第17話 後継者候補
俺とジュリはやる事はやったので、早々にここを引き上げようと思った。
が、先ほどの件で…と王に捕まってしまった。
逃げ遅れたか……。
どうやら俺とジュリの正体を見抜かれていたようだ。
よく分かったな。
指名手配のジュリは銀髪ロン毛の男。俺は黒髪の少年だったはずだ。
今はブルネットの母娘に完璧に変装している つ・も・り だった。
例え異様に背の高い女性だろうが、幼い少女が俺様言葉で喋ろうが。
「この城のど真ん中にいきなり現れたこと自体異様な事ですから。」
そう王が言っている。
そりゃそうか。
逃げようとすれば逃げ切れるが、
捕まった以上、仕方がないから話を聞くぐらいしてやろう。
先ほどの件とは、警備などの魔力関係の事か?
まあ俺達から見ると、すっごくお粗末だな。
大体にして魔術師のトップがドリアだった事自体、
危機感の欠如もいいとこだ。
そうだ、いい考えが有る!
「このジュリをこの国の神官にすればいいんだ!」
「おお!それは願ってもない事です。」
すると俺は、いきなりジュリに叩かれた。
「ただのジョークじゃないか、本気で殴らなくてもいいだろ?」
「その目はジョークに見えませんでした。」
そりゃ、ちょっとは思ったけど、ちょっとだぞ。
ほんの少しだけだ。
はい、すいません、少しでも考えました。
「ジュリ、お前の人脈で誰かいないのか?」
「いるにはいますが、それよりも国王様、
この国には魔術師を育てる機関は有るのですか?」
「いや、機関や施設という物はない。魔術師は主にスカウトだな。
その後、能力に応じていろいろな部署で働いてもらっているが…。
まずかっただろうか。」
「それではいけないと思います。生まれ持った魔力は自覚した以上に有る物です。
それを引き出す師が居なければ、伸びるものも伸びません。」
「一応、年かさの者に面倒を見てもらってはいるのだが…。」
「いくら年がいっているからと言って、
その人物自体が己の持つ能力を自覚していなかったら本末転倒でしょう。
やはり、魔力を引き出す者、教育に長けている者がならなくてはだめです。」
「ジュリ、お前すごいな。」
「私も一応神官長という教育者的な事をやっておりましたので。」
「おお、ではやはりぜひジュリウス様にお願い……。」
「お断りします。」
にべもなく断ったか。
「引退はしましたが、適任者と思われる人間がこの国に移り住んでおりますよ。
引き受けるかどうかは分かりませんが。」
「えっ!それはどなたでしょう?どこに住んで居らっしゃいますか?」
必死だな国王。
まあ、トップ裏切られてしまった以上、必死にならざる負えないか。
「確か辺境のスルニーア地方の片田舎に居を構えたと言っていましたね。」
「スルニーアですか!それではすぐ使いを向かわせよう。」
「使者を向かわせるは構いませんが、引き受けるかどうかわかりませんよ。
何せ本人はすでに年衰え、引退したのですから。」
「それはそうですが、こちらも国の存続が掛かっているのです。
ジュリウス様のご推薦とあれば、最高の方でしょう。
こちらも誠心誠意お願いしてみます。
してその方のお名前は…。」
「アーロン・ヴィックスです。
私の弟子にあたりますが、確か今はもう60歳を超えている筈です。
私と違い彼は人族ですので体に無理がいくと気の毒です。
本人が拒否した場合、潔く諦めて下さいね。」
「そんな、せめて1年いえ2年だけでも引き受けてもらえないだろうか。
その間に後継者を育てていただき、その者を教育者にできれば……。」
「甘いですね、教育者を1・2年で育てられる訳が有りませんよ。」
「それなら一体どうすれば……。」
「あ――っもう!どいつもこいつも人を頼る事しかできないのですか!
少しは自分で解決しようとしなさい!
助言はしました。候補者まで教えました。
それを元にどうしたらいいかぐらい自分達で考えなさい!」
ほら、人任せばかりしているからジュリに怒られるんだぞ。
王よ、候補者が無理だというなら、自力で探せ。
たとえ国境を越えてでも海を越えてでも何とかしろ。
いつまで頼ってばかりだと、ジュリのヒステリーでこの城が灰になるぞ。
「一応私の名前で紹介状を書いてあげます。でもそれだけですよ。
これ以上ごちゃごちゃ言えば、このお師匠様が黙っていませんからね。
どうなっても知りませんよ。」
何で俺に振るかな。
しかし脅し文句には十分だったようで、
それ以降国王は余計な事は一切言わず、
ジュリの書いた手紙をおとなしく受け取った。
「いいですね、決してアーロンには無理を言わない事。
彼は今、引退しておりますが、かなり優秀な魔術師ですからね。
一応この国に移り住んで居るので、
この国の為に多少でしたら動いてくれるとは思います。
最悪アドバイスだけでもしてくれる筈です。
でも、あまり無理を言わないほうがいいですよ。
アーロンもかなり腕の立つ魔術師です。
あまり我儘を言うとどうなるか分かりませんよ。
それだけは警告しておきます。」
そんな脅迫めいたことを言って…。ほら、国王の顔が引きつってるぞ。
「まあ、私に声をかけたのが運の付きと諦めてもらいましょう。」
ジュリその黒い笑顔やめてやれ、王の顔色がもっと悪くなってきた。
でも、そんな悠長なことしてないで、
いっそ悪い奴を一気に始末してしまえばいいんじゃないか?
