第18話 谷のタケゾー爺ちゃん
ミマージュでゆっくり休んだ俺は、絶好調!
国までゆっくり旅行しながら行きたかったけど、
タラタラしていても仕方ありませんでしょ!
その間にお母様達に何かあったらどうするのですか。
とジュリに押し切られた。
それもそうだと、俺はジュリと共にいっきに転移した。
ジュリは自分の見覚えのない所に出たせいか、
キョロキョロしているがそんなに動揺していないようだ。
「ここは何処ですか?」
「クリエジュから10キロぐらい離れた森の中、
俺が小さい頃、秘密の練習場にしていた所だ。」
「練習場ですか?」
「ああ、いくらサンサーラと言えども、
やはり小さい頃は思うように魔法を使うことができなくてな、
調子を取り戻すまで一人で特訓していたんだ。」
「なるほど。で、これからどうするのですか?」
「どうしようかな?」
「ご自分の事でしょう?いったい何をしたかったのですか。」
しばらく考えて、自分の気持ちを整理してみる。
えーと、母さんと兄貴の安否を確認する。
もし二人も国に捕まっていたり、ひどい状態の中にいるのであれば助ける。
「それではまず、二人が今どう言う状況にいるのか、調べるのが先決ですね。」
話をしながら取りあえず俺は、ウリアナにいた頃と同じく、
男の子のカッコに変装する。
そう言えば、此処で特訓していた時も身元を隠す為、男装していたな。
そう思いながら、着替えたドレスを片付けていると、
「あっれー、そこにいるのはヴィーじゃねぇか?」
と男の声がした。
えっ、たしかその声は……。
「タケゾーじいちゃん!」
「おお、ヴィー坊、ずいぶん久しぶりだな。」
「あ、うん、ちょっと旅してたんだ。」
俺が特訓していた頃、この森で知り合った、タケゾー爺ちゃんだ。
爺ちゃんには、よく昼ごはん分けてもらったり、
いろいろお世話んなったんだっけ。
「旅か、いいなあ。楽しかったか?」
「うん、さっき帰って来たところ。
そうだ、冒険者の登録をしたんだよ。
タケゾーじいちゃんが、僕なら冒険者になれるって言ってくれたからさ。」
「そりゃ、この森の魔物をどかどか倒していたからな。
いつかはなれると思っていたが、その年でよく登録してもらえたな。」
「えへへ。大丈夫だったよ。」
あのギルドに、年齢制限に関する規約などなかったんだ。
そこのところを逆手にとって、脅してねじ込んだんだけど、
まあ、こんな子供が登録するとは思っていなかったんだろうな。
「ところでヴィー坊、さっきから一緒に居るそのお嬢さんはどなただい?」
あージュリか。
母親って言っといて、弊害は有るかな…。
「ん~~、旅の途中で知り合った人。
ジュリアさんて言うんだ。」
やっぱり故郷が近いから、やたらな事は言えない。
「それはそれは。
私はこの先の谷の入り口に住んでいるタケゾーと言います。
窯を構えて、貧相な焼き物をしていますのじゃ。
ヴィーには以前色々お世話になりましてな、
とてもいい子ですよ。」
「そんな事無いよ!
