恥と僕
「誰か僕を殺してくれぇ……」
結論から言えば僕のネタは盛大に滑った。二人は笑ってくれるどころかどこか温かい目で僕の事を見ていた。その時の二人はまるで子供の成長した姿を見て微笑む母親の様な表情で、その様な表情をされれば流石の僕もメンタルブレイクするし、死にたくもなる。
「だ、大丈夫よ。雅也君。とても可愛かったから‼ ね‼ 星野さん‼」
「は、はい‼ 特にワン、ワンってところが可愛かったです‼」
「哀れまないでくれよ!? 哀れむくらいなら笑ってくれよ!? 盛大に笑ってくれよ!?」
「それは……」
「ちょっと……」
「うわ~ん‼ 反応渋い‼」
もうやだこの二人。こんな時咲夜なら笑ってくれるし、気なんて使わないのに……ああ、もう。今すぐ咲夜の胸に飛び込みたい‼ 咲夜に頭なでなでしてもらいたい‼ もうお家帰りたい‼
「かといって帰るわけにもいかないんだよね……」
「へ!? 帰るんですか!?」
「帰らないよ‼ だからそんな悲しそうな、絶望したような顔しないで‼」
「そうよ。雅也君は
「そ、そうですよね。金剛さんはそんな
二人の仲は先程よりも壁がなくなり、仲良くなってくれたように感じる。それは素直に嬉しいことなのだが、どうしてこうも僕を逃がさないような言い回しをするのだろう。その様は巣にかかった餌を逃がさない蜘蛛の様で、餌は紛れもなく僕だ。
先輩がその様な事をしてくるのはいつもの事なのだが、星野さんまでその様な対応をしてくるとは思わなかった。
「つ、次はき、霧羽さんどうぞ……」
「私?」
「そう言えば霧羽さんだけ歌ってないですもんね」
「それもそうね。それに折角星野さんが進めてくれているのだし歌わせてもらいましょうか」
「選曲は童謡でお願いします」
「ちょっと待って。何故童謡なの?」
「星野さんも僕も童謡歌ったんですから霧羽さんも歌ってください。そして恥をかいてください」
「や、やっぱり恥なんですね……」
「いや、星野さんの場合は別だから‼ 恥をかいたのは僕だけだから‼」
自分でも言っていて悲しくなってくるが事実だから仕方がない。
「まあいいわ。雅也君がそういうなら言う通りにしてあげる。何なら選曲まで選ばせてあげる」
「それじゃあ
「あれって童謡なんですか?」
「みたいだよ。ホラ。ネットに書いてあるし」
「あ、本当ですね。知りませんでしたわ」
思いのほか星野さんの距離が近い。それは信頼の表れなのかもしれないがそれにしたって近すぎるし、胸が腕に触れているのはわざとなのか、それとも偶然なのかわからない。
「霧羽さんは知ってましたか?」
「ええ。知っていたわ」
「ふ~ん」
「なんか反応が冷たくないかしら? 私も星野さんみたいに優しく……」
「霧羽さんはこれぐらいが丁度いいんですよ」
変に優しくしすぎるのもそれはそれで気持ち悪し、親密さも感じにくい。それに先輩に優しくするのは僕の体が生理的に受け付けない。
「もう……私だって女の子なのよ? だからもう少し優しくしてくれても……」
「面倒くさい。ウザい。たるい」
「扱い雑過ぎないかしら!? 目もどこかどうでもよさそうだし!?」
「あ、よくわかりましたね」
「分かりたくなかったわよ‼」
そんなタイミングで曲が流れはじめ、先輩は歌へと集中せざるを得なくなる。
「羨ましいなぁ……」
「何が?」
「あ、いえ。なんでも……」
「そう? ならいいんだけど……」
「ちょっとは私の歌を聞いてよ!?」
「はい、はい。わかりましたから。歌に集中して下さい」
「うう……‼ うう……‼ うう……‼」
先輩は犬の様に唸りながらも見事最後まで歌い切った。
結論から言えば先輩は歌がうまく、そのうまさは星野さんに匹敵した。その為この場で恥をかいたのは結局僕だけで、その事に納得したくない自分がいた。
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