第12話 特訓その2

朝食を食べ終わった俺たちは、さっそく出かけることにした。

ジュリが早く行こうと五月蠅いんだよ。


「どこでやりますか?」


「そうだな、人けのない野原がいいだろう。

森だと木の枝でまたお前が頭を打つかもしれないからな。

どこか心当たり有るか?」


「ええ、お任せ下さい。」


という訳でまたジュリの転移魔法で、俺達はどこかの草原にいる。

ジュリに任せっぱなしなのは、

決して俺が転移魔法を使えないという訳じゃないぞ。

単に、生まれ変わって数年の俺は、この辺の地理に疎いからだ。

土地勘のあるジュリの方が安心して任せられるからな。

で、ここは何処だ?


「ここは、宿屋からはだいぶ離れた森の、中心に広がる草原です。

ぐるりと囲む森にはかなり強い魔物が多く住んでいるので、

この草原は冒険者さえもめった来れない場所です。

したがって草原の存在を知る人すら早々いないかもしれません。

練習にはもってこいの所ですよ。」


「お前よくこんな場所知っていたな。」


「だてに100年以上生きていませんよ。ただ…。」


「ン?何か問題でもあるのか?」


「草原と言えども周りは魔物の住む森、

つまりこの草原はそんな魔物から丸見えです。

奴らが私達に狙いを定め、襲って来るかもしれません。

私は練習に集中したいので、そちらの対処はお師匠様にお任せしますね。」


え~、面倒くさいなぁ。

でも、今日一日ジュリに付き合ってやると言った以上、

それ位はやらなきゃなるまい。


「お前が習得するまでサポートするって約束したんだ。

そちらは俺に任せておけ。」


「ありがとうございます!」


ジュリはガバッと俺の小さな体を抱きしめる。


「何やかや言ってもやはりお師匠様は優しい!

大好きですお師匠様!」


よせやい照れるぜ。


「さて、時間がもったいない、そろそろ始めろ。」


ジュリは、はいと言うと俺から少し離れ静かに目を閉じ、

そのまましばらくじっとしている。

やっぱりジュリは集中力がすごいな。

さて俺も始めるか。

ジュリの様子も意識しつつ、草原全部に気を飛ばす。

もちろん上空も忘れずに。

早速おいでなすったか。

森からクレイジーガーと思われる奴がこちらに突進してくる。

やはりおかしい、かなりでかいし名前以上に狂っている。

いちいち相手をしてられないのでエアストーンを投げつける。

どうやら奴の眉間にヒットしたらしい。

巨体がドシンと倒れしばらくピクピクしていたが、

やがて動かなくなった。

その後も何頭か魔獣が襲ってくるが、全てここに辿り着く前に倒した。

空から来る奴はエアスピアーで落とす。

全部が全部、狂ってる奴ではないが、殺意を持って襲ってくる事には変わりない。

ジュリの邪魔をするなよ。


ジュリと言えば意識しているのか分からないが、

少し浮いては降りを繰り返している。

やはりすぐには無理なようだ、頑張れ!

と思っていたら、いきなりジュリの体が、凄い勢いで真直ぐ上空に飛び出す。

やばい!あの様子だと何処まで行くか分からんぞ。

俺はあわてて後を追う。

すぐに奴を捕まえたが距離はだいぶ上空まで来ていた。

ジュリは苦しそうに咳込んでいる。


「どうした?」


「お…もう様に…息ができ…ません。」


「あ…ああ。悪い、お前に空気の膜を纏っておけと教えてなかったな。」


俺はあわててジュリに酸素を分け与え、ゆっくり地面に降りた。


「体は風圧や気圧の変化に弱いから常に体の周りに空気の層を作っておくんだ。

すまない気が付かなくて、最初に教えておくべきことだった。

ちなみに層を厚くしておけば、ぶつかった衝撃も少なくて済むぞ。」


「最初に教えておいてほしかったです。最初に…。」


ジュリはまだ涙目になって咳き込んでいた。


その後、体の周りにシールドを張る練習をしたが、

こちらはすんなり習得したようだ。

するとジュリは、ちょっと試してきますと言って転移魔法で何処かへ行き、

1時間ほどで帰ってきた。

どうやら湖に行って水中散歩を楽しんできたようだ。

空気をまとって浮かなかったか?


「石を抱えてみました。でもちょっと疲れました。」


そうか

でも結構楽しかったみたいで大そうご機嫌だな。

俺も一緒に行きたかったな…。


その後のジュリは一進一退だった。

やはり難しいだろ?

何度かすごいスピードで飛び出し、俺が捕まえに行ったが、

そのうち自分で停まり自力で帰って来れるようになった。

そこまでになるのに4日ほどかかった。

5日目になると前日とは打って変ったように目を見張るものが有った。

いきなり飛び出すことが無くなり、

浮く高さも一応コントロールできているようだ。

ジュリ曰く、焦ったり、無理する事をやめたとの事。

早く言えば、諦めたそうで、その途端、気負いが無くなり、

心や体から余計な負担が抜け、自然に体が浮いたそうだ。

うん、それでいい。

俺はジュリの前に進みちょいちょいと手でしゃがむように指示した。

何ですか?と言うような顔をしながらしゃがんだジュリにワシャワシャと

と頭をなでながら


「よくやった、さすが俺の弟子だ。」


と言う。

ジュリはめったに言わない俺の褒め言葉に、

照れながらもすごくうれしそうにしている。


「ありがとうございます。お師匠様。」


と、笑っている。

んー。かわいい!すごくかわいい!

思わず俺はその銀色の髪に口づけしていた。

ジュリは少し面食らったような顔をしていたが、

次の瞬間ギュッと俺に抱き着き、俺の頬にキスをした。

ゴギッ!!!!


「調子にのるんじゃねーー!」


俺は顔を赤くしつつ、あいつにアッパーカットをお見舞いしてやった。

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