転生者は無敵! …転移者の俺が転生を繰り返した結果だけどね…
はねうさぎ
第1話 サンサーラ
この世界、前世の記憶を持つ者がごく稀に生まれるんだ。
それをサンサーラという。
生まれると言ってもせいぜい1前世、多くても2前世が普通だ。
だがそれ以上の記憶を持って生まれる者も稀にいる。
前世での能力は今世代にも引き継がれるのが当たり前。
たとえば前世が大工だったとしよう。
その者は生まれ変わると前世の大工の知識、能力が受け継がれる。
しかし前世で棟梁ぐらい実力があった者と、下働きだった者では、
やはり今世での能力に差が出る。
だから下働きだった者は今世ではその知識を生かし、
さらに高い地位、
棟梁をめざし精進する。(その方が金が稼げるからな。)
しかし中にはいろいろなスキルがあった方がいいと、新たな職業に就く者もいる。
ただ、前世の能力が発揮できるのは、その時の状況によって違う。
考えてもみてくれ、赤ん坊に金づちは振れないだろう?
サンサーラが生まれる確率は、
そうだな、約200,000人に1人ほどと言われている。
気が付いているかもしれないが俺もサンサーラだ。
名はヴィクトリア=オブラエン、この名は今世での名だ。
話は戻るが、俺は幸運な事に、今のところまずいない8前世持ち。
まあ1回目の俺は厳密にいえば転移者だった。
あの時はかなり落ち込んだなぁ。
いきなり全然知らない世界に放り込まれたんだから。
しかし、嘆いてばかりはいられないから、何とか乗り切り(流されたとも言うが)悔いの無い一生を終えたと思ったら転生していた。
なぜこうなったのかは俺にも分からない。
単に運が良かったからかもしれない。
俺は前世を持っていることは公言はしていない。
サンサーラとして生まれた者は、
ほとんどの奴がその事実を隠して生きているはずだ。
その能力に目を付けられ、利用しようと付き纏われるのは目に見えてる。
親や兄弟にも秘密にしている者は多いと聞く。
そして俺は今、ただ一人で冒険者をしている。
過去で得たスキルや経験を生かしながら、手っ取り早く金を稼げて、
面白そうなものと考えて冒険者に行きついた。
だって、冒険者なら、自分の能力を使って思いっきり暴れられるだろう?
力は筋肉など肉体に比例することが多いが、
技を伴うものは、体格を気にしなくても結構平気。
騎士をやっていた事もあったので、体伎や剣技は得意分野だ。
おまけに魔導師をやっていたこともあり、一応ほとんどの魔法も使える。
俺ってかなり最強!
で、現在ブルガルドのダンジョンでグレートビースト相手に戦っている所だ。
俺は他人に自分の事を知られないよう単独で行動している。
相手にしている魔物は3頭、
まあ楽勝の範囲内だな。
案の定10分もすると決着がついた。
落ちていたアイテムを拾い、入り口を見ると数人の男が
口をあんぐりと開け、こちらを凝視している。
やべ!時間かかり過ぎたか?待たせて申し訳ない。
俺は軽く会釈をすると次のステージに向かった。
そうそう、言い忘れていたが、俺は9回目の生を受けてから7年経った。
つまり外見は7歳の子供だ。
しかし、何と言っても過去8回の記憶が有ると言う事は、
もう数えきれないほどの歳を重ねてきた訳だ。
(平均50歳として、×8で400歳だ。
もちろんそれ以下、もしくはそれ以上生きた時も有る)
もう数えるのにも飽きて、いったい通算何歳かなど覚えてはいない。
でも、それは生きて活動していた年月の事。
あの世で転生するまで眠っていた時間もあるから、
だから最初の記憶からいったい何百年たっているかわからん。
そういえば、このダンジョンに潜るのもたしか5回目の筈だ。
進化した奴もいるが、たいてい潜んでいるのは同じ種類の魔物。
クリアしない方がおかしい。
しかし油断は禁物、
せっかく過去8回の能力が有るのに、それを7年で終わりにするのは惜しい。
何せ今回の転生で打ち止めの可能性は大いに有るのだから。
さて、このダンジョンも無事制覇し、今はダンジョンの出口に来ている。
おお、今日は何て気持ちの良い天気なんだ。太陽が眩しい。
しかしどうしたもんかな?
年齢や今世の経験のせいで、俺は今Fランク。
最低ランクがGだから、新米レベルも同然だ。
通常Aランクの冒険者でも、制覇するには10日はかかると言われているここを
わずか3日で出てきてしまったのでは、やはり変に思われるだろう。
ダンジョンに潜る際は、ギルドに届出を出すが、
その際受付のお姉さんは、
たいそう俺を心配して、潜るのを考え直すよう言われた。
まあ、7歳の子供が単独で潜るのだから、反対するのは当たり前か。
しかし俺もランクを上げなければならないから、実績を作らなければならない。
いちいち忠告を聞いていたら、何時までたってもFランクのままだ。
「無理はしません。危険と分かったらすぐ戻りますから。」
そう言って出発した。
まあ結局は3日で踏破してしまったのだが、誰も信じてくれないだろうな。
獲得したお宝も現金にしたいけど、
今日ギルドに行っても絶対変に思われてしまうだろう。
中には最下層でしか取れないお宝もある。
それはかなり高価だから、ぜひ売りたいんだ。
何日か時間つぶしてから、ギルドに行くかぁ。
そう考えている俺に、悲痛な女の泣き声が聞こえた。
「お願い死なないで!
ここから出てきたら結婚しようと言ったじゃない。
愛しているわ、お願い目を開けて。
もう一度私に笑ってみせて。
お願い死なないでよ~。」
泣き声のする方に目を向けると、
女が血まみれになり横たわる男にしがみつき、泣きじゃくっている。
男は多分ダンジョン内で魔物にやられたんだろう。
周りには、ぼろぼろになった男達が佇んでいる。
普通だったら、できるだけ見て見ぬふりをする俺だが、
あまりの悲しそうな女の泣き声を聞き、その方向に足を向けてしまった。
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