第19話 無駄な新機能

ほんの少し遅れて、涼しい顔をしたジュリが近づいてきた。


「ようやく追い付きました。」


そんな顔してそれをのうのうと言うか。

お前もう少し役者になれよ。

まあいいか。

そうだ、のどが渇いたし俺は優しいから皆にお茶を入れてやろう。


「けっこうです。私が入れます。」


そう言って、ジュリが俺を止める。


「俺がいくら料理がダメでも、お茶ぐらい入れられるぞ。」


「おししょ…、ヴィーはお茶はどう入れるか知っていますか?」


「お湯に葉っぱを入れる。」


「……やはり私がやりましょう。」


だめなのか?ちゃんと色は出るぞ。

何でも、汲み立ての水を沸かした熱湯でないといけないとか、

カップはあらかじめ温めておかなければならないとか、

色々と決まりがあるみたいだ。

まあ、まずいお茶より美味しいものを飲みたいから、

俺はあえて逆らわ無い事にした。

そして木の下に、ボックスから出した椅子とテーブルをセットし

ジュリが入れてくれたお茶や、

緊急用に作ってあった、サンドイッチやスコーンなどを、きれいに並べてくれる。


「何とまあ、こんな所でこんなに美味しい昼飯が食べられるとは

思わなかったなぁ。」


「でしょ、ジュリアさんが、作る料理はとっても美味しいんだ。」


俺は口いっぱいにスコーンを頬張った。

じいちゃんはググリアのハムサンドが気に入ったようだ。

ジュリはにこにこしながら紅茶を飲んでいる。


「いやー、ヴィー坊のおかげで助かった。

私一人では、魔素が含まれている土はなかなか手に入らないのですよ。」


「そうなのですか、良かったですね。」


「しかしジュリアさんがお使いの、その収納ボックスはいいですなぁ。

何でも入れることができるのですか?」


「一応限度が有りますが、それでもかなりの量が入れられますよ。」


爺ちゃんとジュリのその会話を聞いてふと思い出した。


「そうだ!俺じいちゃんにお土産が有ったんだ。」


そう言って俺は指でテーブルに丸を書く。

そして中から麻でできた袋を一枚取り出した。

縦、横50センチぐらいのもので、上をひもで引き縛るようになっている。


「これ、僕が宝箱で取ったアイテムだよ。

じいちゃんにあげようと思って取っておいたんだ。」


「そうかそうか、ありがとうな。」


爺ちゃんにこにこ笑っているけど、これジュリのボックスみたいなもんだよ?

俺は何枚か大きめの袋を手に取り、穴の中に飛び降りた。


「ヴィー坊、土を掘るのはもう一休みしてからでいいぞ。」


「うん、ちょっとね。爺ちゃん見ててよ。」


俺は穴の中で、魔素の土を袋に一杯に詰めた。

それを5つほど作り、爺ちゃんの前に並べた。

それから、じいちゃんにあげた麻袋の中に、一つづつ入れていく。


「こりゃぁ……。」


へへっ、じいちゃん驚いてるな。

麻袋は、大きな袋が五つも入っているとは思えないほどペラペラだ。


「ほら、じいちゃん持ってみて。」


そう言って麻袋をじいちゃんに手渡した。


「何と、全然重くないぞ。入れた袋はどこに行ったんだ?

さてはいつものマジックだろう。」


「やだなぁ、違うよ。

これはジュリアさんが持っているボックスと同じような奴。

あの土入りの袋は、ちゃんとその中に入っているんだよ。」


爺ちゃんは信じられないと言うような顔で、袋の中をのぞいている。


「やっぱり中には何も入っていないぞ。」


「ん~、じゃあさ、その袋の中に手入れて、

さっきの袋を思い出しながら中の物を引っ張り出してみて。

ただ袋から出すと、途端に重さが掛かるから気を付けてよ。」


俺やジュリは重さなんかはへっちゃらだけど、

普通の人はそうもいかないだろうから、ちゃんと言っておかないと。

そして爺ちゃんは次々と、面白そうに麻袋から土の入った袋を出して行く。


「おお、これはすごい!」


「それと、見ていて分かったと思うけど、大きい物も、

吸い込まれるように入るから大丈夫だよ。」


「これはすごいなぁ。こんないい物を貰ってもいいのか?」


「うん、買った物じゃないから、気にせずどんどん使ってよ。」


何たって、爺ちゃんの為に持って来たんだ。

使ってもらった方が俺も嬉しい。


「ありがとう、遠慮なく使わせてもらうよ。

これが有れば仕事もずいぶん楽になるな。

帰りの荷物の事は考えなくていいし、

そんなに沢山入るんだったら、今まで何日にも分けて持ち帰っていた土を

一度に持って帰れるな。助かるよ。

私ももう年だし、無理は出来なくなっていたからな。」


そう言いながら、再び土の袋を麻袋に入れていく。

そうか…、爺ちゃんも大変だったんだな。

良かった。

袋をあげられて本当に良かった。


「爺ちゃん、スコップやお弁当なんかも麻袋に入れておけば、

すっごく身軽でいいんだからね。」


「そうか!そうだな。本当にいい物を貰った。ありがとうヴィー坊。」


「ただね、中に入れたものは忘れない方がいいよ。

じゃ無いと中に入れたまま、置きっぱなしになっちゃうからね。」


おお、成程なと爺ちゃんは納得している。


「ヴィー、まさかと思いますが、ずっとその方法で収納を使ってきたんですか?」


「うん。他に使い方あるの?」


俺が知る限り、と言うか、これを何世代も使って来たけど、

他のやり方なんて知らない。


「設定すればもっと便利に使えるのですよ。

中に入っている物を把握するのが、今まで大変じゃなかったですか?」


「ええと、確かに中に入っている物を全部覚えていられないから、

ノートにメモをしている時も有ったな。

結局メモするのが面倒くさくて止めちゃったけど。」


「は~~、やはりあなただけありますね……。

トクゾーさん、その袋の中に利き手を入れて、オープンと言ってください。」


トクゾーじいちゃんは、言われた通りに右手を袋に入れ、オープンと言う。


「何だこれは……、粘土入りの袋5袋と書かれているぞ。見えるかヴィー坊。」


「…見えない。」


「それは今、あなた専用の物と認識されました。

それと、そこに書かれている一覧はあなたにしか見えませんし、

その麻袋はあなたにしか使えません。

これからは明細を見て、出したい物を確認してから取り出せますよ。」


「すごーい!じゃあ、僕のもそんなふうにできるの?」


「できるはずです。今まで知らずに残念でしたね。

早速やってみますか?」


「うん!」


俺はさっそく空間に丸を書き、手を差し入れてから


「オープン。」


と言った。

とたんに現れる膨大な品物の一覧表。


「きりがない……。」


まさかここまで入っているとは思わなかった。

だって俺、このルーブビアル遺跡、ルーブビアル王朝=王の宝冠なんて知らない。

この7年間で行った覚えも、入れた覚えも無いのは確かだ。

一体いつの俺が入れたんだ?

全然覚えてないぞ。


「どうしたのですか?」


「いや…、後で話す…。」


収納から手を出せば、全ての文字は消えていた。


これって、俺の場合一覧を見ても、

品物名を検索するだけ大変で、

大して役に立たない機能じゃないか?と密かに思った。

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