第16話 やらなければいけない事から片付ける
屋敷の居間の椅子に腰を下ろしてみると、
自分が思いのほか疲れている事に気が付いた。
ドリアのとこのメイドさんに、お茶を入れてもらい一息つく。
「お前さ、ずいぶんえげつない事したよな。
分かってるのかよ?
自分のした悪事を全部言ってみろ。」
しかし、どうやらこいつは自分のした事を、悪いと自覚していないようだ。
自覚していない以上悪事として吐くことは出来ないよな…。
何て説明すりゃあいいんだ。
俺は頭を抱えてジュリをちらっと見た。
…目をそらすなよ。
「よし!悪い事は悪い!
根気よくちゃっちゃと吐かせるぞー。」
それから俺とジュリは、ずいぶんと苦労しながらやつの悪事をあぶりだした。
どこの世間知らずの箱入り男だ!と思いながら
こんこんと善悪について説く事も有った。
何より、命の尊さなど小さな子供でも知っているんだぞ。
いい年のおっさんに、なぜこんな常識的な事を説教しなければならないんだ!
いい加減うんざりする。
気が付けば、こいつが行った悪事を、ほぼ全て聞き出すのに5日を要した。
後々分かった事は、こいつは根は単純な奴だと言う事だ。
多分、育った環境が悪かったのだろう。
俺達の説明で、自分のしてきた事が悪い事と認識したのか、
ものすごく反省しているようにも見える。
でもな、反省しても、自分の犯した罪は罪だ。
おいそれと消えると思うなよ。
こいつのやった事は全て箇条書きにして、分厚いレポートにして有る。
なに?教会に行き、死んでいった者に一生懺悔したいだと?
お前の行先はもう決まっているぞ、
一生鉄格子の中か、処刑されて地獄行き、この二択だろうが。
分かっているのか?
お前のした事でかなりの死者まで出ているんだぞ。
祈りたいのなら、牢の中ででも祈るんだな。
もしくはあの世で、当人に謝って来い。
お前はただ宝石が欲しかっただけかもしれないが、
その為に宝石の数と同じだけの魔獣が己を見失い、死んでいった。
己を見失った魔獣が人を襲い何十人もの罪無き人が死んだ。
怪我人も数えきれないほどいるだろう。
お前は魔獣に魔法をかけただけ、直接手を出してないと言っても、
全てお前の欲のせいで起こった死だ。
屋敷を見る限り、宝石以外にも自分の欲しい物に関しては、
とても随分貪欲だったようだな。
お前の屋敷奥の隠し部屋を発見したぞ。
王族からだろうが貧しい人からだろうが、
欲しい物が有ったら、どんな手を使っても手に入れたみたいだな。
その事に付いても、いろいろ問いただしているうちにだんだん腹が立ってきた。
自分さえよければ他人はどうでもいいという考え方は
頭と言うか、体にどっぷり刷り込まれているようだ。
あまりに腹が立ったから、
こいつの屋敷ごとすべてぶっ潰してやろうかとも思ったが、
せめて貧しい人ぐらいには、
取られたものを返してやるべきだと、ジュリに説得され思いとどまった。
さて、その次に俺のやりたい事が有った。
俺はジュリと共に奴の集めた宝石を持ち
あの草原の一画に来ていた。
ドリアは簀巻きにして厳重に結界を張った部屋に閉じ込めてある。
屋敷内にも内通者がいるとも限らないから、屋敷全体にも結界は張ってきた。
そして俺達は、日のよく当たる気持ち良い場所に、
深い穴を掘り、持ってきた宝石を並べた。
「とても価値のある宝石ではありますが、使う気にはならないですね。」
「ああ、ダンジョンで狩った魔物のお宝ですら、
手が出せなくなりそうな気分だ。」
俺達はその上に自分の手で丁寧に土をかぶせていく。
最後に俺は指で地面に丸を書き、アイテムボックスから巨大な石を取り出した。
昨日探しに行き入れておいた物だ。
「何か彫刻でもしようと思ったんだが、下手に目印になってもいけないし
味気ないがないがこのままだ。」
俺は高さ5メートルほどの巨石を丁寧に宝石を埋めた穴の上に置いた。
広い草原の中に突然現れた巨石は、まるで巨大化した魔獣の様にも見えた。
人には十分目印になるかとは思うが、
まさかこの下に宝石が埋められているとはだれも思うまい。
「ちょっとした小山のようですね。」
岩を見上げながらジュリが言う。
「訳もなく、この下を掘り起こそうとする者はそうそういないだろう。」
「死んだあの子達の墓標ですね。」
「ああ、墓標だな。」
きれいなオレンジ色の夕日を背に、その岩は静かに聳え立ち、
俺達はしばらくそこに佇んでいた。
するとジュリが俺に手を伸ばし、抱きしめる。
「お師匠様は優しい。
泣きたいときは泣いていいのですよ。」
「ばーか、泣いてなんかないよ。」
そういいつつも、にじんでいた涙が恥ずかしくて、
ジュリの胸から顔を上げられなかったので、しばらくジュリに抱き着いていた。
願わくばお前たちの魂が、すべた安らかに天に召されますように……。
さてその次はっと、
ドアリのあほを、御上へ突き出す。
でもこいつは貴族でそこそこ地位も有らしいから、
下端役人では手におえないかもしれないだろう。