爺ちゃんの焼き物はとても綺麗で、立派で、
見ているだけでも力が湧いてくるような趣が有るんだよ。」
「そう言ってくれるのはヴィーだけだよ。」
爺ちゃんは笑いながらそう言うけど、
そんな事無いよ。
もっともっと爺ちゃんの焼き物を、色々な人に見てもらえばいいのに。
「ヴィー君がそこまで言うのは、タケゾーさんの作品がとてもいい物だからです。
私もぜひ拝見させていただきたいです。」
「嬉しい事を言って下さる。
気が向きましたら、ぜひお出で下さい。」
「ねえじいちゃん、今日も土探しかい?」
「おお、そうだった。ヴィー坊良かったら手伝ってくれるか。」
「うん!任せて!」
この森の中には魔素を含んだ土がそこかしこに有る。
魔素を含んだ土は、普通の土と異なり、肌理が細かく耐久性が強くなるので、かなり細かい細工もできる上、破魔などいろいろな付加価値が付けられる。
爺ちゃんは食器など、普通の土を使った焼き物も作るけど、
やはり魔素を含んだ土で作る焼き物は、作り甲斐が有ると言う。
ただその土が有る場所を探すのが厄介だ。
土は地中深い場所だったり、岩の下だったり。厄介な場所にある方が多いい。
だからそれはを探すには、わずかな魔素の気配をたどるしかないのだ。
爺ちゃんも多少の魔力を持ってはいるが、
それを使い探査するのは一苦労のようだ。
おまけに、見つけても掘り起こせない所にある土は、
泣く泣くあきらめているみたいだ。
「僕、爺ちゃんを手伝ってくるから、ジュリアさんこの辺で休んでてよ。」
これから野山を駆け巡らなきゃならないんだ。
ジュリは苦手だろう?
「大丈夫、私も一緒に行きます。」
付いて来れるのか?結構ハードだぞ。
「それじゃあ出発。」
俺はじいちゃんと丘を越えたり、野ッ原を横切ったり、
結構なスピードで走って行く。
じいちゃんも、もう何十年も通っている場所だから。
余裕で俺に付いて来れるんだ。
ジュリか?ジュリは100メートルぐらい離れて必死について来る…、
じゃない、走ると見せかけて、あれは飛んでいるんだ。
猪口才な。
途中バラドラダに遭遇したが、エアスピアーで吹き飛ばしておいた。
ジュリが気付けば拾ってくるだろう。
「おい、ヴィー、ジュリアさんばてているんじゃないか?
大丈夫か?」
「平気平気。」
俺達よりよっぽど楽してるんだよ。
「んー、この少し先にいい土が有るみたいだ、もうちょっとだよ。」
そう言うと俺はまたずんずんと進んだ。
爺ちゃんはジュリを気遣いながらも、俺の後に続く。
「じいちゃん!ここ、この下にあるよ。」
草むらにあった大岩を指差した。
「この岩の下か?」
「うん、この岩の下、1メートルぐらいの所かな。」
俺がそう言うと、爺ちゃんは絶望的な目をした。
「この岩か?これはどう見ても大物だぞ……。」
そう言って、じいちゃんは岩の横っ面を、悔しそうにトンと蹴った。
「この岩をどかしてから穴掘るとなると、かなり厄介だな。」
「でも、その土かなり量が有るよ。
掘り当てれば、爺ちゃんが当分困らないぐらいの量だ。」
「そりゃ手に入れば助かるけどな…。まあやってみるか。」
そう言うとじいちゃんはしょっていた袋から、スコップを取り出し、
岩の周りの土を掘ろうとしているので、
「今日は俺がいるから大丈夫だよ。」
と爺ちゃんを止めた。
「おお、そうだったな。ヴィー坊がいるじゃないか。
じゃあ頼むかな。」
「ガッテンだ!」
俺にとってはこんな岩をどかすぐらい朝飯前。
あっという間に岩をどかし、ついでに深さ1メートル、
半径2メートルぐらいの土を移動した。
「この下ぐらいからが魔素を含んだ土だと思う、見てみて。」
じいちゃんは勇んで穴のなかに飛び降り、
しばらく底の土を指でつまみこすったり、
塊を握ったり匂いをかいだり、いろいろやっていた。
「うん!良い物だ。作り甲斐が有る。助かったよヴィー坊。」
「良かった。爺ちゃんこの場所分かるよね?」
「ばかにするな、何十年この森を歩き回っていると思うんだ。
目をつぶっても来れるわ。
と言うのは嘘だがな。ハッハッハッハッ。」
うん、じいちゃんご機嫌だな。
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