第8話 やらかしちゃいました。

食事も終わり、まったりしようと思ったら、


「お師匠様、飛行魔法の事なんですが……。」


ジュリがそう言いだした。

やっぱり来たか。


「私と会った時にはすでにできたと言っていましたよね。」


「ああ。」


「なぜ私に教えてくれなかったのですか。」


お前、教えて貰えるのが当然と思っているだろう。

そりゃ甘いぞ。

俺の知識を全部教えるには、お前がハーフエルフでも時間が足りないんだよ。

まあ、そんなこと言ってもジュリが聞く訳が無い。だから……。


「……必要がなかったから。」


「ひどい!」


「ああ、悪い意味じゃないんだぞ。

つまりあれを必要とする場面に出くわさなかっただけだ。

飛んで逃げる、飛んで追いかける、飛びながら攻撃するって事に

ならなかっただけだ。」


「そんな事にならなくても、教えてくれてもいいではありませんか。」


「必要ないお前に教えても無駄だろう。お前はそれほど強かったと言うことだよ。」


「でも……何か損した気分です。」


「第一お前はエルフ族だろう空ぐらい飛べないのか?」


「神話的時代だったら分かりませんが、今の時代空を飛ぶエルフ族はいないはずです。他にも羽が有る種族は幾つかおりますが、すべて空を飛ぶ事はできないと思いますよ。」


「えー知らなかった。じゃぁ鳥人族も空飛べないのか?」


「飛べません。」


「だって羽根あるじゃないか。」


「体の大きさと比べて、そんなに大きくないでしょう?

多分退化したのだと思います。

あの羽の大きさでは体を支えて空は飛べない筈です。」


「そうなのか……?」


「第一お師匠様、飛んでいるところを見たことありますか?」


「んー、見たことあるような、無いような……。」


「有るんですか?」


「無かったかな…?」


「有ったならそれもすごい事ですが、

私が知る限り現在空を飛べる種族は、いないと思いますよ。」


「そっか、でも集団で飛んでいる鳥人族、見たかったなぁ。」


「誤解が解けて何よりです。」



さて、ダンジョンで暮らし始めて、半月ほど経った頃、

そろそろ出発しようかという話になった。

行き先は俺の故郷、ルーベンスだ。

そういえば出発前に、ギルド行かなくてもいいかな。

一応届けを出してあるから、踏破してきたこと言っとかないと、

俺死んだことになって、今度来たとき厄介なことになってしまわないかなぁ。


色々考えた末、此処を出る前にギルドに顔を出す事にした。



「すいませーん。ミッセルさんいますかー。」


無人だったカウンター越しに叫ぶ。

ギルドの中には、数人の冒険者が思い思いに過ごしている。

提示された依頼表を見ている者。

テーブルに座って話をしているグループ。

こちらをちらちらと見ている数人。


「はーい、今行きまーす。」


奥から出てきたミッセルさんは、俺を見るなり嬉しそうに言った。


「良かった!無事だったのね、怪我はない?大丈夫だった?お腹はすいてない?」


ずいぶん心配をかけたようだ。


「大丈夫です!ご心配かけました。

実は魔物を倒したお宝が有るんですけど、買い取ってもらえますか?」


「まあ!すごいわ、魔物倒せたの?頑張ったわね。

まかせて頂戴。できるだけ高く買い取ってあげる。

ご褒美よ。」


なるべく高く買い取ってくれるんだー、ラッキー!幾らぐらいになるかな。

そう思いながらカウンターの端に指を置き、

指で直径50cmぐらいの見えない円を描く。

俺の異空間に作ったアイテムボックスだ。異空間に有るから無限に物が入る。

だからこそ、中に入れる物はなるべく最小限にするようにしている。

だって、中に何が入っているか忘れてしまったら困るだろう?

何気なく取り出したものに唖然としたこともある。

適当につかんで取り出したら魔法薬の調合用に捕まえて忘れていた

紫イボガエルだったなんて最悪もいいところだ。

あの手に残る感触、見た目、匂い、今思い出してもぞっとする。

(俺、カエル苦手なんだよ。)

だから整理も兼ねて、売れる時に売ってしまう事にしている。

俺はアイテムボックスの中に手を入れ、

取り出したいものをイメージし、次々と取りだす。

宝石を入れた袋、確か120個ぐらい石が入ってたはず。

あと、グレートビーストの甲羅4体分、ジリウスの羽根6対

ググエラのクチバシ5本、宝箱に入っていた魔剣2本。

ちなみに一番良さそうな物は俺用にするから売らない。

他にも次々と出していき、

俺の出したお宝でどんどんカウンターの上が埋まっていく。

隣のジュリはあわてて俺の手を遮ろうとするが、何してるんだ?

ああ、肉は売らないから安心していいぞ。


「あとはこれとこれで、以上です。」


俺は最後にブラッディホーンラビットの毛皮と角を出した。


「その鮮やかな赤い毛皮、ま、まさかと思うけど……、まさか、いるはずない!

でもこれは間違いなく……。

それにこれはいったい何?まさか角じゃ……ない…わよね…。」


ミッセルさんは茫然とカウンターの上を見つめている。

店内にいた奴らも全員こちらを凝視している。


「あの…ね…、君、これあなたが採ってきたの?」


「はい、そう…」


「ご安心ください、私も同行した成果です。」


そういうとジュリはかぶっていいたフードを取った。

(何焦ってるんだ?ジュリ。)

(あなた、自分の立場分かっているんですか?

自分が誰かバレてもいいのですか?)

なるほど、俺を庇ってくれていたんだ。でも、お前こそ大丈夫か?


