思い出すと僕の顔は自然と赤くなる。


「あ、照れてる、照れてる。もしかしてまー君ついに私と結婚を……」


 そんな僕の思考を勘違いしたのか、咲夜は的外れな考えを述べる。


「しねぇよ‼ どうしてそこまで考えが飛躍するんだよ‼」

「ちぇー……」

「全く咲夜は本当に……」

 

 咲夜は見てわかる通り僕に対して、明らかな恋愛感情を抱いている。


 彼女のそんな思いはとても一途であり、僕以外の男性には会話はするものの、恋愛感情を思わせる発言や素振りは唯の一度も見せたことがなく、それだけ彼女が意識してくれているのがわかる。


 咲夜ほどの美少女から純粋な好意を向けられ嬉しくないわけがない。


 僕は実のところ咲夜の事が好きだ。可能ならば今すぐにでも彼女と付き合いたい。でも僕は彼女の気持ちに応えられない。


「もしかしてまだあの人の事引きずっているの……?」

「うぅ……」


 図星だった。咲夜の言うあの人とは、僕の元恋人で、先輩の霧羽零きりはれい先輩のことだ。


 先輩は咲夜に負けず劣らずの美人さんであり、僕は何の因果かそんな美人の先輩と先月まで付き合っていたのだ。


「だって仕方ないだろう。好きんだから……」


 この言葉の通り先輩を好きだったのは過去の話で、今は別段好きではない。むしろ嫌いと言ってもいい。何せ先輩はいきなり僕の事を振り、振った理由について何も教えてくれなかったのだ。


 告白は向こうからして来たのにも関わらず、僕は理不尽に振られてしまったのだ。


 僕はその事に当然腹が立った。しれと同時に悲しくもあった。性格も生活も荒れに荒れ、勉強などまるで手につかなかった。


 そんな僕に救いの手を差し伸べてくれたのは咲夜だった。


 咲夜は僕の隣でずっと寄り添ってくれたのだ。僕が罵倒しようが、暴力を振るおうが、彼女は決して僕から離れる事は無く、いつも穏やかな笑みを浮かべ、面倒を見てくれて、僕の荒んだ心を癒してくれた。


 彼女は本当に僕の為に尽くしてくれた。男として女性にここまでしてもらうのは情けなくて、申し訳なくて、僕は立ち直ること決意をし、今はこうして立ち直った。そんな折だった。咲夜が僕の事を好きだと伝えてきたのは。


 この件がある前僕は咲夜の事をただの幼馴染としか思っていなかったけれど、この件でその認識は改められ、僕は咲夜の持つ優しさに惹かれ、好きになっていた。今や彼女のいない生活など考えたくもないし、考えられない。


 でも今はダメなのだ。


 咲夜は僕と今すぐ付き合いたいみたいで、必死にアプローチをしかけてくる。それは嬉しいし、そんな彼女を抱きしめ、愛の言葉を囁いてあげたい。


 でもそれはダメなのだ。今、この場で彼女と付き合ったら僕が妥協で咲夜と付き合っていると周りの人間に捉えられかねない。


 当時の僕は先輩の事を本気で愛していて、周りに先輩以外の女性には興味がないと公言してしまっていたのだ。今思うと後悔しかない。


そんな僕と付き合う事によって、咲夜に対してよくない評判が立つ可能性もある。咲夜は本人はそんな事気にしないだろうが、僕は気にせずにはいられない。


 咲夜は僕の前ではとても子供っぽい仕草を見せる。


 けれど学校では全く違い、いつも凛としていて、誰に対しても平等で、優しく、思いやりのある人というイメージで通っており、学校内での人気も非常に高い。


 その人気度は先輩以上で、彼女の事を狙う男子は多く、そんな彼女の地位を貶めるような行為を僕がして言い訳がないし、このままではただ彼女の優しさに甘えているだけになってしまう。


僕は咲夜と対等でいたいのだ。一方的に与えられるだけでは、嫌なのだ。僕も咲夜に何かしてあげたい。僕が咲夜から貰ったものを二倍、三倍にして返してあげたいのだ。


「まーくん……?」


 咲夜がこちらに顔を近づけ、彼女の水晶の様に美しい瞳が、僕の瞳をのぞき込んでくる。


「うん。大丈夫そうだね。いつもの私が大好きなまーくんだ」

「あ、当たり前だ……」


さりげなく大好きとかいうなよな......もう......

「ねぇ……まーくん。このままキス……してもいい?」


 咲夜のぷっくりとしていて、可愛らしい唇がゆっくりと近づいてくる。


「まーくん……」


 好きな女の子にこのような事をされてときめかないわけがない。ときめかないわけがないのだが……ダメなものはダメなのだ。


「ダメだ‼ 離れろ‼」


 僕は咲夜の事を乱暴に突き放した。


「きゃ……」


 咲夜が可愛らしく、悲鳴を上げる。ベットの上だからそれほどの痛みはないはずだが、それでも僕の良心は痛む。


「もう……まーくん。酷いよ~いきなり突き飛ばすなんて~」

「う、うるさい……‼ 大体いきなりキスしようとするなよな……‼」


 心臓が未だ鳴りやまない。思考も熱に浮かされた様にはっきりせず、声もつい荒げてしまう。


「え~だったらいつになったらキスしていいの……?」

「そ、そんなの僕が知るか……‼ 阿呆‼」

「まーくん。顔真っ赤……可愛い……」

「う、うるさい‼」


 咲夜のせいで僕はそうなっていた。でもそでものような愚痴、溢せるわけがなかった。その様な事言おうものならば咲夜は、今以上にアプローチしてくるのだろう。


「というかいつまで僕の部屋にいるんだよ‼」

「う~ん。ずっと……?」

「お前は馬鹿か‼ ずっとだったら学校に行けないだろう‼」

「あはは。冗談だよ~」


 冗談に全く聞こえない。現に彼女の顔。顔は笑ってはいるが、目だけは全く笑っていない。


「僕は今から着替えるから早く、出ていけ‼」

「私の事は、気にしないで。どうか空気だと思ってさ」

「いい加減にしないと殴るぞ?」

「あはは……それは勘弁」


 咲夜は、そう言って僕に手を振りながら出て行った。


「全くあいつは、本当に……」


 そう愚痴りながらも僕の胸は、どこか満たされていた。


 その感情は先輩といる時は、最後の最後まで感じることのなかった感情だった。


 先輩と付き合っていた頃の感情は、苦しいという気持ちが九割で、残り一割は不安だった。


 どうしてそのような人と付き合っていたのか今思えばおかしなことだとは思うが、先輩は僕にとって初めての彼女で、しかも美人で浮かれていたのだろうと考えると極々普通の事だった。


「さて早く着替えな……」


 扉の方をちらりと見るとそこはかすかに空いていて、視線を感じた。


「咲夜。これが最終警……」


 その瞬間扉が勢いよく絞められ、階段を下る音が聞こえた。


「全く……油断も隙もない」


 鏡に映る僕の姿は口調とは裏腹にとても穏やかな笑みを浮かべていた。

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