だから俺は直接この国の国王に突き出すことにした。
ジュリは、いきなりそこですか!?と少々引いていたが構う事は無い。
厚さ30センチほどの書類を持ったジュリと共に、
簀巻きにしたドアリを引きずり城へ転移した。
俺達を目にした現国王ミハイルは面食らった顔をしていたが、
あわてる様子も無く俺達を迎えた。
尋常ではない事が起きたと悟ったようだ。
なかなか肝が据わっている。
俺達を拘束しようとした兵士を引かせ、
話を聞くべく王自ら謁見室へと俺たちを導いた。
さすがに王一人で話を聞く訳にもいかず、
護衛を立たせ、宰相をはじめ他数人と共にテーブルに着く。
俺はドアリの行った悪事をすべて断罪すべく、
書きあげた書類をドンッとテーブルに積み上げた。
まあ読むのに時間がかかると思うから、後でゆっくり読んでくれ。
「城の宝物庫から無くなった物がいくつかあるだろう?」
「あー、何せ宝物の数が多いので、
無くなっているかどうかは私では把握できなくて……。」
「自分の国の物を把握していないのか?」
「申し訳ない、係の物がいるので、その者なら詳しい事がわかると思う。今呼ぶのでお待ちいただけますかな?」
待つのは構わないが、王よ、俺達に向ける言葉が何故か遜ったように聞こえるが?それは不味いんじゃないか?下の者の、顔が引きつってるぞ。
まあジュリが当然というような顔をしている方が問題ではあるが。
そう言えば考えてみたら、今の俺は7歳の少女の姿のままだったな。
やはりこの言葉遣いは変かな?
しかし今更ブリブリの少女言葉で話すのも空々しいからこのまま通す。
王の呼んだ宝物庫の管理者3人、
こいつらから提示された、
ここ5年の間に紛失したであろう物の一覧表の中に、
ドアリの屋敷から発見された宝物と一致するものが16点ほど有った。
さすがにこれは城の物だろと言う物を1点、奴の屋敷から持ってきたので王に渡す。
「ああ!確かにこれは我が城の物です。」
そりゃそうだろう。
よっぽどのことが無けりゃ、一般貴族の家に宝冠など有る訳がない。
見事な細工と使っている宝石の数や大きさは、
素晴らしい逸品だ。
「先代の王の戴冠式の折、作られた宝冠です。私の時にも使用したのですが、
これも紛失していましたか。」
おいおいおい、管理人は国王に報告してなかったのか?
宝冠の所在が知れなかったって、かなりの問題じゃないのか?
まあ、後で責任を追及される事になるだろうな。
「ドリアが盗んだのですか。
いったいどうやって…、
警備は万全だったはずです。」
魔法が使えればいくらだって方法は有るな。
結界はちゃんと張ってあったのか?
城の全体にちゃんと張ってあったか。
では、宝物庫など各部屋は?
特化しては張っていなかっただと?
甘い!
城の周りの結界をくぐってしまえば、あとはやりたい放題じゃないか。
警備はちゃんと行っていたと。
アホッ!
現に俺達は簡単に入って来たぞ。
まあ俺とジュリを対象にするのは可哀そうだが。
下手すると命の危機だってあるんだ。分かっているのか?
お前の雇っている魔術師はどれほどのレベルだ?
結界を張っている魔術師は、国のお抱え魔術師か、
魔術師としてのトップは誰なんだ。
……ドリアか……、終わっているな、この国は。
「それについて、ぜひご相談が有るのですが。」
いやな予感がするのでその話はまたあとでとはぐらかした。
とにかく、この宝冠その他についてもドリアに吐かせてあるから
詳しくは書類を読んでくれ。
俺達は疲れた。説明するのがめんどくさい。
そうだ、ドリアが罪のない人から奪ったものが、こいつの屋敷にあるから、それを持ち主に返してやってくれ。
必ず返してくれよ。
もし手を抜いたらどうなるか分からないからな~、と脅しをかけておく。
そうそう、ここのところ発生していた魔獣の狂暴化、
それに伴い凶暴化した魔獣に襲われて死亡した多数の人。
それすべて犯人はこいつだから。
「「「「「「は――――?!」」」」」」
まあ驚くのは当然だろうな。
まあ、これ以上おかしな魔獣は発生しないと思う。
ほとんど駆除したから。
もっとも、早く真相に気が付いていれば、駆除しないで済んだかもしれないが…。
ドリアがこの事件を引き起こしたのは、
単に大きくて立派な宝石が欲しかっただけだそうだ。
詳しい事は王達も含め、これ以上の人間には教えない。
ドリアにも言えない様にソウルタイを書けた。
無理やり聞き出そうとすると、
そいつもドリアも頭がパンクするからな~と、又脅しをかける。
ドリアに関して、悪意が無くても罪は罪。
自分の行動に責任を持たない奴は屑だ。
とにかくドリアはぶっ叩いて蹴り倒して殴り倒せば
煙幕のように埃が出るからよろしく。
国王よ、それでも、もし同じような事をする奴が出たら、
こっぴどく痛めつけてやってくれ。
頼んだぞ。
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