第49話 珍獣

ニシュラの港から船に乗り込む。

行き先はユートリア。

海の向こうの大国だ。


甲板で海を見ながら優雅にお茶……、

など取っている場合じゃ無かった。

なぜか今回の航海は、やたら風が強く、

船がかなり揺れる。

考えてみたら、俺、船とか弱かったんだよ。


「ジュリ~~~、きぼじ悪い~~~。」


ジュリは、俺が弱音を吐く度、魔法で治療してくれる。

でも治療しても、暫くするとまた気持ち悪くなるんだよ。


「何でこんなに揺れるんだ~~。」


「まあ仕方ありませんよ。

季節がらですから。」


「気持ち悪いよ~~、何とかして~~~。」


「ですから私が、超上空から行きましょうと言ったのに、意地を張って……。」


「や~だ~。

旅をしたいんだ。

のんびりゆったり、見た事の無い地を眺めて歩きたいんだ~。」


俺がいくら何度も転生し、色々な場所を知っているからと言って、

その景色も何十年も同じとは限らない。

時代が刻々と変化していくと同じく、

その街、風景も時を経て変化していく。

それを堪能したっていいじゃないか。


「それなら船の揺れぐらい、我慢して下さい。」


「わぁ~ん、ジュリが意地悪言う~っ。」


「まったくもう。」


ジュリは諦め顔で、また治療してくれた。

はい、今回はガキバージョンで楽しんでみました。

揺れはますます酷くなってきたので、

俺は遊ぶのを辞めて、空中に体を固定した。

いいかげん船酔いも飽きたから。


「いいですかお師匠様。

今度遊ぶ時は、人に迷惑を掛けない様にして下さいね。」


「気が向いたらね。」


ジュリが大きなため息を吐いた。



暫くすると、急に上があわただしくなる。

走り回る大きな足音が複数。

悲鳴、大声、一体どうしたんだ?

するとその悲鳴に混じって怪獣と言う言葉が聞き取れた。

”怪獣”? 怪獣だって?

なぜかワクワクするキーワード。

考えれば、俺は最初は転生者だ。

その言葉には覚えが有った。

この世界では、動物や魔獣がスタンダードだ。

後は色々な人種と、植物や虫や精霊エトセトラ。

考えてみれば、この世界にきて怪獣と言う名は初耳だ。


「ジュリ、怪獣だって、怪獣だよ。

ねえ、見に行こうよ。」


「やめて下さいよ、あなたがしゃしゃり出れば、

船員たちの邪魔になります。」


「酷いなぁ、でも俺は見たいから見に行く!」


俺は船室を飛び出した。

怪獣と言えば、ゴ〇ラだろ、キングギ〇ラにバル〇ン星人。

いや、あれは宇宙人か?

とにかく超巨大で凄い奴。

俺はワクワクしながら階段を駆け上がる。

甲板には一目怪獣を見ようとしているのか、多くの人が集まっていた。

怪獣が出たのにみんな度胸が有るんだな。


俺は怪獣を探してキョロキョロするが、そこにはそれらしい巨体は無い。

それよりも皆、海の中を覗いている。

俺は近くを通りかかった船員を捕まえる。


「ねえ、怪獣が出たんじゃないの?」


「あぁ、出たぞ、怖いぞ~海獣。

ちっこいお前なんて引きずり込まれちまうぞ。」


「ちっこくなんてないぞ。

でも、どこにいるの。

どこにもいないよ。」


そう言ってもう一度空を見る。


「どこを見てるんだ。

そんな所にいる訳無いだろうが。

海獣は海って決まってる。」


「え~、

怪獣は海にいるの?」


そうか、ガ〇ラだってゴ〇ラだって、海にいた事有ったよな。

そして俺は人をかき分け、船べりから身を乗り出し、海を眺めた。


怪獣は? 一体どこにいるんだ?


どこにもその巨体は認められなかった。


「いかがですか?

可愛いでしょう?」


後ろからジュリの声がする。


「嘘、怪獣なんてどこにもいないじゃないか。」


「何を言っているんですか、あそこにいるでは無いですか。

おや、見慣れない海獣ですね。」


「どこにもいないじゃないか。

ねー、怪獣は? ゴ〇ラは? ガ〇ラはどこだ?」


ジュリが不思議そうな顔をする。

そして海の中を指さした。


そこにいたのは、あざらし?

うん、アザラシっぽいけど、少し違う。

顔はアザラシに似ているけど、でもアザラシじゃない。

それはひれではなく、二本の腕の様な物が付いていて、

下半身も足のように見えるが、

その真ん中は水かきの様な膜に覆われていた。


「あれが…怪獣?」


「ええ、海獣ですよ。

あぁ、お師匠様はご存じでは無かったですね。

最近見つかった新種です。

ですから数や種類など、まだ調査中で把握されてそうですよ。

珍しいものに会えて、良かったですね。」


「ちょ、ちょっと待て、海獣?

えっと、海のケモノで海獣?」


「ええ、そうですが。」


怪獣じゃなくて、海獣かぁ~………。

でもまあ良く見て見ると、愛嬌のある顔で可愛いじゃないか。


「何でもあれに会えると、良い事が起こると評判で、

何とも幸先のいい旅ですね、お師匠様。」


「そうなのか?

まあ、いいって言う事は素直に聞いておくか。

いい事か、一体何が起こるんだろう。」


俺はこの先の旅に、期待に胸を膨らませた。

しかし行く先行く先で、俺はよく海獣によく会うようになった。

本当に海獣は数が少ないのだろうか。

いやいや、きっと俺の未来には、ラッキーが沢山有るのだろう。





『ほら、あそこにいるサンサーラの子供。

あの子に会うといい事が有るんだってさ。』


『本当?そりゃぁ仲間に知らせなきゃね。』


『あぁ、いいものを拝めた。今度は子供を連れて見に来るか。』


そう海獣達が言ったとか言わなかったとか。



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