「ジュリウス教祖様!!」


ミッセルさんが驚き叫んだ。


「いったい今までどちらに、

教会の皆様いえ王室、国中の方々が心配し探していられたのですよ!」


「それは…、申し訳ございませんでした……。」


今頃後悔しても遅いぞ指名手配者。


「すぐに教会にご連絡を取ります。

むさくるしいところですが奥の部屋でお待ちください。

ああ、あなたたち今ここで教祖様を捕えても賞金は出ませんからね!」


振りかえると数人が縄などを構えてこちらを伺っていた。

ジュリ、賞金までかかっていたようだぞ…。


「いえ、私達はすぐ立たなくてはなりません。

それらをすぐ査定し換金していただけますか。」


「そういう訳にはいきません。

お願いしますから、ああ、すぐマスターも呼んできます。」


そう言うとミッセルさんは奥に行こうとした。


「仕方ありません。」


そう言うとジュリは彼女に『ソウルタイ』と言い言霊縛りをかける。


「さあ、急いでこれらに値段を付け、計算してください。

時間がかかるようでしたら手伝える人を呼んで来てもかまいません。」


そして振り返り店内の者にも『ソウルタイ』をかけ、


「あなた方は私が許可するまで動けない、しゃべれない、

聞こえない、見えない。いいですね。」


と言う。

とたんに静まり返る店内

ミッセルさんは階段を静かに上がっていく。多分応援を呼びに行ったんだろう。

5分もしないうちに階段を下りてくる複数の足音、


「だから理由も無しに、下に来て下さいじゃ分からないんだよ。」


と大きな声が聞こえる。

多分ギルドマスターだろう、見た目は恰幅のいいただのおじさんだ。

と、カウンターからあふれている品物を見て、


「これは一体どうしたんだ!?」


と驚いている。

あと二人、背が高くグラマーな女性とやはり背の高い40代と思われる男性。

やはり品物を見て呆気にとられていた。

するとジュリが


「御足労いただきありがとう御座います。『ソウルタイ』さあ、そこにある品物の査定をして下さい。ああ、なるべく急いでお願いしますね。」


と言いつける。

『ソウルタイ』意識はあっても体は命令された通りに動いてしまう。

査定している人たちはまだしも、他の人達は

動けない、聞こえない、見えない、喋れないでは相当の恐怖とストレスだろうな。


「まったくもう、お師匠様が今日ギルドにきたのは、

無事ダンジョンから出てきたことを届け出るだけでよかったはずでしょ?

顔を見せるか石ころの一つでも買い取ってもらえばよかったんです。

それをこんなに出すなんて……。

だから厄介なことになったんですよ!」


はい、すいません。私が悪うございました。


「…だが、今後の軍資金やら何やら必要だろ?」


「私を誰だと思っているんですかお師匠様。

仮にもこの国の教祖を務めていたんですよ。ある程度の蓄えぐらい有ります。」


「しかし、弟子だったお前に集るのも心苦しいし……。」


「情けない、生まれ変わったあなたはまだ7歳なんですよ。

こんな時ぐらい私を頼って下さってもいいではありませんか。」


「まあ頼ってもいいけど、あとで交換条件を出されるといやだな、と…。」


「いやですねぇ、そんなみみっちいこと言わないで下さい。」


とジュリはにこにこ笑っている。

それってどういう意味だ?

そんな話をしていたら査定も終わったようだ。

締めて幾らになったんだ?


「全部で金貨2285枚、銀貨480枚です。」


そう言うとミッセルさんはドンとカウンターの上に大きな麻袋を2小さな麻袋を1つ置いた。


「なあジュリ、俺良く分らないんだけど、今の相場で金貨2285枚ってどうなんだ?」


「はっきりとは分かりませんが、まあ妥当な額でしょうかね。」


たしか今はテイルの実が5個で銅貨10枚とか、ググエラの串焼きが一本で銅貨15枚ぐらいしか相場が分らないから、えーと金貨1枚で串焼きが……。


「何ボーとしているのです。用事が済んだのですからさっさと行きますよ。」


と俺はジュリに手をつかまれた。


「さて、あなたたちは5分後に術が解けます。それまではおとなしくしていて下さいね。」


そういうと俺たち二人は転移魔法で移動した。


しかし、ダンジョンの家に着き、暫くしてからでとんでも無い事に気が付いた。


「なあジュリ、あそこにいたほとんどの奴らには、ソウルタイで見えない聞こえないとか、かけていたからいいとして、ギルドの職員には、それ、かけてなかったよな。」


「当たり前です。そうでなければ査定の時不便ではないですか。」


「とすると、あいつらには俺とジュリの話も聞こえていたってことだよな。」


「……あー。」


「お前盛んに俺のことお師匠様って連発してたよな。」


「…はい…。」


「おまけに生まれ変わって7年とか言ってなかったか?」


「…言いました。」


「それってさ、俺がサンサーラってばれてるよな。」


「えっと、ばれてますかね?」


「まあ、普通ならバレているな。一応確かめるが、俺以外に師匠と呼んだ奴いたよな?」


「…いえ、いません、私のお師匠様は後にも先にもあなた一人です。」


「やっぱりいなかったのか……で、この時代で魔道士リュートの名前って…。」


「いえ大魔道士リュートです、そしてその名は小さな子供でも知っているほどの伝説的な有名人で、その人が私のお師匠様だった事も超有名です。」


「もしやお前、あいつらの記憶を消してきたってことは……。」


「いやですね、お師匠様私と一緒にいたじゃありませんか。

私、そんなことしましたか?」


「いや、…しなかった。」


そうして俺たちは二人顔を見合わせ、深いため息をついた。

そうして俺がこの世に再び現れた事を皆が知ることとなった。



…………チャンチャン…………

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