でも、そうするとこの国の内情が滅茶苦茶になる可能性が有るからだめか。
国王よ頑張ってくれ。
「さて、お師匠様急いでこの国を離れますよ。」
「どうしてだ?せっかく問題が解決したんだから、
少しゆっくりしてもいいだろう。」
俺たち的には問題は一応解決したつもり、あとはこの国が裁けばいい。
これを人は丸投げともいうな。
「私は構いませんが、アーロンが来たらそんな事言っていられませんよ。」
「お前の弟子がか?しかしお前も会うのは久しぶりだろ、
久々に会いたいんじゃないか?
何だったら俺も一言挨拶するか。」
「久しぶりと言えばそうですが、ただ問題が有りまして。」
「問題?なんだ?」
「実は…彼は大魔導士リュートの大ファンなのです…。」
ウッ!
「大・大・大ファンです。」
ウへッ!
「私がお師匠様に師事していたことに、
嫉妬するぐらいリュートに心酔していました。」
「だが、俺がリュートだったとバレなければ、いいんじゃないか?」
「ここの国王ですら、手配書を元にあなたの事を見破っていたのですよ、
お師匠様の大ファンのアーロンは、早々に見破ると思いますよ。」
「でも、手配書を見ていなくて、
俺が生まれ変わってこの時代にいるって知らなかったら、分からないよね。」
「その可能性は有りますが、
この国の上層部が手配書を持っていたとなると、
多分、町の方にもばら蒔かれているのでは…。
まあ、ばれるのは時間の問題でしょうね。」
「もし、もしだよ、もし俺がリュートだってばれたら、
どんな感じになるのかなーなんて……。」
「そうですね、私達と彼が此処で会った場合、
きっと国をほったらかしにし、お師匠様に纏わりつき離れないでしょう。」
ゲッ!
「自分の知らない魔法をぜひ教えてくれと、しつこくするでしょうね。」
ゲゲッ!
「師匠になってくれと言って、絶対に私達に付いて来るでしょうね。」
「……ジュリ、久しぶりの師弟の対面をふいにするようで悪いが、
俺はすぐに出発したいのだが…。」
「そうですね、紹介状は魔法で送るので一瞬で届く筈です。
多分私からの呼び出し状を受け取った彼は、何事かと取る物も取りあえず、
すぐここにやって来る事でしょう。
取りあえず、紹介状を送るのは1日待ってもらい、
私達は、気配が探られないところまで高跳びしましょう。」
「俺達の気配が分からない所までか、アーロンのサーチ能力はどれくらいだ?」
「約100キロ四方と言った所ですね。」
「それなら余裕だよな。」
荷物は二人ともすべて収納に入れっぱなしだからまとめる必要がない。
身一つですぐに発てる。
馬車は…宿に預けっぱなしだったな。
「王よ、申し訳ないがすぐに発たねばならなくなった。
俺達の宿に連絡をお願いしたい。
それと俺達の乗ってきた馬車と馬はそちらで処分してくれ。」
「承知しました。」
「それと、その紹介状だが、明日送るように。絶対だぞ、分かったな。」
「かしこまりました。」
「約束を違えた場合、どうなるか分かっているだろうな。」
「わ、分かっておる。必ず明日送るよう申し伝える。安心してください。」
王よ、言葉がしっかり敬語になっているな。
後でちゃんと直しておけよ。
「で、取りあえずどこに向かいますか?お師匠様。」
「まあ、それを今ここで話すのは得策ではないな。
少し移動するぞジュリ。」
「分かりました。」
「では王、あとの事は宜しく。良い国になるよう祈っている。」
「有りがたきお言葉痛み入ります。ドアリの事、及び宿の事はお任せ下さい。」
「ああ、頼んだぞ。ではっ。」
そう言うと俺たちは移動魔法でその場から消えた。
俺達は近くに移転すると見せかけ、
いっきに600キロほど先の町、ミマーシュまで移動した。
念には念を入れてという事だ。
「ちょっと疲れた。ジュリ、ここで少し休もう。」
「そうですね、ここのところずいぶん忙しかったので、
この町でしばらく休憩をするのもいいでしょう。」
そして俺たちはその町1番の宿『ライラック』に部屋を取り、
しばらくダラダラすることにした。
しかし、俺の体はやはり子供たったんだな。
食事が済むと、一気にぐっすり眠り込んでしまった。
で、起きてみると元気一杯だった。
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